第44話 思いがいっぱいな女の子


 一限目の中休み、俺が次の授業の準備をしていると勅使河原さんが

「京之介様、色々教えてくださいね。楽しみにしています」


 そう言っていきなり俺の手を掴んで来た。それを見ていた有栖川さんが

「あなた、何をするの?」

「何?あなたは誰?私は京之介様とお話しているだけよ」

「早瀬君の手を触っているじゃないですか」

「なんで?私と京之介様の間だもの。こんな事当たり前です」


 流石に俺はその事を聞いて

「勅使河原さん、いきなりこういう事は止めよ。俺も驚いたから」


 そう言って勅使河原さんの握っていた手を離すと

「でもう」

「とにかく、急に手とか握られるのは苦手なんです。止めて下さい」

「分かった」


 ちょっとだけシュンとしたけど、

「分かりました。急にはしません。事前通告してからにします」


 なんじゃそりゃ?


 有栖川さん、古城さん、夏目さん、杉崎さんの厳しい視線が勅使河原さんめがけて飛んで来ているけど勅使河原さんがそれを押し返す様に見返した。アニメならビーム砲の集中砲火を中和シールドで防いでいる様相だろう。感心していると


「京之介様、転校して来たばかりの私をなんで皆が苛めるんですか?」

「いや、そんな事は無いと思うのだけど…」


 今度はさっきの四人が俺を睨んで来た。俺が悪いの?


 二限目の中休みも三限目の中休みも同じような状況だった。この子初日からこんなんで良いのか?


 そして昼休みになり

「智、学食行くか?」

「おう」


 俺が席を立とうとすると

「京之介様、私も連れて行って下さい。何処か分からないんです」

「分かりました」


 また、周りの視線が痛い。


 ふふっ、やっぱり京之介様はモテていたか。当たり前です。でもこの程度の子達なら相手にしなくてもいいわ。容姿も頭脳も私の方が上。所詮烏合の衆。


 §有栖川

 なんて人なんでしょう。でも不味い事になりました。京之介さんから引き離さないと。例え京之介さんがその気が無くても周りに既成事実を認知させてしまう。


 §古城

 なにあれ。いきなり転校してきたと思ったら早瀬君の彼女面して。何としても邪魔してやる。


 §夏目さん

 いきなり転校してきたと思ったらなんて子なの。とにかくあの子の好きにはさせないわ。


 §杉崎

 この様子だとこの子も有栖川さんと同じで早瀬君に助けられた子か。面倒だな。思いの後ろにあるものが私達と違い過ぎる。

 有栖川さんはどう出るのかな。漁夫の利は流石に無いと思うけどチャンスはある。



 私は京之介様に案内されて学食迄来たけど廊下を歩いている時、すれ違う人達から思い切り見られた。


 まあそんな事は慣れているけど取敢えず私に対抗出来そうな子は今の所居ないわね。ちょっと気になる事も有るけど。


 俺は智と一緒に勅使河原さんを学食に連れて来ると、

「今並んでいる先にチケットの自動販売機がある。ガラスケースの中にサンプルがあるから参考にするといいよ」

「分かりました。京之介様のお勧めは?」

「俺は唐揚げ定食かB定食。女子はヘルシーなA定食とか選んでいる。他にカレー、うどん、蕎麦、ラーメンとか天丼、ミニ唐揚げ丼とかある」

「ありがとうございます。良く分かりました。では京之介様お勧めのA定食にしましょう」

 俺勧めた覚え無いんだけど?


 京之介さんに連れて来て貰った学食、男女兼用という事も有るけど前の高校とは違い過ぎる。


 あそこは女子だけだから女子に配慮した食事多いけどここはそれが極端に無い。まあ、京之介様と毎日一緒なら我慢して食べれる。


 俺はB定食。勅使河原さんはA定食を選んだ。カウンタで受け取って智と碧海さんが待つテーブルに行く。


 近付くと碧海さんがちょっと驚いた顔をしている。テーブルにトレイを置いて座ると

「碧海さん、こちら今日転校して来た勅使河原紫苑さん」

「勅使河原紫苑です。宜しくお願いしますね。碧海さん」

「碧海弥生です、こちらこそ宜しくお願いします」


「京、俺の紹介は」

「そう言えばしてなかった。こちら俺の中一からの親友で田中智也」

「宜しくです。勅使河原さん」

「こちらこそ宜しく、田中さん」


 なんだ普通に挨拶できるじゃないか。教室のあれは何だったんだ?


 京之介様と仲のいい人達とは私も仲良くしておかないといけないですから。


 四人で一緒にお昼を食べた後、俺と勅使河原さんは智と碧海さんより早く学食を出た。校内を案内する為だ。


 先に移動教室を見に行こうとしながら

「あの、勅使河原さん。俺と以前会ったって言っていましたけど?」

「酷い、私を忘れるなんて!でも二年以上経っていますからね。覚えていませんか?京之介様は、私が友達と一緒に巫女玉川の河川敷で遊んでいて川に落ちて流されそうになった時、洋服を着たまま飛び込んでくれて助けてくれた命の恩人です。


 あの時は気が動転していて友達が呼んでくれた救急車に乗せられて病院に連れて行かれましたけど、あなたの顔はしっかりと覚えています。でも警察にお願いしても名前しか教えてくれなくて。


 だから両親とも一緒になって何とか捜し出そうと思っていたのですけど…そうしたら見つけたんです。


 全国高校一年生模試一位に京之介様と同じ名前が有ったんです。ですから私、本当に京之介様か確かめる為に去年の秋、駒門高校の校門で朝から待っているとあなたが来たのです。私が駅に帰る時、意図的にギリギリにすれ違ったの覚えていませんか?」


「あの時の!」

 確かにあの時どこかで見覚えがある子だとは思っていたけど。


「ふふっ、覚えていてくれて嬉しいです。京之介様」


 いきなり俺の腕に絡みついて来た。周りの生徒が驚いている。


「ちょ、ちょっと勅使河原さん」

「いいではないですか」

「駄目です。離して下さい」

「もう、いいじゃないですか。それから紫苑って呼んで下さい」

「あのここは学校です。名前呼びは駄目です」

「この高校にそんな校則は無かったと思いますが」

「そうですけど」


 結局、校内案内どころではなくなっていた。


 そして放課後になり俺が生徒会室に行こうとすると

「京之介様、一緒に帰りましょう」

「残念ですけど出来ません。俺これから生徒会室に行かないといけないので」

「生徒会室?」

「俺、庶務しているんです」

「えっ、では私も生徒会に入ります」


「それは出来ないですよ。勅使河原さん」

 いきなり有栖川さんが口を挟んで来た。


「なんで?私が手伝いたいと言えば良いんじゃないの?」

「それは無理です。生徒会役員は生徒会長が決めます。個人の意見は通りません」

「じゃあ、通すわ」

「勅使河原さん、生徒会役員は人数が決まっています。それは出来ないですよ」

「じゃあ、生徒会長に会わせて下さい」

「それなら私も」


 勅使河原さんが無理押しで付いて来た。何故か有栖川さんも一緒だ。


 §夏目

 何で有栖川さんがあそこまで早瀬君の事を…。まさか!


 §古城

 有栖川さん、公にするつもりかしら?


 §杉崎

 ふーん、有栖川さん。勅使河原さんを出汁にして早瀬君との関係を公にするつもりね。上手く行くかな?



 俺は生徒会室に連れて行き、小手川生徒会長に会わせたけど、やっぱり簡単に断られ二人共帰って行った。


 §小手川

 今、京之介様が連れて来た勅使河原紫苑ていう女の子、明らかに何かおかしい。あの高校からうちの高校に転校して来た理由もあいまいだ。そして京之介様への態度。まさか京之介様を…。これは愛理様に連絡しないと。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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