第45話 このままではいけません


 新学期は、三学期の時の様な忙しさは無くなった。部活への多少のフォローはあるが、そんなに忙しくはない。


 陽が暮れるのも遅くなって来たので、詩織さんを送って行くという事もしなくなったのだが、何故か俺は毎日一番最後まで生徒会室に残されて、二人だけなると


「京之介様、今日はどの様に過ごされたのですか?」

 なんて聞いて来る。まるで俺の養育係の様だ。実際は生徒会長の権限で俺を最後まで残して二人で話をしたいのだろうけど。


 だから、最終下校を知らせる予鈴が鳴ってからいつも十分から二十分は、色々話している。

 そして一緒に生徒会室を出て駅まで一緒に行くのだけど、部活の人は俺達が生徒会の人間だと分かっているので何も気にしていない。


 多分、週末会う事が出来ないからこういう事しているのだろうと思っている。奈央子さんの事はあるけど、生徒会の仕事が終わった後、一緒に下校するのだから問題ないだろうと考えている。


 その奈央子さんだが、勅使河原さんが転校して来た日の夜、やっぱり掛かって来て開口一番


『京之介さん、あの人は誰なんですか。あんなに馴れ馴れしくして悔しいです。私も皆の前で同じ事したいのに』

『奈央子さん、落着いて下さい。あの人は…、中学二年の時、川でおぼれている所を助けた人です。それだけの事です』

『京之介さんはそう言いますけど、彼女にとっては命の恩人ではないですか。だからお水の茶女子大学付属高校を辞めてまで転校して来たんです。このままではあなたが奪われてしまいそうで心配で心配で』


 またこれかよ。なんでこの人自分に自信ないんだろう。俺も好きだと言っているのに。


『奈央子さん、いつも言っていますけどもっと自分に自信を持って下さい。俺は奈央子さんが好きだと言っているじゃないですか』

『でも小手川さんだってどう見ても京之介さんの事を好きなんです。彼女だけでも大変なのにここに来て新手まで出て来て、私…もう皆の前で京之介さんとの関係を話したいです』


 気持ちは分かるが、益々不味くなる。今は小手川さんと俺の事は誰も知らない。勅使河原さんは一方的に騒いでいるだけだ。

 でもここで奈央子さんとの関係を公にするのは、今の状況を悪化させるしかない。


『奈央子さん、落着いて聞いて下さい。小手川さんが俺をどう思っているかなんて誰も知らないし、勅使河原さんだって一方的に俺に近付いてきているだけです。今迄と何も変わりません。


 今ここで奈央子さんと俺の関係を公にすれば、余計な混乱を招くだけです。奈央子さんと俺にとって何のメリットもありません。ここは今までの様にしていて下さい』


『それなら、この心の不安を取り除いて下さい。今度の日曜日私を思い切り抱きしめて下さい。そうすれば安心できます』

『奈央子さん!』


 俺は、奈央子さんの話を聞いてつい大きな声を出してしまった。彼女の方から声が聞こえなくなっている。


 京之介さんは、私だけと言っていますけど、でもそれならなんで抱いてくれないの。思い切り彼の腕で抱き締められたらこんな事言わずに済んでいるのに。


『奈央子さん?』

『はい』

『済みません。大きな声出して。日曜日抱き締めるのは良いです。俺も嬉しいです。でも最後まではしませんよ。今は我慢する時です』

『いつまで我慢すればいいのですか。ずっと、ずっと、ずっと我慢をしなければいけないのですか。終りの見えない我慢は辛すぎます!』

『奈央子さん』


 それから、彼女は通話を切った。確かにただ我慢しろではいけなかった。せめて区切りを言うべきだった。でもその区切りが今の俺には見えない。直ぐに掛け直したが、話中だった。



 §愛理

 詩織ちゃんから面倒な子が転校してきたと連絡が有った。京之介にやたらと迫っているというのだ。名前を聞いて私は驚いた。勅使河原紫苑。京之介が中学二年の時巫女玉川で溺れている所を助けた子。


 なんで、弟の居場所を知ったのか分からなかったけど、やはり嗅ぎつけて来たか。どんな子か知らないが、素性も性格も知らない子を弟に近付ける訳にはいかない。


 そして隣の弟の部屋では弟が珍しく大きな声を何度か出している。相手は有栖川さんで間違いない。ライバルが現れたと思って不安で掛けて来たんだろう。後で聞いてみるか。



 次の日、智と碧海さんと一緒に登校して教室に入ると直ぐに勅使河原さんが声を掛けて来た。

「京之介様、おはようございます。今日も校内の案内宜しくお願いしますね」

「おはよう、勅使河原さん。分かりました」


 その後、古城さん、杉崎さん、夏目さんが声を掛けて来たけど奈央子さんが掛けて来ない。昨日の事怒っているのかな?


 俺はこちらを向かない有栖川さんの背中に

「おはようございます。有栖川さん」


 えっ、朝の挨拶をしてくれた。悦ちゃんの言っていた事は本当だったんだ。私は直ぐに後ろを向いて直ぐに朝の挨拶をした。

「おはようございます。早瀬君」


 有栖川さん、思い切りの笑顔で笑ったよ。昨日の事はもう大丈夫なのかな?


 京之介様の前に座る有栖川って女の子、何かおかしい。綺麗な子だし、このクラスに居るのだからそれなりに頭は良いのだろうけど。


 それに今の態度。昨日の私への態度といい…。そうかこの子京之介様に気があるんだ。でもあんたなんかに渡さないわよ。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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