第46話 有栖川さんの態度が変わった


 私は、京之介さんとの通話が終わると直ぐに悦ちゃんに連絡をした。そうしたら

『勅使河原紫苑が居なくなったと思ったら早瀬君を追いかけて行ったんだ。なるほどなぁ。でもあの子と彼との関係は分からないなぁ。


 奈央、あの子はうちの学校の中でも頭がいい方よ。多分学力では奈央が負ける可能性が高い。それがきっかけで別な事で変な意地の張り合いはしない様にね。


 それと奈央、厳しいかも知れないけど学校の中だけでも早瀬君に対しては冷静でいなさい。

 今ここで奈央が目立っても何の利益も無いわ。むしろ早瀬君との関係を疑われるだけ』


『でも私と京之介さんの関係を知っている人がいます』

『その人達は、奈央と彼の事認めているんでしょ。私が言っているのはその他の子達よ。分かった、彼に対して静観する位の気持ちで居なさい。それを理由に日曜日に甘えればいいじゃない』

『分かった。悦ちゃんありがとう』


 悦ちゃんからそれを聞いた翌日、私は京之介さんが席に座った時、振り向きたくて仕方なかったけど我慢した。そうしたら京之介さんの方から挨拶をしてくれた。


 私は嬉しくて振り向いて思い切りの笑顔で挨拶を返した。やっぱり悦ちゃんの言っていた事は本当だったんだ。


 でも静観するのは苦しい。せめて普通に話したい。あの子が変に京之介さんとの関係を強調出来ない様にしたい。



 四月の第三週の月曜日に模試が有った。終わった翌日、勅使河原さんが

「京之介様、模試は如何でした。また一位ですよね。私はとてもそこまで行けないですけ京之介様の近付く為に頑張ります」


-えっ?勅使河原さん今なんて言ったの?

-早瀬君が全国模試一位だって。

-え、え、ええーっ!

-早瀬君が一位!

-もう早瀬君以外考えられない。


 要らぬ事を言うからまた騒がれた。

「勅使河原さん、こういう所でそういう事を言うのは止めて下さい」

「でも、事実だし…」

「とにかくそういう事は言わない様に。本当に怒りますよ」

「でもう」


「京、今勅使河原さんが言った事は本当か?」

「本当だけど、まだ他の人が全力を出してないだけだ。俺なんか直ぐに埋もれるさ」

「しかし、お前という奴は。だからこの学校の考査は満点なのか」

「智、その話止めよ」

「そだな」


 §有栖川

 勅使河原という子はとにかく自分と京之介さんが近いという事を皆にアピールしたいようだけどそれが今回は裏目に出た。この子自滅するかも。悦ちゃんの言う通りここは変に反応しないで静観が良いみたいですね。



 おかしいな。いつもなら奈央子さんが反応するのに。でもこうしたくれた方が俺にとってはいい。


 

 お昼休みになり

「京、行くか」

「おう」


 何故か、勅使河原さんが付いて来る。転校してきて以来ずっとだ。しかし、この子なんで他に友達作ろうとしないんだろう?



 いつもの様にチケットを買ってカウンタで定食を受け取った後、智と碧海さんの所に行った。

「お待たせ」

「おう、弥生ちゃん食べようか」

「うん」


 勅使河原さんも当然の様に俺の隣に座って来る。俺の隣は杉崎さんが一回座った位だ。だから周りの生徒が不思議そうに見ている。ただその視線はどちらかと言うと妬みや嫉妬という感じで好意的な雰囲気はない。


-あの子何なの。京様の隣に毎日座っているけど。

-転校して来た子らしいよ。

-ふーん、可愛くないわね。

-私もそう思う。


 どうやら雰囲気は良からぬ方向に動きそうだ。

「勅使河原さん、女の子の友達と食べたりしないんですか?」

「ここに来てまだ五日目です。中々出来ないです。それに私には京之介様が居ますから」

「そうは言ってもずっとそういう訳にはいかないでしょう」

「私は構いませんけど」


 駄目だこの子。でも何とかしないと。二年になって少しは静かに過ごせるかと思ったらまさかこの子が転校して来て、賑やかになってしまった。


「勅使河原さん、食事終わったら少し話しませんか?」

「はい」

 ふふっ、嬉しい。京之介様が誘ってくれた。



 食事が終わった後、智と碧海さんに先に戻ると言って勅使河原さんと一緒に学食を出た。連れて来たのは校舎裏の花壇の前のベンチだ。


「へーっ、こんな所もあるんですね」

「ええ、園芸部の人が手入れしてくれています。ところで話なんですけど」

「はい」


「教室で執拗にくっ付いたり、皆が知らない俺の事を平気で言うの止めて貰えませんか。俺は高校生活を静かに過ごしたいんです。さっきの模試の事も普通の人は知らない筈です」

「でも、私は京之介様に少しでも近付きたくて」

「その京之介様も止めて下さい。同じクラスの子から様付されて呼ばれる俺の身にもなって下さい」


 私は、京之介様がもっと好意的に私を受け入れてくれると思っていた。確かにモテているけど、私とこの方の関係は周りの人とは違う。だからあの時の様に優しく抱きしめてくれると思っていたのに。


「京之介さん、私、転校して来ない方が良かったのですか。私、邪魔なんですか?」

 うわっ、いきなりこれかよ。


「違います。勅使河原さんが、俺を知ってここに転校して来た事は嬉しく思います。でもだからと言ってあなたを特別扱いする気も無いし…。俺としては普通の友達としていてくれたらいいと思っています」

「京之介様、私はあなたが好きです。あなたが居なければこの世に居なかったかも知れません。だから私の一生をあなたに捧げたいんです」

 どこかで聞いた様な事を言い始めたぞ。


「だから、もっともっと京之介様と一緒に居たいんです」

「気持は分かりますけど、高校生の間だけでも静かに接して下さい。他の人が知らないような事は一切皆の前で話さないで下さい」

「…分かりました。あの二人だけの時は京之介様と呼んでもいいですよね」

 なんか、また聞いたような事を言っているぞ。でも二人だけの時なら。


「二人だけの時ですよ」

「はい。京之介様」

 ふふっ、京之介様は、高校の間だけと言った。という事は同じ大学に入ればもう遠慮しなくていいんだ。


 昼の休みの終りを告げる予鈴が鳴ったので、急いで教室に戻った。これで静かになると良いのだけど。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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