第10話 女の子は難しい
俺は智と別れてから一度本屋に寄る事にした。夏休みはまだまだあるし、読書感想文という面倒な宿題も残っている。
流石に今回は杉崎さんと会う事は無いだろう。トドールを出て直ぐに右に曲がって電車の駅のあるタワービルの地下にある本屋に行った。
流石にいつも読んでいるラノベの感想文という訳にはいかない。司馬遼太郎とかその辺にするか。歴史本だったらいいかもしれない。
俺は本屋さんに入って最初に司馬遼太郎のコーナーに行って感想文が書き易そうな本を何冊かめくって見て、四国の長曾我部氏の歴史本選んだ。ちょっと厚いけど結構面白そうだ。
それからラノベのコーナーの方に行こうとすると
「早瀬君」
ここの本屋は良く声を掛けられるな。振り返るとそこには俺が諦めた人が立っていた。
「有栖川さん」
「早瀬さん、一人ですか?」
「はい、有栖川さんは?」
「私は友人と一緒です」
「そうですか」
多分恋人なんだろう。
「この後何か予定でも入っていますか?」
「特に入っていないですけど」
「では、昼食でも一緒にしませんか?」
「えっ、でも友人と一緒なんですよね。俺邪魔じゃないですか?」
「大丈夫です。ちょっと待って下さい」
一度、目の前から消えて直ぐに戻って来た。女の子を連れている。髪の毛が肩まで有って目が少し鋭い女の子だ。
「私の友人の四宮悦子(しのみやえつこ)さん。悦ちゃん、こちら早瀬京之介さん」
「初めまして四宮悦子です」
「早瀬京之介です」
「悦ちゃん、いいかな早瀬君と一緒で」
「私は構わないわよ。むしろ嬉しい位よ。奈央の心の…モガモガ」
いきなり有栖川さんが四宮さんの口を押えた。どうしたんだ?
「早瀬さん、この子、直ぐに調子に乗るのでごめんなさい」
「だって奈央が…」
「悦ちゃんそれ以上は言わないの!」
「…分かった」
「じゃあ、俺ちょっとこの本買って来るんで」
「ここで待ってます」
早瀬君が会計に行くと
「悦ちゃん。言っちゃ駄目じゃない」
「だって、彼の事大好きなんでしょ。告白しちゃいなさいよ。ここで会ったのも何かの縁よ。
この前のプールの時も一緒だったじゃない。かっこいいし、奈央の彼氏にはぴったりだよ。それになにより奈央の…」
「お待たせ、行きましょうか」
なんか難しそう話していたな?
俺達は地上に出ると
「どこ行きます。渋山あまり知らないんです」
「奈央、宮益下のあそこに行こうよ」
「早瀬君、少し歩きますけど宜しいですか?」
本屋から歩いて十分ほどで着いた。距離的にはそんなにないが、とにかく人が多い。女子二人を気に掛けながら歩くとその位になってしまう。
二階のフロアにレストランが入っているけど何処も並んでいる。
「混んでますね」
「仕方ないです。並びましょうか」
十分程で入る事が出来た。店員に注文した後、有栖川さんが
「早瀬さん、何か本を探していたんですか?」
「はい、夏休みの読書感想文用の本を探しに」
「見つかりましたか?」
「これです」
有栖川さんに見せると四宮さんが
「うわぁ、この感想文書くんですか。私には出来なそう」
「そうでも無いと思いますよ。ある程度歴史に沿っていますし」
「やっぱり奈央から聞いている通りだわ。私とは頭の違いがはっきり分かる」
「有栖川さんから聞いている?」
「悦ちゃん!」
「良いじゃない。奈央」
「駄目です」
この二人何言っているんだろう。話が見えない。それに有栖川さんが俺の事、四宮さんに何か言っているのか?どういう事なんだ?
「ごめんなさい。気になさらないで下さい」
「…所で有栖川さん達は何しにあの本屋に?」
「奈央はラノ…モゴモゴ」
「ごめんなさい。この子、直ぐに訳の分からない事を言い出して」
また、有栖川さんが四宮さんの口を塞いだ。どうなっているんだ?
「悦ちゃん。プライベートな事は言わないの!」
「だってぇ…」
「私達もあの本屋に感想文を書ける本を探しに行ったのですけど良い本が見つからなくて。早瀬君、何か良い本ありませんか?」
「俺は、司馬遼太郎のラインナップで探したんですけど。ある程度史実に基づいた小説とかの方が感想文書き易いかなと思って。
ノンフィクだと感想が批判になりそうだし、リアルに小説だと選ぶのが難しいかなと思って、これ選んだんです」
「そうですか。私もその線で探してみようかな」
そんな話をしている内に注文の品が届いた。
有栖川さんの話によると四宮さんとは中学時代からの知合いで残念ながら四宮さんは俺達とは同じ高校には入らず女子高を選んだらしい。
この前のプールで会ったのは有栖川さん達も夏休み前から計画していたらしく全くの偶然だったようだ。
そして四宮さんがやたらと俺の事を聞いて来る。趣味はなんだとか、普段休みは何しているのだとか、この夏休みはどんな予定があるのとか。確かに有栖川さんの言った通りだな。
初対面の男子にこんなにプライベートな事聞いて来るんだから、変わっている。無神経とは言いたくないけど。
そして最後に何故か
「ねえ、早瀬君、奈央の友達になってよ」
「えっ?!」
「はっ?!」
四宮さん、いきなり何てこと言うんだ。
「同じ学校なんだしさ。奈央まだ友達出来ないみたいだし」
「いやいや、俺なんか有栖川さんとは不釣り合いすぎますよ。有栖川さんに迷惑が掛かるよ」
「そんなことないよ。とってもお似合いだよ」
何故か有栖川さんが顔を赤くしている。
「ねっ、奈央もそう思っているんでしょ」
彼女は顔を赤くして下を見ながらコクコクと頷いた。本当かよ。だって彼氏いるじゃないか。単なる友達のつもりなのかな。それならいいか。俺も嬉しいの本音だし。
「有栖川さんがいいなら喜んで友達になります」
「えっ!」
有栖川さんが顔を上げて思い切り驚いた顔をしている。なんで?
「本当に早瀬君、友達になってくれるの?」
「友達ならいいですよ」
早瀬君の言い方って…もしかしたら他に意中の人が居るのかな?分からないけど、取敢えず友達になれば、自然と分かる事だし、本当に好きな人が別にいるなら、友達だけの関係で居ればいい。いつかチャンスが来るかも知れないし。
「よかったね、奈央」
「うん」
なんか偉く爽やかな顔になった。ドキッとしてしまう。やっぱりこの人は綺麗だな。
「ねえ、早瀬君、友達になってくれたんだから、別の日に奈央と一緒に会ってあげてよ。あっ、そうだ。連絡先交換しよう」
「え、ええ」
これで俺のスマホに更に二人の女子の名前が追加されてしまった。
この後も三十分位話をした後、別れる事にした。有栖川さんと一緒に居れるのは嬉しいけど、胸がドキドキしてしょうがない。彼氏持ちの女の子なんだから好きにならないようにしないと。でも別れ際に
「早瀬君、後で連絡します。また会って下さい」
「はい」
本当に良いのかよ。俺彼氏に誤解されないよな。
早瀬君が、駅方向に向かって行った。
「奈央、やったね。第一歩成功だよ」
「悦ちゃん、ありがとう。私ならあんな事とても言えなかったわ」
「お礼は、進捗報告よ。早く恋人になりなさい。奈央が心に決めた人なんだから」
「うん、絶対になる」
「ふふっ、その調子」
――――
書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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