第11話 お姉ちゃんがヒントをくれた


 俺は、有栖川さんと別れて家に帰って来た。四宮さんのお陰で有栖川さんとスマホの連絡先を交換するまでになった。そして友達になりたいと言われた。


 俺にとっては憧れの人と友達になれるなんて嬉しくて堪らない…。お姉ちゃんと水着を買いに行くまではそう思っていただろう。


 あの時、有栖川さんは男の人と歩いていた。それも相当親し気に。昨日今日の付き合いで無い事は良く分かった。


 だから、嬉しいのだけど複雑な思いだ。有栖川さんはあんな素敵な彼氏がいるのになんであんなに恥ずかしそうな顔をして俺と友達になりたいと言ったんだろう。


 彼氏と上手く行っていないのだろうか。でもそんな事で直ぐに乗り換える様な考えを持っている人とは思いたくない。


 俺の事は顔見知りより少し親しい単なる友達のつもりでいるんだろうな。それと学校でどうするんだろう。友達だからってべたべた来るとはとても思えないし。


 一学期は目立ってしまったけど、この夏休みが冷却期間と思っていたのに学校内で彼女から声掛けられたら、また色々それも変な方向で誤解を受けるかもしれない。その辺聞いておいた方が良いかな。


 それと杉崎さんからも空いていたら会いたいと言われた。碧海さんが彼女はクラスの中で人気があると言っていたし。


 うーん、でも彼女だったら学校内で声を掛けられても友達だよで済むと思うからあまり難しく考えなくてもいいのだろうけど。


 彼女欲しいけど、どうなんだろう。やっぱり難しいなぁ。どうすれば知合い→友達→恋人になれるんだろう?中学の時だって知合い以上友達未満の内に相手に好きな人が出来てしまったし。




 それから二日経って家族で旅行する日が来た。この日はお姉ちゃんも一緒に行く。なんだかんだ言っても俺にとっては大切なお姉ちゃんだ。いくら受験生だと言ってもやっぱりこういう機会は大切にしたい。


「お母さん、愛理、京之介。忘れ物ないか?」

「「「ないよ」」」


「よし、出発するぞ」

「「「はーい」」」


 今、午前六時。これでも遅い位かも知れない。我が家は東名高速の入り口まで五分と掛からない。直ぐに乗れたのだけど、横浜辺りから渋滞に巻き込まれた。

「仕方ないな。お盆週間だからな」

「いいわよ。渋滞も旅行の内よ」


 そうは言っても足柄SAは人と車で一杯だ。仕方なくレストラン側に行かず、反対側のトイレで済まして直ぐに高速に戻った。


 行先は、西伊豆。毎年行っている海水浴場だ。湾状になっていて海の向こうに富士山が見えるという絶景の行楽地だ。



 それでも三時間半程で何とかホテルにたどり着いた。チェックインにはまだ早いので荷物をクロークに預けると皆で海岸に歩いて行った。


 天候は花曇りでギンギンに暑い日差しが注いでいる訳は無いが、お母さんもお姉ちゃんんも帽子を被って日傘を差している。四人共サングラスだ。紫外線は目に良くない。


「毎年来ているけど飽きないわね」

「うん、偶にはこういう綺麗な空気と景色を見ると脳が休まるのよ」

「へぇー。お姉ちゃんもそんな事考えるの?」

「当たり前でしょう。京之介も偶には脳科学の本でも読みなさい」


 全く読めません。お姉ちゃんは二年の内に高校の勉強は終わらせている。日本に飛び級制度が有って大学に行ければいいのだけど、そんな事は許されず一年間無駄とは言えないけど過ごしている状況だ。


 だから読んでいる本も高校生が読む本じゃない。とても専門的な本を読んでいる。勿論大学は推薦が決まっている。


 推薦と言っても試験が無い訳じゃない。二日に渡る五教科の試験の他、面談、口頭試問がある。俺なんかからすれば一般試験より難しいかも知れない。




 少し歩いて、海水浴場にある海の家で休んだ後、ホテルに戻った。アーリーチェックインだ。


 部屋は勿論一つ。お風呂は部屋風呂とは別に大浴場があるからとてもいい。取敢えず、部屋に荷物を置いた後、お父さんが

「外の食堂で美味しい海鮮料理を食べようか」

「「うん!」」


 こういう所だけはお姉ちゃんは子供な感じがして安心する。俺達は外のレストランというより食堂って感じのお店に入った。地元料理を食べたけど東京のお魚たちとは新鮮さが違う。当たり前だけど。



 それから、部屋に戻って俺とお父さんは海水浴、お母さんとお姉ちゃんは、一緒に来るけど海には入らずパラソルの下で見ているらしい。


 部屋の中でこの前お姉ちゃんと買った海水パンツを履くと

「あら、京之介良く似合っているわ」

「ありがとう」


 それ以外言えません。後は紺のラッシュガードを着て草履に履き替えて出発。ホテルの道路挟んだ前が海だからこの恰好でいい。


 海の家でパラソルと二基のボンボンベッドを借りてパラソルを立てて貰ったら早速お父さんと海の中へ。泳ぎは得意な方だが、お父さんも上手だ。


 海に張っているブイの所まで泳いで砂浜に戻るという事にした。大した距離ではない。



 京之介が、お父さんと一緒に海に入った。あの子の体は、贅肉のぜの字もない。腹筋は綺麗に割れて腕や胸周り、足回りは、今は筋肉を使っていないから細いが泳いできた後はしっかりと盛り上がっているだろう。


 小学校の時から頭が良くて、良すぎるから友達に苛められる事も有ったからお父さんの知り合いの道場に入れさせた。


 一年もしない内に苛めも無くなったみたいだ。でもそれがトラウマとなって本気を出して試験をしようとしない。


 勉強はしっかりとやっているのは分かるが、帰って来た答案用紙を見ると全問解答それも正答しているのに意図的にそれを消して点数を低くしている。


 いわゆる中の上に位置付ける為だ。先生に注意されたらしいが本人が消している以上点数の付けようがない。


 だから、私は事ある毎に京之介に真面目にやる様に言っている。駄目な時は皆の前でその事をバラしてもなんとかさせている。


 あの子は勉強が嫌いじゃない。予習復習の仕方も私に似ている。間違いない。だから私が見ていないと本来進むべき道を意図的にずらす可能性があるから同じ高校にさせた。


 私はもう三年生。私が居る間にあの子が優秀であることを他の生徒に知らしめて手抜きできない様にする事が私のやるべきこと。

 

 あっ、上がって来た。濡れた髪の毛をオールバックさせている。ふふっ、姉の私が見ても格好いい。お父さんもね。



 次の日は、お姉ちゃんもお母さんも水着には着替えた。お姉ちゃんはその辺のモデルよりはるかにスタイルがいい。その上顔も素敵だ。


 周りの男の人達がジロジロ見ているが流石に俺とお父さんが傍にいて声を掛けてくる馬鹿は居ないのが安心だ。

 

 昼は海の家で、そう何と言っても食べるのは海のラーメンと称する、浜辺だから食べられるラーメンとおでん、焼きそば、それにフランクフルト、お父さんはイカの刺身や牛筋も追加してビールを飲んで嬉しそうにしている。


 そして午後三時位には上がってまだ空いている大浴場でお父さんと一緒に入った。少し昼寝してから海の幸が盛りだくさんの夕食を食べた。家族四人で食べる食事は最高だ。


 次の日も同じ事をして楽しんだ。そして夜は定番の花火。最後の線香花火をしながらお姉ちゃんが、

「京之介、彼女候補いそう?」

「まだ分からない。そもそもどうやったら知合いから友達そしてそれ以上になれるか全く分からない。ただの友達なら中学の時も何人かいたけど」

「恋人になろうと最初から思っているからそうなるんじゃないの。最初はただの友達になってそれから気の合う子と次に進めばいいじゃない」

「うーん、簡単に言ってくれるけど難しいよ」

 

 俺はお姉ちゃんに彼氏の事は聞かない。だってお姉ちゃんに彼氏が出来るのは嫌だから。それに今の所興味無いみたいだ。多分違う目線なんだろうな。



 翌日はレイトチェックアウトという事でのんびりとホテルを出た。まだお盆週間中なのか来る時より早く家に着いた。



 彼女か、そんな事意識しないで友達から始めるのも確かだな。変に緊張しなくて済む。でも有栖川さんは友達止まりなんだろうな。


――――

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