第12話 杉崎さんと二人で会う
この12話と次の13話いつもの倍に近い長さがあります。
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俺は家族旅行から帰って来てから三日間読書感想文の本を読んだ。結構な読み応えが有って、とても楽しくて四国の長曾我部氏の考え行動はたいへん参考になるものだった。
それだけに自分で勝手に盛り上がって感想文が長くなりすぎたので、書き終わった後、要点に絞ってまとめた。
それでも五千字を超えた。まあ、問題ないだろう。そう言えば藤堂先生って藤堂高虎の末裔かな?そんな訳ないか。
夏休みも後、十日間。来週からは道場も始まる。夏休みだから土日という考えはないけど土曜日は久しぶりに稽古に行こう。
それとだ杉原さんと会ってみるか。彼女の事何も知らないからその辺を少しずつ教えて貰うのもいいかもしれない。俺の事も話しつつさ。
後、有栖川さんの事。あれだけ四宮さんがプッシュしてくれて有栖川さんが友達になってもいいって言ってくれたんだ。
単なる友達にしかなれないかも知れないけどいいや。あんな素敵な人と話せるんだから。あと学校内での事も確認しておかないと。
その日の夕方、俺は杉崎さんに連絡した。
私は、自分の部屋で好きな本を読んでいた。その時だった。スマホが鳴った。画面を見ると、えっ!早瀬君だ。連絡くれたんだ。直ぐにタップした。
『もしもし、杉崎さん?』
『はい、杉崎です。もしかして早瀬君?』
『はい、もしかしなくても早瀬です』
『あははっ、面白い。ところで連絡くれたって事は…』
『うん、杉崎さんの都合のいい時に会いたいなと思って』
やったぁーっ、早瀬君からデートの申し込みだ。ここは冷静に。
『私も会いたかった。いつでもいいよ』
『じゃあ、明後日会いますか?』
『早瀬君、明日は何か用事があるの?』
『ううん、今日の明日では失礼かなと思って』
『そんなことないよ。明日会おう』
『了解。何処で待ち合せします。杉崎さんの都合のいい所でいいよ』
うちの周りには何も無いし、かといって渋山とかではね。
『ねえ、いきなりだけどせっかく会うならイベント付きにしない。そっちの方が話し弾むかなと思って』
『イベント付き?』
『うん、この前プールに行ったでしょ。あそこの遊園地に行くのはどうかな?』
また、いきなりだな。でも喫茶店に入ってにらめっこするよりいいかもしれない。
『分かった。そうしようか。じゃあ、現地待合わせでいい?』
本当は私の家の最寄り駅が良いんだけど。
『うん、それでいいよ』
私はスマホの通話を切った後、お母さんに直ぐに明日出かける事を話した。誰と行くのかと聞かれたので、友達とだけ言っておいた。上手く行けばその先もあるかもしれない。
問題は洋服だ。この前のプールの時水着で印象付け出来たけど、彼はあまり興味を示さなかった。だから私の印象を彼の頭の中に何回も刷り込まなくてはいけない。
行く場所が遊園地なのでパンツスタイルの方がいいけど、それではアピールが薄い。だから薄茶色のミニ丈のスカートと白色のちょっと喉元緩めのTシャツにした。
足は動きやすいようにスカート同じ色のかかと付サンダル。こんな感じかな。早瀬君ってどんな感じで来るのかな?カッコいいからなんでも似合うか。
俺は、杉崎さんと遊園地に行く約束をしたその日の夕方、パートから変えて来たお母さんに話して、お小遣いを補助して貰った。手持ちでは足らなくなるのが見えているかだ。
でも、誰と行くのと聞かれたので、この前プールに一緒に行った杉崎さんと言ったら、今度うちにつれて来たらと言われた。
今の杉崎さんと俺との間は、まだこれから知り合う感じと返しておいた。
遊園地までは乗換えを入れると一時間半弱だ。待合せは午前十時だから午前八時過ぎに出れば、杉崎さんより先に着いて待っている事が出来るだろう。
次の日は朝ご飯を食べた後、予定通り午前八時過ぎに家を出た。渋山で乗り換えれば一本で着く。
この時間だと渋山の乗換えは空いていた。中高生はそろそろ宿題で大変な時期のはずだからな。
そう言えば智の奴、去年までは今頃俺の所に宿題見せてくれと言って来ていたけど今年は無いな。碧海さんと仲良くやっているのかな?
杉崎さんの家は渋山から確か十五分位の所の駅のはずだ。一応ホーム側を見ていたけど居なかった。流石に早いか。
予定通り、午前十時十五分前には着いた。駅から遊園地の入口まで一分、ほぼ目の前だ。チケット売り場付近で待っていると五分前になって杉崎さんがやって来た。
「待ったぁ、早瀬君?」
「いや、さっき来た所」
「良かったぁ。間に合わないかと思ったよ」
「少し位遅れても大丈夫だよ」
「だめだめ、早瀬君との二人だけの遊園地だもの。絶対に遅れないよ」
「そ、そう」
気合入っているな。
「早速チケット買おうか」
「おう」
二人でチケットを買って中に入って案内板を見る。結構色々なイベントがある。単なる遊園地と思っていたけど違う様だ。
「どれから乗る?」
「うーん、一杯あるね。取敢えずこの展望台に昇ってみようか?」
「うん」
いきなりジェットコースターとか言われなくて良かった。私、ちょっと苦手。
二人で展望台の下に行くと順番待ちは無かった。定員六十二人と書いてあるけど半分位しか乗ってない。ゆっくり回りながら登って行く。
「早瀬君、見て見て。遊園地の中が一望出来るよ」
「本当だ。結構大きいな。プールのある場所も良く見える。上から見るとその大きさが良く分かるね」
そして最高点まで着くと
「わぁ、富士山まで見えるんだ。凄いなぁ」
杉崎さんは大分興奮している。これに乗って正解だったな。
「あれ、バイキングとかある」
「えっ?!」
「杉崎さん、あういうの乗れる?」
彼女が思い切りブルブルと首を横に振った。そして
「駄目、絶対に駄目。一日が終わっちゃう」
「ごめん、じゃあ、メリーゴーランド」
「うん!」
次に行ったのはメリーゴーランド。俺的にはちょっとという感じだけど、杉崎さんがハード系アトラクションに乗れないらしいから仕方ない。
ここは少し待った。小さい子供と親子連れ。若い人は俺達ぐらいだ。杉崎さんはニコニコしているけど俺は流石にちょっと恥ずかし。
順番が来て、何に乗ろうかと思っている内にお馬さんはあっという間に埋まり、
「ねえ、こっちこっち」
杉崎さんが手招きしたのは、えっ?馬車?!
「早く乗らないと」
「う、うん」
何故か横一列座った。動き出すと
「ふふっ、嬉しい。早瀬君と馬車に二人で乗るなんて」
「……………」
こういう時はなんて言えばいいんだろう。周りを見るとお母さんや子供達がこっちを見て笑っている。参ったな。
メリーゴーランドがやっと終わると、
「ねえ、これ行って見ない?」
彼女が遊園地内のマップで指差したのはなんとタコさんの足の先にある椅子に座るアトラクションだ。
「大丈夫なの?」
「これなら平気…多分」
行ってみると一見、子供っぽい。結構小いさな子供が親と一緒に乗っている。これなら良いか。またまた、二人で同じ座席に座ると何故か杉崎さんが俺の顔を見て
「えへへ、嬉しいな」
なんて言っている。こういう時はなんて言えば良いのか?
動き出すと始めは地上近くでゆっくりだったのだが
「は、早瀬君」
「なに?」
「こ、これって」
もう俺達の乗っている座席はタコさんを中心に回りながら上下に激しく動いている。結構激しい動きだ。あっという間に終わったものの彼女が立ち上がらない。
「杉崎さん降りよ」
彼女が先に降りてくれないと降りれない。
「早瀬君、お願い。立たせて」
「えっ?!」
「早く降りて下さい」
係員から言われてしまった。仕方なく彼女の背中側から両脇に腕を回して引き上げると
「あ、ありがとう」
ちょっと指先が彼女の柔らかい所に触れてしまったけど今のは不可抗力だ。でも柔らかかったな。
踏み出す足がおぼつかない。やっとタコさんのイベントフィールドの外に出ると
「少し休もうか」
「うん」
何故か杉崎さんが俺の腕にしがみついて歩いている。近くのベンチに座ると
「あんなに激しく動くなんて知らなかった」
小学生も親と一緒にいっぱい乗っていたけど、皆楽しそうにしていた。この子は極端にこういう動きのあるアトラクションは駄目の様だ。
十五分位休んでから
「今度は何処行く?」
「見ているだけで良い所」
そんな事言われてもと思っても仕方なく遊園地のマップを居ると〇ジラ・ライドとか有る。見ているだけだけど結構3D効果があるようだ。これなら映画館と同じだろう。
「これなんかどうかな?」
「うん、行ってみよ」
遊園地が広い所為か少し歩いてから着いた。並ばずに済んだのでそのまま入るとやはり映画館の様な雰囲気。椅子は何故か安全ベルトが付いている。ちょっと嫌な予感。
始まると
-きゃーっ!
-うおーっ!
-止めてー!
とか、周り中からそして杉崎さんもそれに漏れず俺の腕にしがみついて、とても見ている状況じゃない。激しく椅子が動くのだ。
やっと終わると
「も、もう駄目ー。早瀬君休もう」
「うん、もうすぐお昼だからレストランに入ろうか」
「うん」
昼時だったので少し待ったけど上手く入る事が出来た。注文が終わると
「早瀬君、ごめんね。もう少し二人で楽しめるかと思ったのに、私がこんなになっちゃって」
「全然構わないよ」
「はぁー。予定外だなぁ」
少し杉崎さんが下を向くと今まで気が付かなかったけど首元が緩いTシャツの所為か、少しだけ胸元が見えてしまった。直ぐに横を向いて
「次はもっとのんびりした奴にしようか」
「うん」
本当は、二人で楽しい会話をしながらお互いの事を話す予定だったけど仕方ないか。まだ彼女の事全然知らないや。
注文の品が来るとそれを食べながら杉崎さんは
「ねえ、早瀬君、夏休みじゃない土日って何をしているの?」
「土曜日午前中は道場で稽古。それ以外は…うーん。何もしていない」
「何もしていない。勉強とかしているんじゃないの?」
「全然」
あれだけの成績を残しながら何もしていないって。彼の姉である生徒会長が成績順位表の前で言っていた事って本当だったんだ。
「でも、成績良いよね」
「うん、予習復習はしているからね」
その位は私もしている。だから考査ウィークで必死に見直すのに。
「そっかぁ、早瀬君は何もしなくても頭いいんだ」
「そんなことないよ。皆と同じさ。一学期はお姉ちゃんのお陰で目立っちゃたけど、二学期はもうしない。目立たないのが一番だよ」
「何でそう思うの。進学校に入ったんだからいい大学に入ろうって思わないの?」
「いやそれは…」
流石にあそこに入った理由を言う訳にはいかない。
「まあ、三年生になればそんな雰囲気になるかもね」
「ええ、普通二年からでしょ」
「もう、この話止めよ。せっかく遊園地に来たんだから」
失敗した。早瀬君の事知りたくて要らぬ突っ込みをしたようだ。彼の機嫌が明らかに悪い。
「そうね。ごめんなさい」
「いいよ。でもあんまりプライベートな事は聞かないでほしい」
「ごめんなさい」
もっと上辺からゆっくり聞かないと。つい調子に乗ってしまった。
少し沈黙の時間が続いて雰囲気が悪くなりそうになったので
「早瀬君、私の事話してもいい?」
「うん、いいよ」
「私はね…」
私は、小学校の頃から中学までの事を色々話した。少し飾ってね。彼はうんうんっていう感じで楽しそうに聞いてくれたので、ちょっとホッとした。兄の事には触れていない。
その後は、遊園地内の中をゆっくりと散歩した。手が偶に触れ合う。本当は手を繋ぎたいけど、さっきの事が有ったから今は無理。そうだ…。
「早瀬君」
「何?」
「私は早瀬君の友達って事で良いかな?」
「うん、いいよ」
「嬉しい。これからもこうして会ってくれる」
「こういう場所は今度はよく考えようか。俺も喫茶店でにらめっこするより良いかなと思ったけど、思いのほか人を興奮させるみたい。
せっかく会っているのにいつもの冷静さを失ってしまうと自分の気持ちに歯止めが掛らなくなる。これはお互い様だけど。でも今日は楽しかったよ」
「うん、そう言ってくれると嬉しい。早瀬君の事一杯知りたくてつい歯止めが掛らなくなったのは本当。だからこれからは注意する」
「俺もきつく言い過ぎた。ごめん」
「いいよ。お相子」
少しベンチで休んでいる内に午後三時になってしまった。
「もう帰ろうか」
「うん」
杉崎さんの駅に着いた。彼女は降りる時
「今日はありがとう。また会ってね早瀬君」
「うん」
彼がうんと言ってくれた。これでいい。今日は途中雰囲気が悪くなったけど何とか取り戻せた感じだ。
まだ高校生活は始まったばかりだ。彼は今、学校の中でとても有名になっている。告白カードとか貰っているけど、でもまだそんなに彼に積極的に近付こうとする人はいない。
そうだ一人だけいる。有栖川奈央子さん。彼女は彼の事が好きなのは見ていても分かる。そして彼女が彼を好きになる理由も分かる。
でもまだ手を子招いている。だから今のうちに彼の心の中にゆっくりと染み込む様にしていけば。いずれ彼の隣に私だけがいる様にしたい。
――――
書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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