第13話 有栖川さんと二人で会う

この話も長いです。


―――――


 俺は杉崎さんと遊園地で会ってから家に帰って来るとお母さんが

「どうだったの?」

「何が?」

「デートの事よ」

「うーん。デートっていうかのかなぁ。確かに二人で会ったけど」

「それをデートって言うの」

「そうなの?」

「それでこの後は?」

「特に」

「そうなの」


 京之介は中学の時、女の子の友達はいたけど二人で会うなんて事は無かった。大体が田中君と一緒で誰かと会っていた。


 その京之介が女の子と二人で会うなんて言うから期待したけど彼女の線はまだ薄いみたいね。



 俺は手洗いとうがいを済ませると自分の部屋に入って部屋着に着替えた。お姉ちゃんの部屋のドアが閉まっているという事は何処かに行っているんだ。



 今日、杉崎さんと会ってみた。彼女の小中の事は話してくれた。でも家族の事は何も話してくれていない。


 何か不都合があるのかな。でもそういう事は余程親しくならない限り話さないよな。俺だってそうなんだから。


 取敢えず友達という事にはなった。積極的なのか消極的なのか分からない。あの事以外は、俺の事を気にして話している様だから取敢えず今のままで良いか。




 さて、有栖川さんの事だ。一応夏休み中に会った方が良いだろうけど…。難しいなぁ。憧れていたけど結局彼が居て。でも俺と友達になりたいと言う。


 分からない。こんな事で人を揶揄う様な人には見えないし、そもそも友達になってくれって言ったのは友達の四宮さんであって有栖川さん本人じゃない。


 でも彼女、四宮さんから友達の事言われた時、顔が赤くなって下を向いていた。そして友達になると言った時も下を向いて頷いていただけだ。


 でも顔赤かったし。熱があったようには見えない。普通は好きな人に取る態度だろう。


 えっ、もしかして有栖川さん彼氏と俺の二股する気?彼氏同じ高校じゃ無いみたいだからバレないとか思って。


 まさかぁ、そんな人には見えないな。それに連絡待っていると言われたし。やっぱり会って見るか。



 俺は夕飯を食べた後、有栖川さんにスマホで連絡した。まだ午後八時失礼な時間じゃないだろう。


 スマホが鳴っている。画面を見ると、えっ?早瀬君。

「奈央子、スマホが鳴っているよ」

「うん、自分の部屋に行く」


 私はリビングで家族と一緒にテレビを見ていた所だった。急いで自分の部屋に入るとドアを閉めて


『はい、有栖川です』

『良かった、出ないから忙しいのかと思った』

『いえ、一階のリビングで家族と一緒にテレビを見ていたので』

 有栖川さんの家族って仲良いんだな。うちそんなことしないから。


『あの、連絡した理由なんですけど』

『はい』

『会って頂けませんか?』

『えっ?!』

 彼から会ってほしいと言われるなんて…。


『あの、駄目だったらいいですけど』

『そ、そんな事無いです。会います。ぜひ会って下さい』

『いつがいいですか?』

『明日でも良いですけど』

『分かりました。何処にしましょうか』

『巫女玉でお願いします。改札に午前十時は如何でしょうか?』

『分かりました。では明日午前十時に巫女玉の改札で』


 私は、スマホの通話を切った後、大きな声をあげそうになる位嬉しかった。


 とうとう、早瀬君、私の命の恩人、一生を捧げたいと思っている人と明日二人で会う事が出来る。嬉しい気持ちが抑えられない。


 でも、印象は重要。洋服を選んで、お話する事も考えて、歩くルートも失敗無い様にしないと。



 なんか、有栖川さん思い切り喜んでいたな。良く分からない。そんな事考えていると話が聞こえたのかお姉ちゃんが


「京之介、明日有栖川さんと会うの?」

「うん、流れでそうなった」

「そう、上手く行くと良いわね」


 有栖川さんは彼が居た。なんで京之介に会おうとしているんだろう。確かに彼女が弟に会いたい理由はあるけど今更だ。お礼だけなら別の形でも出来る。明日の結果を聞くしかないか。




 俺は、午前九時四十分には改札に来ていた。隣駅だ、余裕で来れる。待っていると五分もしないで彼女がエスカレータから降りて来た。


 直ぐに分かった。長く綺麗な黒髪はそのままに長めの綺麗な水色のスカート、肩にフリルの付いた半袖の白いシャツ。


 肩から薄黄緑のハンドバックを抱えて、足元は白いローヒール。とても彼女に似合っている。はっきりってドキッとした。


「おはようございます。早瀬君」

「おはようございます。有栖川さん」

「早瀬さん、今日なにか予定をお考えですか?」

「いえ、話をしたいと思いまして」

「そうですか。出来ればでいいんですけど、せっかく会えたので、午後からの映画何か見ませんか。その間、お話するなり食事するなりしても良いかと」

「全然構いませんよ」

 こんな素敵な人と映画一緒に見れるんだ。断る理由は無いよ。


「では、早速、近くの映画館に行きましょうか」

「はい」


 有栖川さんは巫女玉が詳しい様だ。改札を右に曲がって二階に上がり少し歩くと右側のビルの二階に映画館が在る。予約していないでの

「何を見ますか?」

「そうですね。あれなんか如何ですか?」


 日本の有名俳優二人の恋愛ものだ。午後一時半からだ。良い時間だ。

「いいですよ。早速チケット買いますか」

「はい」


 まだ席は空いていた。まとめて俺が払って有栖川さんと割勘にした。

「天気もいいですし、少し散歩しませんか?」

「良いですよ」



 彼女が向かったのは改札を左に降りて更に左に曲がり真直ぐ行った巫女玉川の河川敷だ。

「詳しいですね」

「ええ、ここは小さい時から家族とよく来ていましたか」

「そうですか」


 ゆっくり歩いていると

「早瀬さん、私の事思い出す事は無いですか?」

「えっ?」

「ふふっ、良いです。今は」

 今日の最後のイベントだから。


 ゆっくり歩いていると流れる柔らかな風に彼女の髪の毛がゆっくり流れて行く。横顔を見てもとても素敵だ。

 こんな綺麗な人を俺が見忘れるはずがない。何かの間違いではなのだろうか。


「如何したんですか?私の横顔を見て」

「えっ、いや…。綺麗な人だなと思って」


 有栖川さんが急に立ち止まって下を向いて耳まで赤くなった。どうしたんだ。少しして


「急に早瀬君からそんな事言われたら心臓が飛び出してしまいそうです。少しお手柔らかにして下さい」

「はい」


 どういう事だ?


 それからもあまり会話なく歩いていたけど何故かホッとする。歩いていて心地が良い。でも心臓が聞こえるんじゃないかって位ドキドキしている。


「あら、もう三十分以上歩いてしまいました。そろそろ駅方向に戻りましょうか」

「そうですね」


 早瀬君と二人で歩く気持ち良さに気が付けば結構な距離を歩いているのが分かった。随分下流まで来てしまった。


 それからもあまり話さずに駅まで戻ると

「早瀬君、少し早いですけど昼食にしません?」

「いいですよ。何処にしますか」

「私が選んでよいのなら中華のお店は如何ですか。長居は出来ないのでその後喫茶店という事で」


 俺は、有栖川さんに案内されて二階のレストラン街に少し奥になる中華キュイジーヌというお店に入った。カウンタとテーブルが二つだけのシンプルなお店。町中華という程ではないけど、何となく親しみがある。


 この前お姉ちゃんと来た時、彼女が彼氏と歩いていた事を思い出してしまう。でも初めて会った人とこういうお店なんて見た目より結構気さくなんだな。


「ここのお店は兄と偶に来るんです。とても美味しい店なので巫女玉に来ると必ず寄るんです」

「そうですか」

 お兄さんと来るなんて仲良いんだな。



 カウンタに二人で並んで座った。俺が頼んだのは、ぱーこー麺と半チャーハン、彼女は昔ながらのラーメンと餃子だ。ちょっと驚き。


「ふふっ、早瀬君。兄の好みと同じですね」

「えっ、そうなんですか?」

「この前兄と一緒に来た時も兄はそのセットを注文していました」

「それは光栄だな」


 そんな話をしていると注文の品がテーブルに置かれた。俺はスープをレンゲで一口啜ってから麺を食べると確かに美味しい。流石有栖川さんが選んだお店だ。


「美味しいですね」

「はい、ここは味には定評があるんです」


 半チャーハンも手抜き無しでとても美味しかった。彼女も美味しそうに食べている。二人で食べ終わると直ぐに会計して外に出た。外で並んでいる人がいるので仕方ない。


 その後は二階の一番奥にある喫茶店に移動。映画が始まる三十分前までそこにいた。話題は読書感想文の事だった。彼女も四国の長曾我部氏を選んだらしくて感想で盛り上がってしまった。



 時間が来て映画館に来た。先に二人でおトイレを済ました後、開演まであと十分、ゲートは開いているのでそのまま入った。


 中々、濃い目の恋愛ドラマだ。今日本でも有名な男性と女性の俳優による作品とあって、やはりカップルが多い。


 見ていると、えっ?!有栖川さんが俺の手を掴んで来た。チラッと彼女の顔を見ると真剣に見ている。


 このままにしておくか。しかしこんな美人に手を摑まれるだけで心臓がドキドキしている。聞こえないだろうな。


 一時間半の映画が終わった。最後は相当に盛り上がった。結構熱い場面も有ったけど。

 会場内が明るくなった途端に手を放した。暗くて分からなかったけど彼女の顔が真っ赤だ。下を向いて


「ご、ごめんなさい。つい夢中で見てしまって」

「良いですよ。俺も有栖川さんに手を掴まれてドキドキしていましたから」

「えっ?そうなんですか」

 彼が手を掴まれてドキドキしているなんて。もしかしたらチャンスかも。



 俺達は映画館も出るともう午後三時だ。帰ろうと言おうとした時、

「もう少し良いですか」

「はい」


 有栖川さんは二階の通路をそのまま端まで歩いて行った。そこを下れば東屋がある小さな池の公園。

「少し歩きましょうか」

「はい」


 彼女はローヒールとはいえ、ここは下る階段が自然の情景を取っている為、整備された階段ではない。俺が先に一階段降りた後、


「もし宜しかったら、手を繋ぎますか?」

 映画を見た後なので抵抗が無かったのかもしれない。


「はい」

 ふふっ、映画館手繋ぎ作戦は成功です。でも早瀬君、優しい。益々好きになってしまいます。


 下まで歩くと普通の石畳だ。そのまま池を横に見ながら歩いて行くと

「早瀬君、私をまだ思い出してくれませんか。こんなに長い時間いるのに?」

「えっ?俺、過去に有栖川さんと会いましたっけ。貴方ほどの美人なら忘れることは無いと思うんですけど」

「では、こんな雰囲気なら」


 いきなり有栖川さんが長い髪の毛を後ろ手に巻いてアップした。そして俺に顔をぐっと近づけた。

「……。あっ!」

「思い出してくれました。あなたは、私が旧宿で友達とはぐれ、道に迷っていた時、暴漢にビルの裏につれられて洋服をボロボロにされてもう駄目だと思った時、私を助けてくれました。


 いくら警察にあなたの住所を教えてくれと言っても本人から教えないでくれと言われているの一点張りで分からなかった。


 私立駒門高校に入ってあなたを見つけた時、私は天命にしか思えなかった。だからあなたが気付いてくれるのをずっと待っていたんです。


 でもあなたは気付いてくれなかった。何とかしなくてはと思った時、偶然にプールで会って、そして本屋でも会った。


 私の友達があなたのスマホの連絡先を聞いてくれた後、ずっと待っていたんです。あなたから連絡先が来る事を。


 そして昨日頂けました。だからもう後ろは無いと思ったのです。早瀬京之介さん、私の恋人になって下さい。そして将来は私をパートナーにして下さい。


 一度は捨てそうになった命をあなたに助けられました。私の全てを一生あなたに捧げます。お願いします。私を恋人にして下さい」


 この人があの時の女の子。信じられない。名前は同姓同名だと思っていただけにまさか本人だったとは。


 でもこの人一気に捲し立てたけど、凄い事言っているよな。私と恋人になって、そして将来パートナーになってって。それって結婚する事だろう。俺達まだ高校一年だぞ。

 それに…。


「あの、少し落ち着きません」

「あっ、も、申し訳ありません。この時をどれだけ待ちわびたか。だから心の思いが一挙に出てしまって」

「そうですか。でも前に俺に友達になってと言ったのは彼氏が居るからなんでしょう?」

「彼氏?私には、過去彼氏という人どころか男の友人も作った覚えは有りません」


「えっ、でも、この前と言ってもプールに行く二日前だけど彼氏と一緒にここの二階歩いていましたよね。

 かっこいい男の人と。俺あの時お姉ちゃんと一緒に昼食べる為にお店に入っていたんです」

「えっ?!プールに行く二日前?あっ、兄の映画に付き合ったんです」

「お兄さん?本当に?」

「嘘ついてもすぐばれる様な事は言いません」


 困ったぞ、こんな美人にいきなり恋人になってと言われても簡単に、はいそうですねなんて言えないよ。嬉しさよりこれからの事が心配になり過ぎる。


「事情は何となく分かりましたけど、…俺も嬉しいけど。でもいきなり過ぎて。ちょっと頭がオーバーフローしてます。お互いに一度冷静になりませんか」

「私では駄目なんですか?」

「そうじゃないんです。とにかく一度冷静になりましょう」

「いつまで?」


 困ったぞ?どうすればいいんだ。とにかく一日は置かないと。

「じゃあ、明後日、同じ時間にここの改札で会って、お互いに冷静になってもう一度話しましょう」

「あの、あの…。断りますなんて言わないですよね」


 この人完全に冷静じゃなくなっている。ここはとにかく

「俺もこういう事言われて嬉しいですけ、とにかく一日過ごして頭冷やしてもう一度会いましょう。断りはしないです。でも色々考えないと」

「分かりました、その言葉信用します」



「じゃあ、ゆっくりと駅に戻りますか」

「はい」


 何故か手を繋いで来た。まるで絶対に逃がさないぞって感じ。…でもないか。持ち方柔らかいし。


 彼女は俺と反対方向の電車に乗った。そう言えば住んでいる所も知らない。今度聞くか。しかし、簡単ではないぞ。この件。


――――

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