第14話 どうする


 俺は家に帰るともう午後五時を過ぎていた。隣駅だから近かったとはいえ、こんな時間になるなんて。


 一回の洗面所で手洗いとうがいをするとお母さんに帰ったと挨拶してから自分の部屋に入った。

 お姉ちゃんの部屋のドアは開いている。俺が帰ると当然の様に俺の部屋に入って来た。


「京之介」

 言わなくても分かっている。


「ちょっと、重い」

「そう、話せる」

「うん」


 そして俺は今日の出来事を全てお姉ちゃんに話した。俺が話した後、お姉ちゃんはしばらく黙った後、


「そこまで考えているとは流石に思わなかったわ。でも彼女の心は今沸騰しているみたいね。


 とにかく冷静にさせないと次にどんな手で来るか、想像は付くけど流石に今の京之介ではキャパオーバーよ。


 今は友達のままでとして、そして彼女には学校内でも決して突出した行動をしない様にさせないと」

「分かっている。今の俺には全く対処方法が見えない。過去恋愛経験が有るとか無いとかってレベルじゃない事も。

 一時の思いに流されたらどうなるか想像がつかない。だからどうすればいいか分からない」


「京之介、今日は食事してお風呂に入ったら寝なさい。寝れば今日の事を脳が整理してくれる。明日の朝から考えやすくなるわ」

「分かった」


 俺は、夕食を家族四人で食べた後、先にお風呂に入らせて貰った。俺がお風呂に入っている間、


「愛理、京之介は?」

「お母さん、有栖川さんが京之介に接触してきました。それもストレートに。今の京之介では台風の風に翻弄される一枚の木の葉に過ぎません。ここは京之介を保護する必要があると思います」


「そう、頼むわね。有栖川さんという子。確かに命の恩人でかも知れないけどそれだけでは、京之介のパートナーに相応しいかなんて分からない。今は友達レベルにさせる様にして」

「分かっています。お母さん」

「それと他の子達もいずれ気付くかも知れない。だからお願いね」

「はい」




 俺は、風呂から上がると自分の部屋に入った。勿論寝る時以外はドアは開けている。でも精神的な疲れなのか段々眠くなって来た。


 深い眠りの中で一瞬だけ何かを感じたが分からなかった。



 私は、二階に上がるとドアが開けたままにベッドの上で横になっている弟に


「私の大切な京之介、お姉ちゃんが守ってあげる。あなたに相応しい人を見つけてあげる。だからゆっくりおやすみなさい」


 眠りの中の奥深い、そう深ーい海の底の方で何かが聞こえた様な気がしたが、その時はもう意識が無かった。




 私は、家に戻った後、お兄さんから

「会ったんだろう。どうだった?」

「自分の思いの全てを話しました。でも早瀬君からは一度冷静に考えてからもう一度話そうと言われました。明後日もう一度会う予定です」

「そうか」


 俺の妹はいわゆる容姿端麗、頭脳優秀な女の子だ。でも残念ながら恋愛経験はない。駆け引きも何も無く一挙に思いをぶつけたんだろう。


 普通なら一も二も無く受け入れるのが普通の男だろうけど、一度冷静になれと妹に言ったのか。


 恋愛経験が有るのかないのか知らないが、流石あの早瀬愛理の弟だな。嵐の海に子船を出すほどの馬鹿じゃ無いみたいだ。


 しかし、事は簡単に進まないだろうな。相手は弟より姉の方だ。当然保護策を取って来るだろう。

 妹には幸せになって欲しいが、中々難しそうだな。


「それで奈央子はどうする?」

「冷静になれと言われてもこの思いは変わりません」

「奈央子、今日はよく寝て明日もう一度考えろ。俺が言っているのは彼を諦めろと言う訳じゃない。


 今のままでは難しい。明日もう一度冷静になってこれからの進め方を考えろ。もう思いは伝わった。


 でもそれが全て直ぐに受け入れてくれる訳じゃない。どうすれば自分の思いを実現できるかそれを考えろ」

「分かりました。お兄さん」




 次の朝、目が覚めると机の上の時計はもう午前八時を指していた。

 えっ、俺、十時間も寝ていたの?でも体は軽いし意識もしっかりとして来た。寝るのは体と脳を休めると言うのは本当だな。


 直ぐには起き上がらず、大きく伸びをして体を少しずつ動かしてからベッドから降りた。部屋着に着替えてからおトイレに行き、顔を洗ってからダイニングに行くとお姉ちゃんが居た。


「おはよう、京之介」

「おはよう、お姉ちゃん。お父さんとお母さんは仕事?」

「そうよ。朝食食べれる?」

「もちろん」

「今、紅茶を入れてあげるわ。座って待っていて」

「ありがとう」



 俺はお姉ちゃんが淹れてくれた紅茶を飲みながら

「よく眠れたけど、どうすればいいのか全然分からない」

「急がないの。まだ今日は始まったばかりよ」

「ゆっくりと紅茶を飲んで朝食を摂りなさい」

「うん」



 朝食を食べ終わった後、俺は一度自分の部屋に戻った。お姉ちゃんが午前中だけでも自分でどうすればいいのかよく考えなさいと言ってくれた。


 でも……。


 有栖川さんはとても綺麗で魅力的だ。性格もまず問題なさそう。昨日の事は心が燃えあがっただけだろう。しかし、思いが変わる事はなさそうだ。


 俺は、高校生活を目立たずにスローライフを望んでいるんだ。一学期はお姉ちゃんのお陰で目立ってしまったが、二学期は大人しくしていればやがて忘れ去られる。


 でもここに有栖川さんの事が…たとえ友達だとしてもそれが公になったら…。別の意味で目立ってしまう。


 今まで好意的に俺を見ていた女子や男子も敵対する可能性もある。下手すると陰湿な行為に出て来るかも知れない。


 だから今回は、はいそうですかという訳にはいかない。だけどそんな事言ってもあの人はそれでは駄目だろうな。それに断る事はしないと言ってしまった。


 恋人は先においても友達は維持しないといけない。それも上辺だけの友達という訳にはいかなそうだ。


 学校内での意図的な接触は無しにして、学校外で会うという事で納得してもらうしかない。

 でもいつまでと言われる可能性が大きい。どうすれば。


 お姉ちゃんは、午前中は自分で考えろと言ったけど、これ以上恋愛未経験の俺が解答を出す事が出来るのだろうか。


 そんな事を考えているといつの間にか午前中が過ぎてしまった。お姉ちゃんが

「京之介、考えはまとまった?」

「あんまり。肝心なところが全然纏まらない」


 そう言って俺は今考えている事をお姉ちゃんに話した。

「京之介、あなたは有栖川さんと恋人になりたいの?」

「分からないよ。彼女の言っている意味は、後ろが付いている。俺はまだ十六だ。結婚まで考えた付き合いなんて想像も出来ない」

「それはそうね。では友達にはなりたいと思っているの?」

「それは良いと思う。でも今の状況で彼女と友達になったなんて他の生徒に知れたら、何が起こるか想像が出来ない。それだけは絶対に避けたい」


「じゃあ、学校内では非接触として、学校外それもどちらかの家で会う位、他の人からの目を塞がないと駄目だわね。京之介はそれが出来る」

「全く自信ない。そんなの拘束と同じだよ。むしろしたくない」

「家の中は避けた方が良いわね。彼女からすれば絶好の好機だのもの。やはり学校外で会うにしても外が良さそうね」

「その方向で話してみるよ」


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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