第15話 俺と有栖川さん


 俺は翌日、巫女玉の改札に午前九時十五分前に行くと有栖川さんはもう来ていた。俺が改札を出ると寄って来て

「おはようございます。早瀬さん」

「おはようございます。有栖川さん」


 ちょっとだけ沈黙が続いたけど……。


「公園に行きましょうか」

「そうですね」


 喫茶店に入って人に聞かせる話でもない。正しい選択だろう。二人で一度二階に上がってから端まで歩いて行った。


 階段の傍に来るとまた俺が先に一段降りてから手を有栖川さんの方に延ばした。彼女は微笑みながら

「ありがとう」


 そう言って俺の手を握って来た。階段を降りて石畳の道まで来ると更に少し歩いて東屋まで行って軒先に座った。


 また沈黙が続いた。

「「あの」」

「ふふっ、早瀬君からどうぞ」

「はい、一昨日の事なんですけど。取敢えず友達になりましょう。それから先の事はまだ俺には分からな過ぎてというか経験全然無いので、どうすればいいかも分からないし、友達になってから考えてもいいかなと思って」


 やはりそう考えたか。いきなりのアプローチで、はい良いですよなんて言ってくれる訳ないか。


「分かりました。友達から始めましょう。学校内で声掛けても良いですか?」

「その事なんですけど、有栖川さんは校内でも一、二を争う美少女です。男子の全員が憧れていると言っても過言ではありません」

「そんな事無いです。私なんか…」


「聞いて下さい。だからあなたと友達になったと知れた時、どんな事になるか想像が出来ません。だから校内ではお互い声を掛けるのは止めましょう。

 その代わり日曜日は毎週外で会うという事でどうですか?」

「土曜日は駄目なんですか?」

「土曜日は午前中稽古が有るし、色々やる事も有ると思うから。どうしてもの時はいいですけど」


 簡単ではないか。お家デート出来れば一気に事が進めるチャンスも有ったけど、どうも早瀬君はそれを避けている様だ。外で会うと意図的に言っている。ここは無理をしないで進めるしかないですね。


「分かりました。毎週日曜日会って下さい。でもスマホは毎日でも良いですよね?」

「毎日ですか。無理ないようにお願いします」

「あと、これは叶えてくれると嬉しいのですが…。二人で会っている時は名前呼び出来ませんか。友達ですけど、そうしたいんです」

「名前呼びですか?」

「お願いします」

 顔の前に手を合わせてお願いしている。名前呼びかぁ。智以外した事無いしなぁ。黙っていると


「駄目なんですか」

 寂しそうな顔して俺を見て来る。仕方ないか。


「良いですよ。そうしましょうか」

「では、今から練習です。奈央子と呼んで下さい。京之介」

 うわっ、いきなりかよ。


「奈央子…さん」

「奈央子です」

「ごめん、奈央子さんにさせて下さい。流石に恥ずかしいです」

「ふふっ、では慣れるまではさん付けでいいですよ。京之介さん」

 やったぁ。一歩進んだ。


「京之介さん、ここは暑いですから二階の端にある喫茶店に行きましょう」

「はい」

 何となくリードされている感じ。


 それから喫茶店で、今後の事も話し合った。

-学校では気付かれる様な素振りはしないようにする事。

-廊下ですれ違っても微笑まない事。

-スマホは学校が終わってから。

-登下校は別々にする事。

-お互い、他の異性と話していても焼餅を焼かない事。これは奈央子さんが結構反対したけど、カモフラージュにいいという事で納得して貰った。

-日曜日は、何をするか無理に決めなくてもいいけど土曜日に何処で何時に会うかだけは決める事。

-後、二人で会った時は手を繋ぐ事。これは俺が反対したけど、押し切られた。


 一通り決め終わると

「京之介さん、もうお昼ですね。今度は京之介さんのお勧めのお店に行きたいな」


 俺が知っている店は、スンドゥヴなんて駄目だろうし、そうだお姉ちゃんと行ったお店がいいや。


 俺は、ピザとスパゲティが食べれるお店に連れて行った。

「ふふっ、素敵なお店ですね」

「そう言ってくれると嬉しいです」


 彼女はカルボナーラ、俺はマルゲリータを注文すると

「夏休み、後四日有ります。全部会って下さいとは言いませんが二日は会えないでしょうか」

「二日ですか。最後の日が土曜日で稽古の日なので、他の日なら」

 しかし、そんなに会って何するんだろう?



 この日は結局、午後四時まで一緒にいた。河川敷を散歩したり、彼女のウィンドウショッピングに付き合ったりした。


 でも散歩している時は口数も少なく、ただ手を繋ぎながら偶に俺の顔を見ては微笑んでくる。これなら良いかな。



 改札で別れる時何か言いたそうな顔をしていたけど、彼女はそのまま俺とは反対方向のホームに向かった。


 早瀬君、いえ京之介さんと友達になれた。でも二人で話し合った内容は恋人と同じ。ただあれが無いだけ。友達として心が通じ合えればそれも出来る様になる。そうすれば…。


 学校内での約束は仕方ない。彼はモテる。クラスでも彼の話が随分出て来る。だから私が彼と親しくしたら…、彼の言う通りかも知れない。

 今月は後四日の内、二日も会える。嬉しくて堪らない。




 俺は、午後四時半には家に着いた。自分の部屋に行くとお姉ちゃんの部屋は開いていた。俺の足音を聞いたのか直ぐに俺の部屋に入って来た。

「長かったわね」

「うん」

「どうだった?」

 

 俺は奈央子さんと話し合った事をお姉ちゃんに話した。


「そう、それなら問題なさそうね。でも気を付ける事。いつだれが何処であなた達を見ているか分からない。それは外で会っている時も同じよ」

「分かっている」


 京之介が有栖川さんと約束した事は恋人になると言っているのと同じだ。この子は気付かないけど、上手く持って行かれた様だ。まさか名前呼びまで要求して来るとは。


 相当に注意して見ていないと。有栖川さんが京之介に相応しい子なら問題ないけどまだ全くの未知数だ。

 人は何処でいきなり変わるか分からない。有栖川さんには監視を付けておくか。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る