第16話 二学期が始まった
有栖川さんとは、あの後二回程会った。庭園美術館に行ったり、我家の近くにある広い公園をのんびり散歩したりした。
無駄口が少なく、手を繋いでいても軽く微笑むだけ。とても心が休まる人だ。公園での食事も園内の売店で菓子パンや焼きそばを二人でシェアする形で食べる。見た目と違い決して気取らない。
まだ、会っている回数は少ないけど、これなら長く友達を続けられそうだ。
九月の最初の月曜日が始業式。俺は学校の最寄り駅から一人で登校していると智が後ろから声を掛けて来た。
「おはよ、京」
「おはよ、智、碧海さん」
智の隣には碧海さんがいる。仲のいい事だ。
「京、あの後杉崎さんと進展は有ったか?」
「一度だけ会った」
「一度だけ?そうかでもそれも進展だな。今後どうするんだ?」
「一応友達になった」
「一応ってなんだ?」
「いや、一応だから一応」
「良く分からないけど、まあいいや」
そんな話をしていると学校に着いた。俺は昇降口で履き替える為、下駄箱を開けたが中には何も入っていなかった。
やっぱり夏休みが冷却期間になった様だ。ローファーを中に入れて洗っておいた上履きを布袋から出して履くと教室に向かった。
智が碧海さんと仲良く、また後でねとか言っている。二人で教室の中に入ると早速古城さんが挨拶をして来た。
「おはよう、早瀬君、田中君」
「おはよう、古城さん」
「二人ともいい色に焼けているね」
「街中歩いていたら焼けちゃった」
「うそ、街中だけならそんなに焼けないわよ」
「智は、どうして?」
「俺は、プールの他、海とか行ったからな」
「ふーん、俺も同じようなものだ」
「じゃあ、生徒会長も一緒?」
「お姉ちゃんも一緒」
「京、もしかして生徒会長水着になった?」
「当たり前だ、浜辺で普段着ではいない」
「見たかったなぁ。生徒会長の水着姿。写真無いの?」
「智は、そこかよ」
「あはは」
-聞いた。愛理様の水着姿。
-お金に糸目付けないから欲しい。
-ここは早瀬君と交渉しよ。
-うんうん。
交渉する前に決裂です。まあ、写真はみんなで撮ったけど。
そんな馬鹿な話をしていると担任の藤堂先生が入って来た。
「今から始業式を体育館で行う。皆廊下に出てくれ」
ガタガタと椅子を動かしながら廊下に出ようとすると古城さんが
「ねえ、早瀬君。後で話が有るんだけど」
「えっ?」
「後でね」
それだけ言うと古城さんはさっさと廊下に出て行った。なんだろう話って。
体育館での始業式も終り、教室に戻って来て、少しして藤堂先生が入って来た。
「皆、誰も問題無く夏休みを過ごしたようだな。最初にだが、来週の週末は我が校の文化祭駒門祭がある。
このクラスで何の催し物を行うか、皆で決める為、明日の最後のLHRはそれに当てる。
実行詳細はその時にプリントを配るからそれを確認しながら決めてくれ。次の連絡事項だが……」
藤堂先生は後の連絡事項を言うと教室を出て行った。今日は午前中二限だけ授業があるが、その後は下校出来る。
授業も終り、宿題を出して軽くなったバッグを肩に担いで帰ろうとすると古城さんが
「一緒に帰らない?午前中の件」
「いいですよ」
智は、もう1Cに行ってしまった。早い!
二人で廊下に出て昇降口に向かおうとすると1Aの教室から有栖川さんいや奈央子さんが出て来た。
俺の顔を見て隣にいる古城さんを見た後、何故か不機嫌な顔になった。この人ポーカーフェイス無理みたい。
京之介さんが古城さんと一緒に昇降口に向かって歩いて行く。分かっているけど面白くない。私の京之介さんなのに。今日帰ったらしっかり聞かないと。
「有栖川さん行くよ」
「あっ、はい」
俺と古城さんは昇降口で履き替えて校舎の外に出ると
「古城さん、話って何?」
「うん、何となく早瀬君と話したくて。夏休み四十日も会えなかったから、ちょっと早瀬君成分が切れちゃって」
「俺の成分?」
「うん、早瀬君成分」
どう言う意味だ。
「じゃあ、もう充填出来た?」
「全然これからだよ」
「でももうすぐ駅ですよ」
「ねえ、もう少し話せない」
そう言われても俺何も話す事無いんだよな。
「うーん、これから毎日学校で会えるんだから良いんじゃない」
「良くないよ。私は早瀬君と二人で充填したいの!ファミレスかカラオケ行かない?」
「ごめん。気持ちは嬉しいけど、そういう所に二人ではいけない」
「そう…。分かった。でも学校ではいっぱい話していいよね」
「適度なレベルでお願いします。じゃあこれで」
これ以上古城さんの寂しそうな顔を見るのは、ちょっと辛い。でも申し訳ないけど切り上げる事にした。
早瀬君が改札に入って行ってしまった。本当は好きですって告白したいけど、まだそれを言える距離感ではない。
今言ったら彼は間違いなく断って来る。とにかくもう少し彼に近付かないと。
§杉崎
古城さんが早瀬君に一生懸命近付こうとして話をしている。でも私が一歩リードしているわ。
もう彼とはプールに行って肌を触れ合った仲。それに遊園地に二人で一緒に行った。彼の恋人になるのはこの私よ。
学校から帰って家に着くと誰も居なかった。当たり前か。お父さんもお母さんも仕事。お姉ちゃんは、多分生徒会で忙しい筈。
お昼どうするかな。確かキッチンの棚にカップ麺が有った筈。それでも食べるか。
バッグを部屋に置いて手洗いとうがいをした後、キッチンに行って探すと有った、有った。これに冷凍ご飯をチンすれば、量としても足りる。
早速、お湯を沸かして、食べる用意を始めるとスマホが鳴った。画面を見ると奈央子さんだ。
火を消して直ぐにスマホをオンにすると
『京之介さん』
『はい』
『今日、下校の時、古城さんと一緒に帰りましたよね。どうしてですか?』
うっ、この人相当な焼き餅焼きだ。あれだけで掛けて来るんだから。
『古城さんから話しがあると言われたので駅まで一緒に帰ったんです』
『どんな話が有ったんですか?』
参ったなぁ。
『実際話の中身は何も無くて、ただ言葉を交わしたかっただけの様です』
俺の成分なんて言葉言ったらちょっと揉めそうだからな。
『そうなんですか。分かりました。ごめんなさい。こんな事で連絡して。でも私、京之介さんが他の女の子と一緒に居るとやっぱり焼き餅を焼きます。私の気持ち分かって下さい』
『分かっています。奈央子さんが焼き餅焼きだって事は。でも我慢する約束でしたよね』
『それはそうですけど…。我慢します。ところでお昼はどうしたんですか?』
『さっき済ませました』
まだって言ったら、当然一緒にって事になりかねない。
『残念です。一緒に食べようと思っていたのですけど』
『あの、また後でいいですか。この後用事あるので』
『はい、ではまた夜にでも』
俺は、止めてあった火をもう一度付けた。流石にお腹が空いた。しかし、彼女の気持ちは分かるがこれから大変そうだな。
学校では容姿端麗、頭脳優秀で常に冷静な雰囲気の奈央子さんが中身はこんなに焼き餅焼きな女の子だったなんて。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます