第24話 ご機嫌斜め
その日の連絡でお家デートをお願いされたが流石に断った。もし彼女が強硬に出て来た時、俺は自分自身を抑えられるだけの自信が無かったからだ。
もしそうなってしまえば、奈央子さんは歯止めが掛らなくなる恐れもある。彼女の俺に対する気持ちは嬉しいけど彼女の攻勢に耐えられない気がする。
でも会う事だけは約束した。しかし、流石に何をすればいいのか分からない。彼女と一緒に居るのは嬉しいけど、傍にずっと座っているだけなんて出来ないし。
結局翌日はまた巫女玉で会った。今回は彼女が作ってくれたランチを持って巫女玉川で散歩&ランチという趣向だ。
改札で奈央子さんを待っていると
「早瀬君」
聞いた声に振り向くと古城さんが居た。
「誰か待っているんですか?」
「……………」
俺が黙っていると
「有栖川さんですよね。二人はもう付き合っているの?」
「友達です」
「ふーん、友達でも仲良く手を繋いで歩くんだ。羨ましいな。私も早瀬君の友達だよね。手を繋いでくれる」
「それは…」
「嘘よ。今日は、昨日買えなかった雑誌を買いに来ただけ。でも早瀬君、校内で二人が仲のいい事言われたくないでしょ。
私は良いのよ。二人が仲良くても。でもね、私にも優しくしてほしいな。私には校内で。有栖川さんは校外という事で」
「それは出来ません」
「良いじゃない。黙っておいてあげるから。あっ、有栖川さんが来たみたい。約束よ、じゃあねぇ」
私が巫女玉のエスカレータを降りて改札方向に歩いて行くと京之介さんが古城さんと話をしている。どういう事?何故彼女はここにいるの?
でも彼女は熱心に彼に何か言っている。そして私の顔を見ると離れて行った。直ぐに京之介さんの傍に行って
「おはようございます。京之介さん」
「おはようございます。奈央子さん」
「今の女性、古城さんですよね。何か言っていたような」
「はい」
俺は古城さんから言われた事をそのまま奈央子さんに話した。
「嫌です。校内で古城さんと友達とはいえ仲良くするなんて。絶対に嫌です」
「でも、それをしないと俺達の事を校内に広めると言っています」
「私は構いません。良いきっかけです。思い切り私達の事を知って貰いましょう」
「奈央子さん」
古城さんの事を利用して俺達の事を公然の事にしようとしている。これは時期尚早だ。
「奈央子さん、河川敷に行きましょうか」
「はい」
俺は奈央子さんの持っている大きなランチバスケットを持つと、河川敷まで彼女と手を繋ぎながらただ黙って歩いて行った。この間に良い考えを出さないと。
雲の切れ間から太陽が見え隠れする空だ。古城さんの事が無ければもっと気持ち良かったのに。河川敷に着くとそのままゆっくりと歩いた。
「奈央子さん、やはり彼女の事は受け入れましょう。あなたはとても綺麗だ。校内でもあなたに気持ちを寄せている人は一杯いる。
今、俺達の事が知られれば、俺達二人にどんな事が降りかかるか分からない。だからここは我慢しましょう」
「嫌です。もし古城さんと校内で仲良くするなら私にもして下さい。友達の体で構いません」
「古城さんは俺達の間柄を知っています。もしそうすれば、彼女は俺達の事を皆に話すのは明らかです」
「でも、でも心配です。古城さんがこの機に乗じて、京之介さんに積極的に出て来たらと思うと。もしかして日曜日も会ってくれと言って来るかも知れません」
「大丈夫です。それは流石に断ります。もしそこまで言うなら俺達の事、俺達自身が皆に言いましょう。付き合っていると」
「えっ?!」
今、京之介さんは付き合っていると言うと言いました。もう彼の心の中では私達は付き合っているというステージなのですね。友達では無いのですね。
「京之介さん、私達はお付き合いしていると公言するんですよね」
「早とちりしないで下さい。古城さんがあくまで校内の友達を逸脱して日曜日も外で会うと言い出した時です。友達以上に言わないと意味が無いという事です」
「そういう事ですか」
「あの、奈央子さん。変なこと考えていないですよね?」
「変な事?」
「古城さんを煽るとか?」
「な、何を言っているのです。そんな事する訳ないじゃないですか」
ばれていましたか。
動揺している。やっぱりな。
それからも少し散歩した。口数少なく手を繋ぎながら歩いている。天気の所為で富士山は見えないが、何処にあるか位は分かる。まだまだ暑いけど強い日差しも無くいい天気だ。
歩いていると落ち着いたのか
「京之介さん、この辺でシートを敷いて休みませんか?」
「いいですよ」
二人には少し大きめのシートを敷いて、靴を脱いでシートの上に座った。奈央子さんが川を下流方向を見ている。
「京之介さん、古城さんと校内で友達として仲良くするのは構いません。我慢します。でも外で会っている時、私の友達ポジションは寂しいです」
何が言いたいんだ。
「だから、私との関係は古城さん達とは違うっていう何かが欲しいです。出ないと古城さんと京之介さんが仲良くしている姿が目に入るのは、心が締め付けられる位寂しいです」
「何かって?」
「それは京之介さんが考えて下さい」
それから、彼女の作ってくれたサンドイッチやフルーツを食べた。楽しい話をしているつもりでも何故か、彼女の目は寂しそうにしていた。
その後もそこでのんびりしてからゆっくりと巫女玉の駅に向かった。改札で手を放してそのまま別のホームに行くと思っていたら
「今日は送ってくれないんですか?」
そういう事か。
「送ります」
また彼女が手を繋いで来た。ランチバスケットは俺が持っている。
電車の中でも彼女は無言だった。彼女の家のある最寄り駅に着いて降りてから彼女の家に向かった。
玄関に着いてそのまま入って行くと思ったらランチバスケットを道路に置いていきなり抱き着いて来た。周りには誰も居ない。
ぎゅーって感じで俺を抱きしめて来る。そして見上げる様に俺の顔を見た。そして
「京之介さんと私との関係が他の人と違う証が欲しいです」
そう言って目を瞑った。これって、ラノベなんかだとあれだよな。でもそうして良いのか。まだ早いんじゃないか。
彼女は俺の体に回した手を緩めようとはしない。そしてもう一度目を開けると少しだけ目元に涙が潤んだ。仕方ないか。俺は唇をゆっくりと彼女の唇に近付けていくと
「こほん。うん!」
俺と同じ位の身長で和服姿の男の人が立っていた。眉毛が濃くて彫りの深いはっきりとした顔だ。
「えっ?」
「あっ!お父様」
「奈央子、玄関の前で何をしている。その男は誰だ?」
流石に俺達は離れると奈央子さんは手で目元を拭くと
「お父様、早瀬京之介さんです」
「えっ!」
「早瀬京之介です。はじめてお目に掛かります。奈央子さん。俺今日は帰ります。また学校で」
「えっ!待って」
「早瀬君、待ちなさい。その節は娘を助けてくれてありがとう。言葉では言い表せない位だ。先程は失礼した。家に上がってくれないか?」
「今日は帰らせて頂きます。また改めて」
少し、はっきりとした口調で言った。今の状況で奈央子さんの父親と顔を合わせるほど俺の心は成長していない。
「そうか。早瀬君、君のご両親にも挨拶をしたいのだが」
「そういう事は結構です。あの時、奈央子さんを助けたのは、偶々通りかかったからです。特に大袈裟にするつもりは有りません。俺はこれで失礼します」
「京之介さん…」
「奈央子さん、また明日学校で」
彼が歩いて駅に向かってしまった。私は、お父様をの顔をジッと見ると
「なんで声を掛けたのですか。やっとここまでたどり着けたのに」
「しかし、奈央子が見知らぬ男とその…」
「京之介さんを知らないのはお父様です!」
私はそれだけ言うとお父様の前から玄関に向かった。あの時、お父様が声を掛けなければ、最後のステップ迄一挙に距離が縮まったのに!
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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