第23話 考えるより行動
私は、午後七時半過ぎにスマホを手に持つと早瀬君に掛けた。
俺は、丁度家族との夕飯が終わって自分の部屋に戻ろうとした時、ポケットの中に入れてあったスマホが鳴った。奈央子さんかなと思い画面を見ると杉崎さんだった。階段を上がりながら画面をタップすると
『こんばんわ。早瀬君』
『こんばんわ。杉崎さん』
『いま、話せる?』
『うん、いいよ』
『早瀬君、明日か明後日会えないかな?』
これまた急だな。でも明日は奈央子さんと会うし、明後日も分からない。
『ごめん、両日とも予定が入っているんだ』
『そうなのかぁ。残念だな。諦めるしかないか』
『ごめん』
『じゃあ、また学校で』
私はスマホの通話を切ると明日会うのは間違いなく有栖川さん。でも明後日は…。まさか二日連続。
だとすれば早瀬君の気持ちは相当に有栖川さんに傾いている。これは不味い。何とかしないと…。と言ってもどうすれば。
翌日も俺達は巫女玉で会った。今日は奈央子さんが秋服を買いたいと言っていたのでそれに付き合う事にした。
最初行ったのは改札を右に行ったビルの中にあるPBショップ。結構な数のお店が在ったけど、入ったのは三店舗だけ。その中の一店舗で気に入ったものが有ったらしく
「京之介さん、これどうですか?」
俺に聞かれても分かる訳ないけど、この人は大体のデザインの洋服は着こなせるようだ。大きな金色のボタンが三つずつ付いている紺色のロングジャケットと同じ紺色のミニスカート。
「素敵ですね。似合うと思います」
「では、試着してみますね。一緒に来て下さい」
断ってもどうせ連れて行かれると思い、素直について行った。しかし、カーテン一枚隔て向こうで奈央子さんが着替えをしていると思うと気になってしょうがない。
少し離れた方が良いと思い、試着室の通路から出ようとするといきなりカーテンが開いた。
「どうですか?」
しっかりと彼女の魅力を引き出している。スカート丈が短い分、彼女の素敵な太腿が丸見えだ。ちょっと目の毒。でも
「とても良く似合っています」
「ふふっ、ではこれにしましょう。少し待っていて下さい」
他の女性もいる為、俺は試着室の通路の外で待っいると奈央子さんが最初に来ていた洋服に着替えて出て来た。
この人、スタイルがいいだけに目のやり場に困る時が有る。特に今の季節はまだ薄着だ。彼女の素敵な胸のラインが強調されている。見ない様にしているけど偶に目が行ってしまう。
ふふっ、京之介さん。今日は何故か私の胸に目が行くようです。だってそういうブラを選んで着ているから。
早く次のステップに進みたいけどこれだけは彼から来てくれないと。でも今日は帰りは家まで送って貰える約束。チャンスかも。
彼女が会計し終わった後、俺が新しく買った洋服が入っているブランド名付きの大きな袋を手に持った。
「ありがとう」
「うん、いいよこれくらい」
京之介さんは優しい。私は直ぐに手を繋ぐと
「SCの中に素敵な紅茶のお店が在るんです。行きませんか?」
「いいですよ」
一階に降りて改札の前を通って、交差点で信号が青になるのを待った。
§古城
私は巫女玉のSCの中にある本屋に行く為に改札を出ようとすると、えっ?早瀬君と有栖川さんが手を繋いで歩いている。どういう事?
驚きながらも改札を左に曲がると二人も交差点で信号待ちをしている。あっ、青になった。二人は真直ぐ交差点を渡りSCの中に入ってエスカレータに乗った。
私も同じ方向なので、そのままエスカレータに乗ると、何と本屋のある三階で降りた。そして二人はエスカレータの前にある紅茶専門店にそのまま入って行った。
私は右方向の本屋に行くのだけど、ちょっと頭が混乱状態にある。何故二人が手を繋いで歩いていたの?
それにあの雰囲気は相当に親しい感じ。まさか…。えーっ!有栖川さんじゃ敵わないよ。1Cの杉崎さんだと思っていたのに。あの子ならまだと思えるけど。
あーっ、もう、どうしたらいいの。何もしないで片思いで終わってしまうの。せっかく彼の左側に座っているのに。
私は、ファッション誌を手に取ってもさっきの二人の姿が気になって雑誌を見ていられなかった。久々にここに来たというのに。こうなったら…。
私は、エスカレータ横にある休憩用の椅子に座った。そうあの二人が出て来るのを待って関係をはっきりさせてやる。
でも三十分経っても一時間経っても出て来ない。おトイレにも行きたくなった。少しだけならと思いトイレに行った後、エスカレータ方向に行こうとしたところで、二人が下りエスカレータに乗って行ってしまった。
彼女になれなくても学校でもっと積極的に話せる友達位に持って行けたかも知れないのに。
「古城さん、結構粘りましたね」
「何を考えているのか知りませんでしたけど。でも見られていたとは。学校で彼女には口止めしますけど、会う場所を考えないといけないですね」
「はい♡」
うん?何故か奈央子さんの目の中にハートが見えた様な。
それから少し、河川敷の傍を散歩して中華キュイジーヌで少し遅くなったお昼を食べた。それから東屋のある池を散歩した。東屋で休憩を取っていると奈央子さんが
「京之介さん、今度から何処で会いましょうか。渋山とか行ったら益々、見られてしまう機会が多くなります。
偶にはお家デートかしませんか。偶にでいいですけど」
「でも、俺達こういう風になってからまだ一ヶ月も経っていないですよね。まだお家デートは早いのでは?」
「京之介さんは私とお家に居る事が嫌なんですか?」
参ったな。この人の気持ちが分かっているだけに隙を見せたら…。それに万一あった時とても責任を取れる年齢じゃない。
せめて高校三年になるまでは。あれ?俺何考えているんだ。まるでこの人と結婚でもするような事考えていないか?
「京之介さん?」
「あっ、いや俺だって奈央子さんとお家デートは嬉しいですよ。あなたみたいに綺麗な人と一緒に居れるのですから」
「ならばいいでは無いですか。今からでも私の家に行きましょうか」
「えっ、それはちょっと」
「何故いけないんですか。今、私と一緒に居る事が嬉しいと言いましたよね」
困ったぞ。何となく一方的に言いくるめられている様な感じがする。ここは冷静にならないと
「奈央子さん、古城さんに見られたのは仕方ないですけど、彼女の事なら学校で何とかなります。もう見られてしまったんだし、ここはこのままこうして居ましょう。今日は奈央子さんの家まで送る事になっているし」
もう少しだったのに。
「分かりました。仕方ないですね。今日はこのままにしましょう。でも明日はお家デートにしませんか?」
そうだった。明日の事はまだ決めていなかった。ここで断る雰囲気でも無いし。でも俺のメンタルなんて軽く流されそうだし。
「あの、明日の件ですけど…」
「会ってくれますよね」
うっ、この人こういう所積極的だ。でもお家デートは避けたい。どうしようかな。明日まで考えるか。
「分かりました。何処で会うかは、今日の夜までに決めます。それでいいですよね」
むむっ、そう来たか。でもこれ以上の強硬姿勢はマイナスだ。
「はい、京之介さんの考え通りで良いです」
その後、喉が渇いたので改札近くにある喫茶店でジュースを飲んだ。この時は二人共静か。周りに他のお客もいるのでさっきの様な話は出来ない。
それから彼女の家まで送って行った。巫女玉から三つ目。この辺では有名な住宅街だ。でも結構坂も多い。歩いて五分程だったけどちょっとした高台に在って大きな家だった。
「京之介さん、まだ時間は早いです。寄って行かれますか?」
「今日は止めておきます」
「そうですね。今日は止めておきましょう」
「それでは、また明日」
「今日の夜連絡頂けるんですよね?」
「勿論します。俺も奈央子さんには会いたいので」
「はい♡」
京之介さんが俺も私に会いたいと言ってくれました。嬉しいです。もう少しです。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます