第25話 時は静かに過ぎて行かない
駒門祭の代休が終わった翌日、俺はいつもの様に学校の最寄り駅を降りて学校に向かっていると
「京、おはよ」
聞き慣れた声にちょっとだけ後ろを振り向いて
「おはよ、智、碧海さん」
「おはようございます。早瀬さん」
手を繋いで歩く二人に仲が良いなと感心していると
「京は代休どうしてた?」
「別に、家でゴロゴロしていただけだ」
「勿体ないなぁ。何処か遊びに行かなかったのか?」
「特にその気も無いから」
まさか、奈央子さんと二日間会っていたなんて言えない。そして他愛もない話をしている内に学校に着いた。
昇降口で履き替えて教室に入ると左隣りに座る古城さんが
「おはよう、早瀬君」
「おはようございます。古城さん」
「早瀬君、固いよ、もっと簡単に言って」
早速かよ。夏目さん達が変な目で俺達を見ている。静かにしてくれていると良いのだけど。智は気に掛けていない様だ。
でもそれ以外は話しかけて来る事も無く、一限目の授業が終わった。トイレに行こうと廊下に出ると1Cの杉原さんが待っていたように俺の所に来て
「早瀬君、ちょっと話できないかな。お昼休みでもいいし、放課後でもいいよ」
「じゃあ、放課後で」
「昇降口で待っているね」
あまりいい予感がしない。
§古城
杉崎さんが早瀬君に話しかけている。何か頼んでいる様だけど。
お昼になり、智が
「京、学食行こうぜ」
「おう」
智と一緒に行こうとすると古城さんが、
「私も一緒に良いかな?」
「俺、智と一緒に食べるので」
ちょっと冷たく言いってそのまま学食に向かった。
あんな言い方しなくてもいいのに。今日は様子見とするか。そんな事を思いながら自分も学食に向かおうとすると
「古城さん」
「えっ?」
後ろを振り向くと夏目さん達が近付いて来た。
「古城さん、朝の早瀬君に対する挨拶。あれ何?そして今の事も」
「別に友達からだよ」
「友達?」
「うん、早瀬君は私の友達。もう単なるクラスメイトじゃないわ」
「どういう事よ?」
「そういう事。私、学食に行くから」
そう言って夏目さん達を避けて学食に向かった。
§夏目
何、いつから古城さんが早瀬君と友達になったの?あんなに気軽に話すなんて。初めは隣の席だからなんて思っていたら。彼に何かしたのね。
「洋子、私達もお昼にしよう」
「あっ、ごめんなさい。そうしようか」
俺は智と一緒に学食に行くと智はチケットを買わずにホールの中に入って行った。
俺はチケットを自販機で買ってカウンタで受け取ってから智と碧海さんの座っているテーブルに行くと二人で笑顔を見せながら楽しそうにしている。やっぱりお邪魔虫じゃないか。
「智、俺そろそろ二人と別々に食べた方が良いんじゃないか。なんかお邪魔虫みたいだし」
「そんな事無いよ、早瀬君」
「そうだぜ、今更遠慮なんかするな」
「そうなのか?」
どう見ても俺がお邪魔虫の様な気がしてならない。何故かって、目の前で仲良さそうに二人で食べてる感満載だ。俺何故ここに居るのか分からなくなる。
そう言えば、一学期に比べて何となく周りにいる女性生徒の数が少なくなったような。やっぱりこれがいい。目立たないのが一番だ。
問題は、来月ある中間考査だ。どうするかな。お姉ちゃんの言っている事も分かるけど、俺が満点なんか取ったら思い切り目立つし、なんかいい回避方法無い物かな。
それと今日の放課後、杉崎さんから誘われている。お姉ちゃんが言っていた生徒会入ろうかな。そうすれば断る理由も出来るし。
「京、京。何考えているんだ?」
「えっ?!」
「弥生ちゃんが話しかけても全然気付かないし」
「あっ、ごめん。それで何?」
「あの、来月ある中間考査の準備、また教えて頂けると嬉しいんですけど」
「京、俺からも頼む」
「うーん、でも二人でやった方が良いんじゃないか。お互いの為にもなると思うんだけど」
「「そこを何とか」」
二人に頼まれては仕方ないか。
「じゃあ、考査ウィークの時だけだよ」
「ありがとうございます」
「ありがとう、神様、京様、仏様」
「意味分からん」
午後の授業も何事も無く終了し、バッグを持って帰ろうとすると
「ねえ、早瀬君。一緒に帰らない?」
「ごめん、今日は用事があるんだ」
「そう。分かった」
有栖川さんと一緒に帰るとは思えないし、ちょっと見てみるか。私は早瀬君が席を離れてから少しゆっくりと席を離れた。
彼が、昇降口に向かって行く。えっ?履き替えると近くに居た杉崎さんに声を掛けた。どういう事?
「杉崎さん、行こうか」
「うん」
校舎を出て行った。十メートル位離れてついて行くと杉崎さんが早瀬君に色々話しかけている。何だろう。でもあまり近付いても良くないし。
「早瀬君、有栖川さんと付き合っているの?」
「どうしてそんな事聞くんですか?」
「ちょっと前に君と有栖川さんがホームで手を繋ぎながら楽しそうに話していたから。あれって友達レベルじゃないよね」
あの時の事か。
「いえ、あの人とは友達です。少しはみ出ているかもしれませんが、友達で有る事には間違いないです」
「ふーん、そういう言い方だと友達以上恋人未満って所か。いいなぁ。私も早瀬君とそういう関係になりたいよ。ところで二人は何処で知りあったの?」
「何処でも良いじゃないですか。あなたには関係無い事です」
「ねえ、早瀬君、私達友達だよね。そう言ってくれたよね」
「はい、杉崎さんとは友達のつもりですけど」
「じゃあ、学校でも話しかけていい。友達ならその位いいよね」
どこかで聞いたようなセリフだな。でも面倒だな。古城さんと言い、杉崎さんと言い、はっきりいって面倒だ。
「杉崎さん、俺、あんまり目立ちたくないんです。そういうの嫌いで」
「知ってるわ。だから有栖川さんとは外で会っているんでしょう。考査の事だってそうだし。
でもね。…はっきり言って私、早瀬君の事が好きよ。こんな感じで告白したくなかったけど。こうでも言わないけど、振り向いてくれないでしょ」
参ったなぁ。俺のどこがいいんだよ。
「お願い。今付き合ってなんて言わない。でも私にもチャンスが欲しい、有栖川さんがそうなったように」
なんか、凄い事言っているぞ。
「杉崎さん、気持ちは分かりましたけど、今の所は友達レベルでお願いします。それも出来れば静かな方で」
「なんで?」
「杉崎さんは可愛いし、クラスでも人気があると聞いています。もし俺と杉崎さんが校内で仲良くしていたら、あなたを好きな男子が何をしてくるか分かりません。だから目立ちたくないんです」
有栖川さんと校内で会わないのはそういう事か。なるほどな。でもこれは都合がいいかも。
「分かったわ。じゃあ、下校の時だけで良いから一緒に帰って。その代り校内では話しかけない。ねっ、いいでしょう」
参ったなぁ。そんな事したら奈央子さんがどんな焼餅焼くか。これは駄目だな。
「ごめん、それも出来ない」
「じゃあ、校内で普通に話させて。これ以上妥協できない」
「うーん、考えさせて」
こういう事の即答は避けた方がいい。
あっという間に駅になった。
「じゃあ、これで。また明日」
「うん、よく考えてね」
早瀬君の心の中に有栖川さんが相当入り込んでいる。私への言葉は、全部あの人の事を考えての事。
イケメンで頭が良くて、気遣いが有って優しい人。先はともかく今は彼の事が好きで堪らない。何とかしたい。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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