第56話 体育祭午後編
昼休みが終わった後、午後一番の競技は百メートル走だ。一年から三年まで一学年が男女二組ずつ四組走る。
スタート地点には、十二組の出場者がずらりと並んでいる。一年生から競技が始まった。順調に競技は進行して二年生の順番になった。
二年生第一組でスタートするのは2Aからは有栖川さんと勅使河原さんがいる。二人共負けん気が強いからどうなる事かと思っていると
あっ、スタートした。ほぼ同時だ。勅使河原さんが少し前に出た。横目で有栖川さんがそれを見てスピードを増した。
五十メートルまでほとんど同じだ。他の生徒はちょっと遅れている。八十メートルまで来た所で、えっ、二人の後ろから物凄いスピードで追い抜いて行く女子がいる。誰だ?
そしてそのままゴール。有栖川さんと勅使河原さんは同着二位。二人共膝に手を着いてはぁはぁ息をしているけど、一着の子は息も切らしていない。
「京、見たか。
「へーっ」
俺が無関心でいると今、一位になった新垣梨音がこっちを見てニコッとした。
「ぷっ、京、どれだけハーレム男なんだよ」
「えっ、どうしたの?」
「お前って男は全く。一緒に居て飽きないよ」
「????」
どういう事だ。あっ、二組目がスタートラインに着いた。夏目さんと杉崎さんだ。
レディ。
パーン。
電子銃の音と共に一斉にスタートした。夏目さんが少しリードしている。杉崎さんは、あまり走りは得意でない様だ。三番手だ。
えっ、五十メートルを過ぎた辺りから杉崎さんが出て来た。なに!夏目さんに並んだ。そしてそのままゴール。同着一位だ。凄い。
「京、愛の力は偉大だな」
「どういう意味だ?」
隣座って居る中川が
「田中、早瀬って噂以上に凄い奴だな。傍に居て面白いぜ」
「だろう、中川」
「お前ら何言っているんだ」
「「あははっ、面白い」」
二年生の競技が終わり、クラスの集合場所に出場選手が戻って来た。
「早瀬君、見てくれた。二位になったけど頑張ったよ」
「勅使河原さん、頑張ったね」
「早瀬君、私も頑張ったよ」
「うん、有栖川さんも頑張ったね」
「早瀬君、私も」
「私も」
「夏目さんも杉崎さんも頑張ったね」
クラスの男子がこの光景を見て腹を抱えて笑っている。俺に身にもなってくれ。
「京、しかし最近、皆お前に対する気持ちを隠さなくなったな」
「ああ、田中。俺もそう思う」
「智、中川、勘弁してくれよ」
「京、もうすぐ二百だぞ。いかないと」
「おう」
何となくやる気ないけど…。二百メートルはトラックを一周する。その関係でスタート位置は来賓や体育祭実行委員会の先生や生徒が座って居る。
勿論詩織さんもいる。チラッと彼女を見るとニコッとして、声を出さずに「京之介様頑張って」と言って来た。
何となく口の動きで分かった。俺も笑顔で返すと思い切りの笑顔で返して来た。隣の先生が不思議そうな顔をしているけど。
俺のスタートは三組目。一学年男女一組ずつ。二年生では一番目だ。一年生が始まった。それを見ていると何と借り物競争の時、俺を連れて行った新垣理沙が走っている。ダントツ一位だ。凄い。
智の言っている通り、走っている時の容姿は姉そっくりだ。双子と言われても分からない。
そして俺達の前を掛け抜けて行った。二位との差は五メートル以上離れている。なんて子だ。
それから一年生男子が有って、俺はスタートラインに着いた。腰を落としてのクラウチングとかはしない。普通に立ったままのスタートだ。
レディ。
パーン。
電子銃の音ともに体が反応して飛び出した。前を走っている生徒はいない。そのままコーナーを曲がり、各クラスの集合場所の前を走っていると凄い歓声だけど聞いている暇はない。
そのまま走り抜け、次のコーナーを曲がって最初のスタートラインに戻って来た。スローダウンして後ろを見ると他の参加者はまだコーナーを曲がって立ち上がって来た所だ。
もっとゆっくり走っても良かったか。さっきから凄い競争を見せつけられたからちょっと気合が入ってしまったな。
詩織さんの方を見ると満面の笑みで拍手をしている。
§有栖川
生徒会長が京之介さんの方を見ながら思い切りの笑顔で拍手をしている。やっぱり、間違いない。でもいつから?
§勅使河原
京之介様。勉強だけでなくスポーツも優秀だったとは。だからあの時私を助けられたんだ。
それに今回の体育祭で分かった。彼に好意を持っているのはクラスの子だけじゃないって事も。
特に小早川生徒会長侮れない。この学校に転校して来てもっと簡単に京之介様とラブラブになれると思っていたのに。
俺が、クラスの集合場所に戻ろうとすると新垣理沙さんが近付いて来て
「早瀬先輩。今度二人でお話をしたいです。お願いします」
「あっ、うん。今度ね」
「はい」
笑顔で戻って行く。
そして俺の今日最後の種目学年合同クラス別リレーの参加者がスタートラインに集まった。
女子二年生の中にはさっき百メートルを走った新垣梨音がいる。俺の方をみてニコッとした。その姿を見た夏目さんと杉崎さんが
「早瀬君、よそのクラスの子なんか見ないで集中しよう」
「そうだよ。早瀬君」
「はははっ、早瀬。モテる男は大変だな」
「中川、勘弁してくれよ。俺はのんびり生きたいんだ」
「まあ、その考えは無理だな」
そんな話をしているとそれぞれのスタートラインに参加選手が別れて行く。中川、夏目さん、俺、杉崎さんの順でバトンパスする。三年のアンカーが二百メートルを一周する関係で俺は生徒集合場所側のスタート位置だ。
スタート前は静かだった校庭が電子銃の音で選手がスタートすると物凄い歓声に包まれた。
一年生の順番はC、A、B、D、Eクラスだ。そのまま三人にバトンパスされて二年生に繋がる。
中川が位置をキープしたまま夏目さんにバトンを渡した。練習通り上手くパスしている。
えっ、夏目さんの後ろから物凄いスピードで追いついてくる子がいる。新垣梨音さんだ。凄い。一瞬で夏目さんが抜かれ、俺の隣にいたBクラスの男子にバトンが渡された。
その後、夏目さんが来た。
「早瀬君、お願い」
「分かった」
それだけ言うと、前を走るBクラスの選手を追いかけた。コーナーで捉えると立ち上がりで抜き去り、一番目を走るCクラスの選手が次にパスする女子と俺が杉崎さんにバトンパスするタイミングがほとんど同じだ。
「杉崎さん」
「任せて」
凄い、ほとんど同時にコーナーに入って行った。でもCクラスの選手の方が前だ。コーナー立ち上がりから杉崎さんがCクラスの子と並んだ。
Aクラスから凄い応援が飛んでいる。三年生にバトンパスするのが同時だった。凄いレースになったな。校庭は生徒の応援の声で物凄い歓声だ。
結果は、Cクラスがそのまま一位になった。俺達Aクラスもそのまま二位だ。競技が終わってクラスの集合場所に行こうとすると
「早瀬君」
振り向くと新垣梨音さんだ。
「なに?」
「妹があなたを好きみたいなの。あっ、私も君の事好きだけど妹に譲るわ。大切にしてあげてね」
「……………」
返す言葉もない。新垣さんは言うだけ言うと自分のクラスの方に戻って行ってしまった。頭の中が整理付かないままクラスの皆の所に戻ると智や他のクラスの子が
「京、凄かったな。興奮したよ」
「おう、早瀬、かっこ良かったぜ」
「早瀬君、かっこ良かったわ」
「いや、中川や夏目さん、杉崎さんが頑張ったからだよ」
「でも早瀬君かっこ良かったよ」
「そ、そうかな」
頑張ったのは俺だけじゃないのに。
やがて体育祭も無事に終わり、教室に戻ろうとすると
「早瀬君」
「生徒会長」
「放課後、生徒会室に来て下さい」
「…はい」
どういうつもりで言っているんだろう。
クラスに戻ると当然ながら打上の話が出たけど生徒会室に行かないといけないと言って断った。
§有栖川
ここまで来るとはっきり分かる。小手川さんは生徒会室を利用して京之介さんとデートしているんだ。許せない。
§勅使河原
なるほどそういう事か。生徒会長が私事に生徒会室を使うなんて。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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