第57話 焦る有栖川さん


 体育祭が終わった放課後、生徒会室に行くと詩織さんが、一人で椅子に座って居た。

「京之介様」

「詩織さん、今日は何か作業があるんでしたっけ?」


 彼女は席を立つとドアの傍に来て鍵を掛けた。


「えっ、何を……」

 俺の言葉が終わる前に俺に抱き着いて来た。


「どうしたんですか?」

「今日は、他の人が京之介さんと一緒に居て一杯体をくっ付けたりしていました。私は立場柄集合場所に行けなくて…悔しかったんです。ですから今直ぐ一杯京之介さんを感じたいんです」

「詩織さん…」


 この人、他の人の前では、ほんとお淑やかな女性という感じだけど俺の前だといきなり甘えん坊になる時がある。それに最近焼き餅焼きが酷くなって来たような?


 俺が離さないとずっとくっ付いているつもりなのかな。結構時間経った感じがするんだけど。

「詩織さん、そろそろ」

「はい、これで少し心が落着きました。帰りましょうか」


 二人で生徒会室を出て昇降口で履き替えてから校庭に出るともう体育祭の時に使った用具は全て片付けられていた。


 駅まで一緒に行って改札に入ってさよならを言おうとした時、

「京之介様、明日は会えないんですよね?」

「済みません」

「分かりました」


 俺とは反対方向のホームに向かう彼女の背中が寂しそうに感じたのは気の所為では無いだろう。でもこれ以上彼女と親密な関係になるのは避けたい。


 家に戻って二階に上がるとお姉ちゃんのドアは開いていた。最近はより俺帰って来るのが遅いのに。


 俺が自分の部屋に入って着替えようとした時、お姉ちゃんが入って来て

「京之介」

「なに?」

「あなた、日曜日は有栖川さんと会っているのよね」

「そうだけど」

「詩織ちゃんとはいつ会っているの?」

「うーん、月曜日が休みの時とかかな」

「そう、もう少しあの子と会う時間増やせない?」

「それは出来ないよ。土曜日は稽古があるし、午後は一人で居たい」

「そう」


 それだけ言うとお姉ちゃんは自分の部屋に戻って行った。言っている事は分かるけど、俺は奈央子さんと付き合っている。


 詩織さんとはお姉ちゃんの関係で会っているけど、出来れば生徒会だけの関係にしたい。

 とはいえ、詩織さんを抱いてしまった責任は重い。考えれば考えるほど、あの時自分がした事が頭に来る。どうしたものか?



 夕飯も食べ終わり自室で本を読んでいるとスマホが震えた。奈央子さんだ。俺は直ぐに出ると


『はい』

『京之介さん、奈央子です。今日の事なんですけど…』

『今日の事?』

『はい、クラスの女の子達や他のクラスの子、それに一年生までが京之介さんに対する好意をもう隠さないでいます。私もはっきりと京之介さんが好きという事を皆の前で言いたいです』

 何となくバレていると思うんだけど。


『それって、俺達が付き合っているという事も話すんですか?』

『いえ、それはしません。流石に今公にすると大変な事になりそうなのは私でも分かります』

『でも、俺を好きだという事を皆の前で言ってもあまり変わらない様な?』

『どうしてですか?』

『だって奈央子さん、思い切り皆の前で俺が好きな事、意思表示していますよ。口出さないだけで』

『それは分かっています。でも口に出すと出さないとでは他の人に対するインパクトが違うと思うのですけど』


 参ったな。それをすれば他の子も同じ事をし始める。行動では示しているけど口に出さない事で平穏を保っている。


 もし俺に好意を寄せる全員がそれを口に出したら更に積極的な行動に出るかもしれない。それに男子から何を言われるか。やっぱり我慢して貰うしかない。


『奈央子さん、聞いて下さい。もしあなたが俺を好きだという事を公に言うと他の子も当然口に出してくると思います。今は態度で示していても口に出さない事である程度平穏が保たれています。


 もし口に出したら、他の子達の行動がもっと積極的になるかもしれませんよ。益々今の状態を悪化させるだけです。我慢して下さい』


『でも、私は京之介さんを…』

『奈央子さん、何度も言わせないで下さい。俺が好きなのはあなただけです。他の人達が何と言おうと変わりません。信じて下さい』


 私も分かっている。でもこの気持ちを抑えられない。どうすれば。

『京之介さん、私もあなただけです。あなただけが全てです。分かっているのです。でも心が…』


 どうすればいいんだろう。仕方ない。

『奈央子さん、明後日の日曜日、奈央子さんの部屋で思い切り抱きしめます。あなたが嫌って言うまで。だから我慢して下さい』

『えっ、本当ですか?』

『はい、でも洋服を脱ぐのは無しですよ』

『えーっ、そんなぁ』

 肌を触れ合わせると全く違うのに。いいやその時何とかすれば。


『奈央子さん、変なこと考えていませんでした?』

『そんな事無いですよ』

どう見ても怪しい。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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