第58話 穏やかな中にも賑やかさは有る
賑やかな五月だったが六月に入り少し落ち着いた。月曜から金曜日までは学校に行き、土曜日は稽古してのんびり過ごし、日曜日は奈央子さんと会っている。
彼女は我儘だけど、ちょっとした仕草がとても可愛くて自然と笑顔になる時が有る。そんな時
「京之介さん、どうしたんですか?」
「奈央子さんが可愛くて」
彼女が耳まで真っ赤にして下を向きながら
「いきなりそんな事言わないで下さい。ドキッとするではないですか」
「そんな所も可愛いです」
いきなり俺の胸をポコポコと叩いた後、抱きついて来た。
「好きです。京之介さん」
「奈央子さん?」
「何ですか?」
「あの場所を考えないと」
「あっ!」
そう、今いる所は巫女玉のイベント会場だ。周りの人が微笑みながら通り過ぎて行く。思い切り恥ずかしい。
気を持ち直してイベントを見ている。ここはいつも子供達が多く居てイベントを楽しんでいる姿が見れる。
「可愛いですね」
「そうですね」
「ふふっ、もし京之介さんと一緒になれたら子供何人作ります?」
「はっ?!」
今度は俺が顔を赤くした。
「どうしたんですか、京之介さん。例えですよ?それとも本当に作ります?」
「奈央子さん、調子に乗らない」
「だからぁ、例えです。何人が良いですか?」
そんな事聞かれて直ぐに答えられる訳が無い。
「急に言われても」
「では考えて下さい。何人ですか?」
「ふ、二人かな」
「私はもっと欲しいです。そして京之介さんと楽しい家庭を作りたいです」
ちょっと待て、俺達はまだ高校二年生だぞ。まだそんな事考える年齢じゃない。
「奈央子さん、あっちのイベントも見ましょうか」
「あーっ、話を逸らそうとしている」
「そんな事無い。そんな事無い」
「本当ですか?」
手を繋ぎながらのんびりと見て、中華キュイジーヌで昼食を食べた後は近くの公園を散歩する。
それから彼女の家まで行って彼女の部屋で少し話をして帰るというのんびりとした時間がここ二週間流れている。
奈央子さんも心静かに時間が流れるのは心地良いみたいのだけど、六月も三週目に入ると週末は三連休だ。月曜日が祝日になる。
それは詩織さんと会う事を意味している。いつの間にかそうなってしまった。
「京之介さん、明日は小手川さんに会うのですか?」
「何でそれを?」
「分かります。私は京之介さんの彼女ですから。本当は京之介さんがあの人と会うのは嫌です。
でも仕方ないんですよね。それにあの人は三年生。来年になれば卒業です。それまでは我慢します」
最近はしっかりと自覚している様だ。
教室では何も変わらず、古城さん、杉崎さん、夏目さん、勅使河原さんが賑やかにしてくれているけど奈央子さんはそれに反応せずに静観している。それを見た智が俺を廊下に呼び出して
「京、最近、有栖川さんの様子がおかしくないか?」
流石よく見ている。
「おかしい?有栖川さんが。なんで?」
「前だったら古城さん達が京にキャアキャア近付いてきたら思い切り反応していたじゃないか。それが最近は静観している。何か有ったんじゃないか?」
「俺もそう思っているよ。でもそれで良いんじゃないか。俺は一人でも騒がしくなる人が少ない方がいいよ」
「それはそうだろうけど」
やはり、そろそろ智には話しておいた方が良さそうだな。
「智、今度時間作ってくれ大切な話が有る」
「おう、それは構わないが」
「今度の日曜日。外で会えないか?」
「いいけど」
「じゃあ、時間と場所は後で連絡する」
「分かった」
俺は、この事をその日の夜に奈央子さんに話した。
『えっ、田中君に話すのですか?』
『はい、あいつとは長い付き合いです。流石にそろそろ話してもいいかなと思って』
遂に京之介さんが私との関係を他の人に話してくれる。物凄い進展です。
『分かりました。何処で?』
『今度の日曜日に渋山か巫女玉が良いと思うんですけど?』
『分かりました。偶には渋山に出かけましょうか』
『そうですね。何時に会うかは智の都合も聞かないといけないので』
『分かりました』
次の日、学校の最寄り駅を降りて歩いていると後ろから
「京、おはよ」
「おはようございます。早瀬さん」
「おはよう、智、碧海さん。智、例の件だけど今度の日曜日、渋山駅前のトドールで午前十時でいいか?」
「渋山か、いいよその時間で」
「智也君、何の話?」
「京、弥生ちゃん一緒じゃ駄目か?」
「うーん。出来れば智だけの方が」
「分かった。弥生ちゃん。じゃあ待合せは午前十二時で」
「分かった」
何だろう。早瀬君と智也君の内緒話って。後で教えて貰えるかな?
放課後になり、生徒会室に行くと他の役員の人も居てPCを睨んだり、山と積まれた資料を見ている。
俺が自分の席に着くと副会長が
「早瀬君、生徒からの要望書をカテゴライズしている。手伝ってくれ」
「分かりました」
結構な量の要望書がある。
「早瀬君、生徒からの要望なんだけど、大きく学校全体に関わる要望、各部活に関わる要望、個人的な要望、それに緊急マークが付いている要望を一緒に分けてくれ。それを一枚ずつ検討して行く事になる」
「分かりました」
なんか凄い作業だな。
最終下校時間の予鈴が鳴ると
「今日は、ここ迄だ。明日また続ける。ご苦労様」
そう言うと副会長は、生徒会長に二言三言言った後、他の役員に挨拶して生徒会室を出て行った。他の役員もぞろぞろと帰って行く。俺も帰ろうとすると
「早瀬君、残って下さい」
「分かりました」
他の人が帰って十分位すると
「京之介様、明後日は会えるんですよね?」
「はい、そのつもりでいますけど」
「そうですか。私の部屋で会えませんか?」
「構わないですが、暖かいですし外で会いたいですけど」
「それでは、外で会った後、私の部屋に行きましょう。さて、帰りますか」
「はい」
生徒会に入って、放課後、他の生徒から帰りを誘われる事は無くなったが、詩織さんから毎日の様に誘われている。これでいいんだろうか。俺は自由に帰りたいのだけど。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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