第61話 夏休みも目の前
七月に入ってすぐに一学期末考査が有った。月曜から木曜までだ。そして翌金曜日は模試。
手抜きをするつもりは無いが、他の人も真面目に取り組んでくるはず。一年の時の様な訳にはいかない。もうすぐ俺の名前も埋もれて忘れ去られるさ。
土曜日、道場に行くと加納師範代が、
「京之介、八月八日から十日までの三日間だ。師範が八月に入ったら毎日通っても構わないと言っている。組手も師範自らが付けてくれるそうだ」
「えっ、師範が?!」
「ああ、全中と違ってもう高校レベルになると成人と同じだからな」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
これは結構気が入るな。でも良い事だ。型はともかく組手はフルコンタクト。防具を付けていると言っても油断すると要らぬ怪我をする。それに何とか上位に入って少しでも道場の役に立たないと。
日曜日は奈央子さんとデート。少し部屋に居る時間が長かったが、勅使河原さんの事もある。今日は仕方ない事だ。
でも前みたいに無理矢理シャツを脱ごうなんてしなくなった。精神的に落ち着いたのかな?
そして火曜日。いつもの様に登校して中央階段横の成績順表を見に行くと
「京、これからこれが続くのかなぁ?」
「俺にも分からないよ」
俺、奈央子さん、勅使河原さんが満点。次は二十点以上の差がついている。奈央子さんと勅使河原さんを見ると視線を合わせていない。良かった。
-あっ、生徒会長。
-ほんと、でも今回も何で見に来るのかな?
-さぁ。
「早瀬さん。お見事です」
「ありがとうございます」
ふふっ、京之介様が満点取るなんて当たり前です。有栖川さんと勅使河原さんを見に来たのですが、二人共満点。流石彼を狙っているだけあるわ。
今の所、勅使河原さんははっきりとした行動には出ていない様ね。でも注意しないと。もうすぐ夏休み。愛理様とも会いたいな。
今週末は三連休。そう月曜日が海の日で休みだ。となると当然、詩織さんと会う事になる訳だが金曜日の夜スマホが震えた。詩織さんかと思っていると、えっ、勅使河原さんだ。
『京之介様、紫苑です』
『はい』
『来週の月曜日。会って頂けないでしょうか?』
『済みません。用事が有ります』
『そうですか。どこかでお会いしたいです』
『済みませんけど学校以外では会えないです』
『京之介様。お願いです。二人で会いたいのです。紫苑はあなたの事で一杯なんです。お願いします』
連絡先交換しない方が良かったかな?でもどうすればいいか。
『京之介様、夏休みに入れば都合付きますよね』
『考えさせて下さい。夏休みは色々と予定が入っているので』
『分かりました。連絡お待ちしております』
『はい』
なんとか、彼と体の関係を持てば距離がぐっと近づく。この夏が勝負。有栖川さんなんかに負けていられない。
しかし、困ったなぁ。七月中は夏休みの宿題を集中的に終わらせて八月八日の全高まで毎日稽古だ。
その後は家族との旅行が有る。空いても八月十五日を過ぎる。しかし二週間位は一人で居たい。どうすればいいものか。
土曜日は稽古、日曜日は奈央子さんと買い物。何と一緒にプールに行きたいと言い出して水着を買うそうだ。ラノベだったらあのシチュが絶対あるのだが、現実には有る訳が…。
「京之介さん、これは如何ですか?」
俺は顔を両手で覆って声を掛けられた時だけ指をVの字に開いてチラッと見る。周りから変な目を向けられようが構わない。俺のメンタルを守る方が大事だ。
「それは、少し生地が少ない様な」
「こっちは如何ですか?」
「黒はちょっと」
「ではこれは?」
白のセパレートだ。でもちょっと。
「色がついていると良いですね」
「では、こちらですね」
オレンジ色のセパレートで上下に綺麗な花が描かれている。
「はい、良いと思います」
やっと解放されると思ったら
「京之介さん、実際に私に合うか試着してみます。一緒に来て下さい」
「いや、それは流石に…」
「来て見ないと分かりません」
両手を顔で覆っているのでTシャツを引っ張られた。抵抗したら破れそうだ。指をVの字にして試着室の入口で待っていると彼女がカーテンを少しだけ開けて手招きしている。
ここまで来たら仕方ないと思い、彼女が居る個室の前まで行くと彼女はカーテンの隙間から顔を出して左右を見てからカーテンを開けた。
「どうかな」
可愛い顔をしてポーズを決めながら言って来た。彼女の大きな胸と素敵なお尻がしっかりと水着に覆われている…。括れた腰や可愛い小さなおへそが丸見えだ。
俺は直ぐに首を横に向けると
「とっても似合っています。では俺は外で」
「はい」
ふふっ、あの時以来ですね。水着を着ているとはいえ、生身の体を見せるのは。京之介様はとても恥ずしがっていましたけどしっかりと私の体を見ていました。これで目的は達成です。いずれ彼から…その時を待っていましょう。
試着室を出てきた後は水色のラッシュガードを買った。その後はサンダルを買う事にしている。こちらは俺も普通にショップに入って一緒に見た。
昼食を一緒に食べながら
「京之介さん、いつ行きましょうか。八月入って直ぐは如何ですか?」
そうだ、奈央子さんは言ってなかった。
「奈央子さん、俺八月八日から十日まで空手の大会に出ないといけないんです。だから八月に入ったら十日が終わる迄会えないです」
「えっ、でも夏の宿題は一緒に出来ますよね?」
「ええ、それは構いません」
「そうですか。その大会は私が見に行く事は出来ますか?」
「関係者以外は会場に入れません」
「そうですか」
がっかりした顔でうなだれている。
「でもその後は?」
「家族で旅行に行くので、八月十五日過ぎなら」
「では、八月十五日にプールに行きましょう」
「そうですね」
なんか、一人の休みが取れなさそう。
そして、次の日会った詩織さんからも夏休み都合の付く日に日帰りで良いので二人でどこかに行きましょうと誘われた。どうしたものか。
その日、家に戻るとお姉ちゃんが
「京之介、夏休み、詩織ちゃんとは会うの?」
「うん、会いたいと言われたのだけど予定が立っていない」
「そう、それなら簡単だわ。うちの家族旅行の時、彼女も一緒に行けばいいのよ」
「えっ、それは流石に…」
「お母さんは喜ぶわ。お父さんも問題ないだろうし」
俺が問題あるよ。
「うーん、家族旅行は家族だけで行きたいよ。詩織さんが一緒に居ると気を使ってしまう」
「いいじゃない。二人だけで一部屋に泊っても問題ないわよ」
「お姉ちゃん!」
「あら、もうあの子とはしているんでしょう。あの子も喜ぶわよ」
「流石にそれは出来ない。この前の事は反省している」
「反省なんていらないわよ。あの子は京之介さえ望めば何だってさせてくれるわ。赤ちゃん作っても問題ないわよ」
「お姉ちゃん、駄目だ。俺はそんな事しない。俺は奈央子さんと付き合っている」
「いいじゃない。有栖川さんとの事は高校時代の良い思いでに留めておきなさい。もうすぐご飯よ。一階に降りましょう」
お姉ちゃんには敵わない。凄い事を平気で言って来る。なんでお姉ちゃんはこれほどまでに詩織さんを俺に進めて来るんだ。奈央子さんの何処に問題があるって言うんだ。
――――
水着は下着同様に生身に試着するする事は出来ません。物語の上での話とご理解お願います。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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