第60話 勅使河原さん


 勅使河原さんと渋山で会った翌日、いつもの様に智と碧海さんと一緒に学校へ向かいながら

「智、あの後、ポルコの方に行ったらバッタリ勅使河原さんと会ってしまってさ」

「それはまた不味い状況になったな。彼女結構はっきりした性格だからな」

「智、早瀬君。何話しているの?勅使河原さんと会って不味いってどういう事?」

「ごめん、弥生ちゃん。詳しい事は後で」

「ぶーっ、二人共私を仲間外れにして」

 碧海さんが、可愛い顔を膨らませて怒った振りをしている。


「あっ、いや弥生ちゃん。後できちんと説明するから。なあ京」

「碧海さん、後で説明するので」

「どういう事。益々分からない。なんで早瀬君が私に説明するの?」

「とにかく今はこのままで」

「智君のケチ」

「京、俺ケチなのか?」

「そうらしい」


 そんな話をしている内に学校に着いた。昇降口で履き替えると心配しながら教室に入った。

 何故か、いつもと変わらない雰囲気だ。勅使河原さんは俺が教室に入って行くとキッと睨んだ後、

「おはようございます。早瀬君。後で話が有ります」


 直ぐに奈央子さんが反応するかと思っていたが、表情一つ変えない。そしていつもの様に古城さん、杉崎さん、夏目さんが挨拶をして来た。その後、奈央子さんが挨拶をした。


 昼休みになり、俺と智が学食に行こうとすると勅使河原さんが

「早瀬君、お昼食べ終わったら話が有る。断らないわよね」

「分かった」


 智と学食に行きながら

「何を言うのかな?」

「俺にも分からない。どちらにしろ朝、教室で騒がれなくて良かったよ」

「確かに」



 俺と智と碧海さんが食べ終わると同じ学食内の別の場所で食べ終わった勅使河原さんが俺をジッと見ている。多分話の事だろう。

「智、俺先に行く」

「了解」


 俺が立つと勅使河原さんも一緒に食べていた友達に何か言って立った。



 連れて来られたのは校舎裏かと思ったら体育館裏だった。

「花壇のベンチだと聞いている人が居るかも知れないから」

「うん」


「ねえ、有栖川さんとはいつからなの?」

「去年の二学期から」

「ふーん。そう。彼女も京之介様に助けられた人なの?」

「感が良いね」

「何となくね。そうか。彼女の方が早くあなたを見つけたって訳か。ねえ、したの?」

「何を言っている。そんな事有る訳無いだろう」

「ふふっ、そう。良かったわ。体の関係あると別れるのが面倒だものね」

「彼女と別れるつもりは無い」

「小手川生徒会長とは?」


 なんでこの子が詩織さんとの事を知っているんだ。

「…君には関係無い事だ」

「有栖川さんと小手川さん。二人と付き合っているなら私も入れてよ」

「何を馬鹿な事言っている。付き合っているのは有栖川さんだけだ!」


 京之介様を怒らせてしまった不味い。

「ごめんなさい京之介様。強い口調で言って。こういう風に言わないと話してくれないかと思って。

 京之介様。私はあなたが助けてくれなかったら生きていなかったかも知れない。お願いします。私の全てを捧げます。私を京之介様のお側に一生居させて下さい。欲しければこの体いつでも差しあげます」

 どこかで聞いたような?


「勅使河原さん…」

「紫苑と呼んで下さい」

「名前呼びは出来ません」

「では、二人だけの時でも。お願いです」

 なんかこれもどこかで聞いたような?


「勅使河原さん。俺は今、有栖川さんと付き合っています。あなたと付き合う事は出来ません」

「今ですよね。将来は分からないですよね。私はこれからずっと京之介様にアプローチします。でも貴方様の迷惑なる様な馬鹿な事は教室ではしません。だからどこかで私を受け止めて下さい」


 いきなり飛びついて来た。思い切り手を俺の後ろに回してくっ付いている。

「勅使河原さん…」

「紫苑と呼んで下さい。それからスマホの連絡先を教えて下さい。それでなければ離しません」


 参ったなぁ。

「…紫苑さん、離れて下さい」


 京之介様が初めて名前で呼んでくれた。嬉しい。私は名残惜しいけどゆっくりと離れるとスマホをポケットから出した。


 京之介様がスマホを取出して連絡先を交換してくれた。これでいつもで京之介様の声が聞ける。私は別れ際に

「偶には二人だけで会って下さいね。二人だけの時は名前呼びですよ。愛しています京之介様」


 そう言うと走って校舎の方へ戻って行った。


 俺が、校舎に戻ろうとすると

「京之介さん」

「奈央子さん、聞いていたんですか?」

「ごめんなさい。でも心配で」

「もう。一緒教室に戻りましょう。もうすぐ予鈴が鳴ります」

「はい」


 しかし、益々混迷を極めて来たぞ。どうすればいいんだ?




 六月の最終週は一学期末考査ウィークに入る。例によって放課後は図書室で智と碧海さんと一緒に勉強しているのだが、奈央子さん、勅使河原さん、古城さん、杉崎さん、夏目さんが、何故か、二対三の割合でテーブルに別れて座って居る。どういう事なんだ。


 そして予鈴が鳴ると俺は生徒室に行く。中では詩織さんが待っていた。

「どうですか。皆さんは?」


 どういう意味で言っているんだろう?

「別に変わりませんが」

「そうですか。勅使河原さんは?」


 そういう事か。でもどうして聞いて来るんだ?

「あの、勅使河原さんって?」

「ふふっ、あの子も京之介様を好きなんですよね。あれだけ優秀な子が我が校に京之介さんを追って転校して来るんです。余程の理由があるんでしょう」


 お見通しという訳か。

「はい、あの子も俺が助けた子です」

「ふふっ、そうですか」


 詩織さんは俺の顔をジッと見ると

「そろそろ帰りましょう」

「そうですね」



 私は、有栖川さんだけならどうにでもなると思っていた。この人と体の関係があるのは私だけ。いずれは私を選んでくれると思っている。


 でも新しい要素が入って来た。彼女はまだ未知数。どう出て来るのかしら。いずれにしろしっかりと注意していないといけません。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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