第59話 予定外の事は付きもの


 俺は日曜日になり、午前九時半に俺の家の最寄り駅の渋山方面ホームで奈央子さんと待合わせした。茶色の膝上スカートに水色のTシャツ、それに白い運動靴というスポーティな格好だ。

「京之介さん、お待たせ」

「行きましょうか」


 次に入って来た電車に二人で乗るとエアコンが結構効いている。それにこの時期は結構ジメジメしているのでこういう格好の方が良いのだろう。


 渋山の駅を降りて道路反対側にあるトドールに行こうとすると

「京之介さん、結構ドキドキしてきました」

「緊張しなくていいですよ。智は良い奴だから」

「分かってはいるのですけど」


 トドールに入ると一階にいない。二階に上がると智は四人席に座ってアイスコーヒーを飲んでいた。

「智」

「京、……」

「田中君、こんにちは」

「京、これって?」

「ああ、想像している通りだ。ちょっと待って。奈央子さん、何を飲みます?」

「私が買ってきます。京之介さんは何を?」

「俺はフレッシュオレンジジュースで」

「分かりました」


 奈央子さんが一階に降りて行くと

「京、話ってこれか」

「ああ、中々話し辛くてな」

「京も事情が有ったんだろうからいいよ。それよりいつから」

「うーん、去年の二学期の頃からかな」

「そんな時から」

「ああ、それともう一つある」

「なに?」


「小手川詩織さんの事だ」

「お、お前まさか二股」

「いや、二人とも公認だ」

「何だよそれ?」


 その時、一階から奈央子さんが上がって来た。

「京之介さん、何処まで話したのですか?」

「知合った時期」


「なあ、京。大体どういう縁なんだ」

「それは…」

「京之介さん、私が話します。彼は私の命の恩人です。旧宿で友達とはぐれて道が分からなくなって、三人の暴漢にビルの裏に連れ込まれて、もう駄目だと思った時、京之介さんが現れて助けてくれたんです。


 でも京之介さんは、名前以外教えてくれなくて。警察に聞いても本人の希望だから教えられないと言われて。


 でもこの駒門高校に入った時、偶然に学食で京之介さんを見つけたんです。私は天命だと思いました。そして体力測定の時、確信しました。あの時田中さんも一緒に居ましたよね」


「あの時か」

「それ以来、私が猛烈に京之介さんにアタックして、なんとかお付き合いして貰う事が出来ました」

「京、俺は本当に有栖川さんを見ているのか。何か学校で会っている時と全然違うのだけど。何か凄い積極的な女性という感じなんだが」

「そうか。そうかもな」

 俺も思う所あるよ。


「なあ、小手川さんの事は?」

「それも私から」

「えっ、でも。良いのか京?」

「まあ、奈央子さんが話したいのなら」


「あの人と京之介さんが会う事は認めています。毎日生徒会室を利用して京之介さんとの時間を取っている事も知っています。

 でもあの人と京之介さんは事情はどうあれ、お友達です。それ以外の何でもありません」


「京、この人本当に有栖川さん?」

「そうだけど」


 智が頭を抱えている。確かに奈央子さんの積極的な所は学校では欠片も見せないお淑やかな女の子だ。


「智、お前に教えたのは、俺達の事知っておいて欲しかったからだ。後、小手川さんの事も含めて今話した事は他言無用にしてくれ。

 今、学校でこんな状況が公になったら大変なことになる」

「確かにな。それは全然問題ないよ。だけど弥生ちゃんに聞かれる。黙っているのは厳しい」

「田中君、碧海さんと今日会う予定有りますか?」

「ありますけど」


「では、ここに呼んで貰えますか」

「奈央子さん、それは流石に。智、もしどうしても碧海さんに話さないといけないなら別の日に俺達から話すよ。智も一緒で」

「分かった」


 それからは何処まで進んでいるとか聞かれたが上手く誤魔化した。流石に恥ずかしい。



 もうすぐ午前十一時半になる。そろそろ智と別れる事にした。碧海さんとのデートがこの後控えているからだ。


 智は駅の方に向かったので、俺達はポルコの方に向かった。せっかく来たから食事をした後、洋服を見ようという事にしている。



 坂をのんびり歩いて来ると坂の上の方から男の人と一緒に歩いて来る女の子がいた。勅使河原さんだ。このまま見つかるのは不味いと思ったが遅かった。駆け足で近付いて来て


「京之介様、これはどういう事ですか?!」

 有栖川さんが京之介様に好意を寄せているのは知っていたけど、まさか二人でデートする関係にまでなっていたとは。


「紫苑、どうした?」

 勅使河原さんの後ろから男の人が声を掛けて来た。結構鋭い目をしている。


「あっ、お兄ちゃん。この人が早瀬京之介様」

「なに!この男がお前を助けてくれた男か」


 俺をもう一度ジッと見ると

「妹を助けてくれてありがとう。妹の恩人にこんな所で会えるとは思っても見なかった。両親もお礼をしたいと言っている。ぜひ連絡先を教えてくれ」

「もう、昔の事です。それにお礼は要りません。当然の事をしたまでです」

「おう、紫苑、お前が惚れるだけの事はある。いい男じゃないか。ぜひ妹と付き合ってくれないか」


「なんですか、あなたは?」

「俺は紫苑の兄だ。失礼だが、あなたは?」

「私は京之介さんとお付き合いしている有栖川といいます」

 ありゃ、不味い事になったぞ。


「ちょっと、待ってよ。京之介様と付き合っているって。本当なんですか?」

「はい、俺は奈央子さんと付き合っています」


 勅使河原さんの綺麗な顔が思い切り怒った顔になり

「絶対に認めない。ぜーたい認めない。京之介様と一緒になるのは私なの。あんたなんかに絶対に渡さないわ。行くわよお兄ちゃん」

「お、おい紫苑。すまない、妹はちょっと驚いた様だ。早瀬君、お礼はまた改めて。おい待てよ」


 騒がしいままに勅使河原兄妹が駅の方に向かって行った。周りに集まっていた人も段々居なくなって来た。


「はぁ、参ったなぁ。こんな事になるなんて」

「はい、でも相手が悪かったですね。でも勅使河原さんとはそのような縁が有ったのですか」

「ええ、別に言う事も無いので黙っていたんですけど」

「ふふっ、でもこれであの人が諦めてくれると良いんですが」


 どう見ても逆の様な気がするのだけど。しかし、勅使河原さん、学校で俺達の事吹聴しないだろうな。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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