第8話 なんでこうなる


 八月三日、俺は智達と隣の県にあるプール付き遊園地に行く為、家を出た。渋山で乗り換えるので、乗換えホームで待ち合わせだ。


 乗換えホームに行くと智と碧海さんが居たけど杉崎さんは居なかった。

「おはよう智、碧海さん」

「おはよう京」

「杉崎さんは?」

「彼女はこれから乗る電車の途中駅から乗って来る」

「結構遠くから通っているんだ」

「ここの乗換え以外はそんなに掛からないみたいよ」

「そうなんだ」


 俺達はホームに入って来た電車に乗った。人の降車で空いたシートに三人で座ったけどあっという間に一杯になった。


「結構混んでいるな」

「夏休みだからな」


 渋山から十五分程して杉崎さんが乗って来た。

「皆さん、おはようございます」

「「「おはようございます。杉崎さん」」」


 でも残念ながら俺達が座っているシートの周りは空いていない。仕方なく

「杉崎さん、座りなよ。俺立っているから」

「いいよ。悪いから」

「そんな事無い。後三十分位で着くんだから大した事無いって」

「ごめん、じゃあ座らせてもらいます」

 早瀬君って優しいんだ。益々好きになりそう。


 何故か目的地に着く前に段々人が増えて

「皆同じかな?」

「ああ、そうみたいだ」


 三十分動かずに立っているのは結構きつかったけど、なんとか遊園地に着いた。俺達の乗っていた車両のほとんどの人が降りた。なるほど目的地は同じだったんだ。家族連れが圧倒的に多い。


 四列あるチケット売り場もしっかりと並んでいる。十五分位並んでプール入場券だけ買うとゲートでチケットを見せて中に入った。正面のボードにプールは右と矢印が出ている。


 それに従って十メートルほど歩くとプールの入口があった。係員にチケットを見せて中に入ると左側に男女に別れて更衣室がある。智が

「着替えたからここで待合せな」

「「うん」」


 智と一緒に更衣室に入って空いている場所を見つけて着替えていると

「京、いつもながら凄いな。腹筋バキバキじゃないか。胸周りも凄いし。ほんとお前って外見着痩タイプだよな」

「智だって」

「俺は、もう運動していないから大分贅肉が付いたよ」


 そんな話をしながら着替えと言ってもサポータとこの前お姉ちゃんが選んだ海水パンツを履いて、貴重品を防水バッグに入れると外に出た。



 待つ事十五分。やっと出て来た。碧海さんは髪の毛をツインテールにしてオレンジのビキニに白いラッシュガードを着ている。結構スタイルがいい。智が胸は重要だと言っていたが、碧海さんを見ると良く分かる。


 杉崎さんは髪の毛はそのままにブルーのビキニにオレンジのラッシュガードを着ている。二人共良く似合っている。彼女も…洋服の上からは分からなかったが結構なスタイルだ。

 智が

「弥生ちゃん、とても可愛いよ」

「うん、ありがとう」


 俺はそのまま何も言わないでいると智が

「京、杉崎さんに何か言ったら?」

「えっ、俺?」

「えへへっ、早瀬君どうかな?」


 目の前でくるっと回って見せた。

「うん、可愛いです」

「ぷっ、なにそれ?まあいいわ」


 ほんと、早瀬君って女の子と付き合った事無いんだ。でも彼の体って凄い。腹筋も胸周りも洋服の上からは分からなかった。ちょっと疼いちゃう。こんな体に抱かれたら。うふふっ。でも私まだ知らないし。



「京、どの辺に座ろうか」

「大分埋まっているな」

「ねえ、智也君、あそこはどうかな?」

 碧海さんが指差したのは売店や監視員から二十メートルは離れている。でも周りは家族連れだけだし、問題ないか。


「よし、そうするか」


 皆でそこに行って女子二人が持って来たシートを引いて手荷物を置くと碧海さんが

「智也君、浮輪欲しい」

「私も」


 碧海さんって名前と違い泳げないんだ。碧海さんと杉崎さんが浮輪を借りに行っている間、智と簡単な準備運動をしていた。

 

 二人が浮輪を借りて…。あれっ、なんで有栖川さんが居るの?それに他に女の子が二人いる。



 §有栖川

 今日は中学時代の友人二人と一緒に隣の県にあるプール付き遊園地に来て居る。夏休み入る前から三人で決めていた事だ。


 プールで遊ぶ為、三人で浮輪を借りようとしていた所に碧海さんと杉崎さんが来た。全くの偶然だ。


 他に誰と来たのか聞いてみたら田中君と早瀬君と一緒だと言った。何という幸運なのだろう。


 出来れば一緒に遊びたいけど、私の友人は早瀬君の事を何も知らないし、まさか合流しようとは思っていないだろう。だから今回は我慢する事にした。まだチャンスは一杯ある。



 碧海さんと杉崎さんが戻って来ると智が

「弥生ちゃん、今あそこで話していたのって有栖川さんじゃないか?」

「うん、そうだよ。友達二人と来ているって言っていた」

「そうか」

「智也君!」

「痛い!」


 弥生ちゃんが智の脇腹をつねった。

 智、彼女と来ていて他の子に気をそらすのは不味いだろう。



 でもこの後は二人仲良く流れるプールで遊んでいる。自然と俺は杉崎さんと遊ぶ事になったのだけど、女子を相手に遊んだ事のない俺は何をしていいか分からない。


 だから、俺は流れるプールで浮輪に乗って流される杉崎さんに何とはなしについて行くと

「早瀬君」

「なに?」

「早瀬君は何かしているの?体が凄くしっかりとしているじゃない」

「ああ、小学校三年時から空手と棒術を習っている」

「そうかぁ、だからそんなに凄い体しているんだ」

「そうかな。道場の仲間はみんな同じだから気にしていなかった」

「そうなんだ」


 兄達がやられた理由が分かった。武術をきちんと習っている人に高校生の喧嘩レベルの腕では通用しない。今日は深い所まで入らずに友達になる事に専念しよう。


 三十分位、流れるプールで遊んでいると智が

「弥生ちゃん、あれやらないか?」

「うん、いいよ」


 智が指差したのは定番のウォータースライダー。高い方と低い方がある。四人で近くに行くと


「京、高い方へ行こうぜ。弥生ちゃんいいだろう?」

「うん、智也君一緒に滑ろう」

「おう」



 智と碧海さんがぴったりと体をくっ付けて勢いよくウォータースライダーを滑り降りて行く。


 俺と杉崎さんは当然そんな事出来る訳もなく、先に彼女を滑らせてから俺が滑り降りた。中々スピード感があって気持ちいい。


 ウォータースライダーから滑り降りると三人がプールサードで待っていた。

「もう一回やろう。京、せっかくだから杉崎さんと一緒に滑ったらどうだ?」

「俺はいいよ。杉崎さんも嫌だろうし」

 流石に断るだろう。


「私ならいいよ」

「えっ?!」

 断らないの。俺達知り合ったばかりだよ。


「京、良いじゃないか。杉崎さんもこう言っているし」

「あ、ああ」


 ほんと早瀬君って女子に免疫ないんだ。私だってある訳なじゃないけど、好きな男子と一緒に滑るのは良いかも知れない。



 二回目も智と碧海さんが勢いよく滑り降りて行った。その後係のお兄さんが

「一緒に滑りますか?」

「はい」

「では、彼氏さんが前に座って彼女さんが後ろに座って体をぴったりとくっ付けて腕を彼氏さんのお腹に回してしっかりと握って下さい」

「こうですか」


 うっ、背中に強烈に柔らかい物を感じる。不味い。


 ふふっ、初めてでも彼の背中は大きくて広い。何となく嬉しい。


「では、行ってらっしゃーい」


 ウォータースライダーの筒の中を右に左に回される度に背中に当たる物が強調して来る。不味い。サポーター一枚しか履いてない。でもまだ大丈夫。


 ふふっ、胸がすられている様でなんか変な感じ。何だろう?



 滑り降りると大切な所はまだ大丈夫だったが、もう無理だ。


「京、もう一回やらないか」

「いや、俺はもう止めとく。三人でやって来て」

「えーっ、やろうよ」

「三人で」

「仕方ないな。弥生ちゃん、杉崎さん行こうか」

「私もここにいます。お二人で滑って来て下さい」

「分かった。弥生ちゃん行こうか」

「うん」


 

 はぁ、智はいいよな。あの雰囲気だとそれなりにしているんだろうから抵抗ないのかも知れないけど…。

「あの二人仲いいですね」

「そうだね」


 早瀬君は、まだ彼女が欲しいって気持ちは無い様だ。ここは急がずに行くか。



 その後、四人で昼食にする為、一度シートに戻ると

「京、先に杉崎さんと買いに行って来なよ」

「分かった、杉崎さん行こうか」


 俺と杉崎さんが売店に行って買おうとすると後ろから声を掛けられた。

「早瀬君」


 振り向くと有栖川さんと女子二人が立っていた。

「有栖川さん」

「お昼ですか?」

「はい」


「奈央子、誰?」

「同じ高校の早瀬君と杉崎さん」


 参ったな。こういう所で会いたくないな。目のやり場に困る。有栖川さん思ったよりスタイルがいい。下手に見て誤解されるのも嫌だから俺が売店の中だけを見ていると

「じゃあ、また」

「あっ、はい」


 ふぅ、行ったか。

「早瀬君、どうしたの?なんか有栖川さんにつれなかったけど?」

「えっ、いや。何でも無いです」

 

 §有栖川

 早瀬君は相当に恥ずかしがり屋のようだ。私の体を一度も見ようとしない。私はスタイルは悪くないと自覚している。毎日のケアもしっかりとしている。でも彼は見ようとしなかった。ジロジロと見ないとは思ったけど…。彼やっぱりいいな。



 俺と杉崎さんがお昼を買ってシートに戻ると…智と碧海さんが何故か体を向こうに向けて体をくっ付けてイチャイチャしている。声掛けるしかないけど


「智、買って来たぞ」

「えっ、ああ、弥生ちゃん行こうか」

「うん」


 立ち上がった弥生ちゃんの顔が少し赤いのは気の所為かな。



 お昼を一時間位お喋りをしながらゆっくりと食べ終わると波の出るプールに行って遊んだ。ここでも智と碧海さんは体をべったりと付けてキャッキャッしている。

 あいつ、いつの間に…。俺にはあんな事無理だけど。


 §杉崎

 早瀬君が田中君と碧海さんがイチャイチャしているのを見ている。何を思っているんだろう。

 でもあの表情だと呆れている感じかな。まだまだ彼が彼女を欲しがるのは先の様だ。

 急がない急がない。



 ここで一時間位して流石に智と碧海さんが疲れたのか

「京、そろそろ上がるか」

「そうだな。そうしよう」



 四人で更衣室前にあるシャワーで体を洗った後、更衣室に入った。

「智、随分碧海さんと仲良かったな」

「まあな。京はどうだった?」

「どうだったって?」

「杉崎さんの事」

「別に何も」

「京、やっぱり彼女出来るの先そうだな」

「うーん、そうかもなぁ」

「お前なぁ」


 そんな話をしながら着替えを終えて更衣室を出るとまだ女子二人が出て来なかった。そして待つ事二十分。


 ようやく出て来たので遊園地の直ぐ目の前にある駅から電車に乗った。碧海さんは智の体に寄りかかって寝ている。智も何故か気持ちよさそうだ。そんな様子を見ていると杉崎さんが


「早瀬君はこの夏休み他に予定入っているの?」

「うん、適当に」

「そっか、適当にか。じゃあ、会う時間無いかな?」

「うーん。分からない」

「じゃあ、連絡先交換しない。もし空いていたら連絡貰えると嬉しい」

「えっ?!」

 俺のスマホにいる女性の名前ってお姉ちゃんとお母さん位だよ。どうしようかな。


「駄目ならいいよ」

 寂しそうな顔で言われるはちょっと苦手だ。連絡先交換しても用事が無ければ連絡する事も無いだろう。


「うん、いいよ」

「ほんと!」


 

 そして俺のスマホに三人目の女性の名前が登録された。杉崎涼子さん、可愛いウサギのキャラだ。


 杉崎さんが降りる駅に着くと

「早瀬君、田中君。じゃあ、またね。早瀬君連絡待っているから」

「じゃあ、また」


 彼女が降りて行くと智が

「おい、京。今の杉崎さんの言葉って?」

「何でもないよ。この夏休み、まだ空いてたら連絡欲しいって」

「それって、デートのお願いだろう」

「デートって恋人同士がするものだろう。俺と杉崎さんはまだ友達にもなっていない」

「いやいや、スマホの連絡先交換したんだろう。もう十分友達だろう。取敢えず会って色々話して友達になったら?」

「うーん、それも有りかもな」

 でも会っても話す事無いし。どうしようかな。


――――

書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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