第37話 年末までにも色々有る


 俺は大掃除の日も終業式が終わって避難訓練が終わった後も生徒会室に行って来季行動計画の策定の手伝いをした。


 夏目さん達には理由を言って行かれない事を説明したけど、とても残念がっていた。お姉ちゃんは初日だけ来ていたけど、もう小手川さんにバトンタッチしたのか生徒会室には来なかった。


 小手川生徒会長はとても明晰で各役員の疑問に正確に答え、何故疑問に陥るのかまで指摘している。そうする事で生徒会役員の主体性と知的レベルを上げている。凄い人だ。


 俺も初めての事なので質問をするが、やはり明確に答えた上で、何故その疑問が出たのかを教えてくれる。

 ただちょっとだけ、他の人より顔が近い気がするけど。それにとてもいい匂いがする。


 終業式の日もお昼は生徒会が用意してくれている。本当は俺がやらなければいけないのだろうけど…。それを食べた後作業に取り掛かり午後四時で終了となった。



 皆が帰っても小手川さんは、最後まで自席に残っている。残っていた俺に

「早瀬君、何か残し物でも有るのですか?」

「いえ、いつも小手川さんが最後まで残っているなと思って」

「当たり前です。生徒会室の開錠と施錠は私の責務です。…あの、早瀬君」

「はい」

「二人だけの時は京之介様と呼ばせて頂けませんか?愛理様から生徒会作業の時は早瀬君と呼ぶように言われましたけど、二人の時だけは…」


 困ったぞ。年長者から様付で呼ばれるのは果たしていい事か?俺が考えていると


「二人だけの時は生徒会長と庶務ではなく、プライベートに私と京之介様で居たいのです」

「あの、なんで俺の事を知ったというかお姉ちゃんから紹介されたの?」

「京之介様がこの学校に入った時からお会いしたいと思っていました。理由は…愛理様の弟だからです。

 最初は見ているだけでしたけど愛理様から弟を紹介すると言われて、それで生徒会選挙の前にお会い出来たのです」


「俺がお姉ちゃんの弟でなかったら、そうしなかったの?」

「いえ、例え愛理様の弟君でなくても今の様にしていたと思います」

「あの、良く分からないんですけど」

「…一目惚れです」


 言った途端にその美しい顔が耳まで真っ赤になってしまった。そういう事?なんで俺なんかに一目ぼれするんだ?俺が黙っていると


「愛理様にお話ししました。それで…」

 なるほどそういう事か。お姉ちゃんの言っている意味が半分位は分かって来た。


「生徒会長、もう帰りませんか。外は大分暗いです」

「京之介様、二人の時は詩織と呼んで下さい」

「いやそれは…」

「お願いします」


 真っ赤な顔して頭を下げて来た。俺の弱い所を突いて来る。お姉ちゃんに聞いたのかな?

 でも名前呼びは奈央子さんだけだし、この人を名前呼びしたらやっぱり不味いのでは。しかしお姉ちゃんからの事も有るし…。


「分かりました。でも詩織さんでお願いします。呼び捨ては流石に無理です」

「はい。では帰りましょう。京之介様」


 詩織さんが生徒会室の中を一度確認すると外に出て施錠した。昇降口に行くと一年生と二年生の下駄箱は場所が違うので一度別れてから昇降口の入口で一緒になった。


 駅まで歩くのだが、詩織さんは俺より半歩下がって歩いている。気になったので

「並びませんか」

 と言うと


「いえ、京之介様から半歩下がって歩くのは私の定め、そして後背をお守りするのは私の役目です」

「えっ?」

 俺の後ろにいて俺を守るって?


「あの、詩織さんって?」

「はい、日本空手協会の指定道場で幼い頃より学んでおりました」


 なんて人だ。生徒会長室から出た時のあの身のこなしの理由が分かった。

「ありがたいですけど、二人で歩く時位は一緒に並んで歩きましょう」

「京之介様のご命令とあれば」

 

 この人言葉遣いが普通と違うけど…。今はそんな事良いか。いずれ分かるだろう。


 駅まで行くと

「私は、京之介様と電車が違いますので、残念ですがここでお別れです。お正月にまたお会いしましょう。では」

「はい、また」

 いつの間にか正月会う事になっているぞ。



 俺は家に帰って自分の部屋に行くとお姉ちゃんの部屋のドアは開いていた。俺が部屋に入ると直ぐにお姉ちゃんが入って来た。


「遅かったわね」

「うん、詩織さんと一緒だったから。あっ!」

「ふふっ、もう名前呼びする仲になったのね。流石ね詩織ちゃんは。それで何を話したの?事務的な事ばかりでは名前呼びしないでしょう」


 俺は生徒会室と帰り道で話した事をお姉ちゃんに話すと

「そう、あの子がそんな事言ったの。良かったわ。そこまで流れが出来たなら、ゆっくりと舵取りする事ね。お正月は向こうから来るでしょうから」

「でも、この家の事知らないでしょう?」

「知っているわよ。くれぐれも有栖川さんには気付かれない様にしてね」


 それだけ言うとお姉ちゃんは自分の部屋に戻って行った。確かに、奈央子さんは初詣一緒に行きたいと言って来るだろう。

 彼女は家が遠くないから元旦にするか。でも詩織さんはどうやって連絡取って来るんだ。



 しかし、お姉ちゃんからの事も有って詩織さんと話しているけど奈央子さんの事が嫌いになった訳じゃない。彼女への思いは変わらない。


 ただ今から結婚だとか決められるのが嫌なだけだ。だからこそお姉ちゃんの言葉も重い。


 詩織さんは確かにお姉ちゃんの言う通りの人なのかも知れない。でもだからといって、俺の将来に一生添えてくれる事も無いだろう。彼女には彼女の未来があるはずだ。


 夕飯を家族四人で食べた後、自分の部屋に居るとスマホが鳴った。画面を見ると奈央子さんだ。直ぐに画面をタップすると


『京之介さん、奈央子です』

『はい』

『お正月の事ですけど。初詣一緒に行きませんか?』

『いいですよ。何処に行きます。うちの傍に鎌倉時代からの神社が在りますけど』

『あの、着物なので出来れば来て頂ければと思うのですが』

『ごめん、そうですよね。分かりました。元旦に行きましょうか。何処に何時に行けば?』

『はい、我家の最寄り駅に午前十時では如何でしょうか?』

『分かりました。それでは…』

『あの』

『はい?』

『冬休みの宿題一緒に出来ませんか?』

 また難しい事を言って来るな。


『いいですよ。前に行った図書館でやりますか?』

『いえ、京之介さんのお部屋か私のお部屋で』

 やっぱり言って来たか。どうするかな。


『やはり図書館にしましょう。その方が家に居るより頭が切り替わって良いでしょう』

『はい、では明日からで宜しいですか?』

『そうですね。奈央子さんの家の最寄り駅のホームに午後九時に待っています』

『はい。ではまた明日』

 やはり、最後の壁はとても固い様です。彼のお部屋で出来れば、チャンスも有ったのですが。


―――― 

この話に出て来る日本空手協会と実在する公益社団法人日本空手協会様とは一切関係は有りません。ご理解の程お願いします。

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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