第36話 不安が解消しない
私は、毎日少し早めに登校する。電車が空いている時間に乗りたいからだ。京之介さんの住む町の駅を通る時、いつも彼がもしかしたらホームに居るのではないかという淡い期待を抱きながら。
昨日は素敵なクリスマスを彼の家で出来た。そして彼の部屋で口付けも出来た。本当なら、もう彼と結ばれるのは時間の問題。
校内で杉崎さんとか古城さんとかいるけれど、彼は接触を極力避けているし、彼女達より私を大切にしてくれている事も分かる。何も心配する事が無いと思っていた。
でも、兄の言葉が気になり悦ちゃんに相談したら、私の今までしている事なんて一瞬で吹き飛ぶような事を言われた。
『奈央。そんな事言っていると彼、他の人に取られちゃうよ。うちの学校でも彼の事で持ちきりなんだから』
まさか、彼が学外でも存在を知られ、他校の女子が触手を伸ばしているなんて。もう校内だけを気に掛けている訳にはいかない。
でもそれを防ぐ手立てもない。冬休みに入った次の日に悦ちゃんに会う約束をしている。なんとか彼女から上手い方法を聞ける事が出来ないかしら。
俺は、いつもの時間に学校の最寄り駅に着いて改札を出て学校に向かっていると後ろから
「京、おはよう」
「おはよう、智、碧海さん」
「おはようございます。早瀬さん」
そろそろ智にも言っていおいた方が良いのだろうか。結婚なんて考えないにしろ奈央子さんと付き合っていると。
実際、口付け迄した以上、友達という関係ではないだろう。しかし、まだ早い気もする。それは小手川詩織さんの存在。彼女の動き次第では、変な誤解を招きかねない。
「京、どうしたんだ。難しい顔しているぞ?」
「そ、そうか。そんな事無いと思うけど」
「俺達、長い付き合いだよな。悩みが有れば何でも聞くぜ」
「その時は宜しく頼むよ」
そんな話をしている内に学校に着いた。昇降口で履き替えて教室に入ると、早速古城さんが
「おはよう、早瀬君」
「おはよう、古城さん」
「うふふ」
「何か面白い事も?」
「うん、有った、有った。嬉し事」
早瀬君が固い挨拶していない。友達に対する挨拶だ。有栖川さんの事はあるけれど一歩近づいた感じで嬉しい。
予鈴が鳴って担任の藤堂先生が入って来た。
「皆、おはよう。明日は午後から大掃除、そして明後日は終業式だ。終業式の日は式が終わった後、避難訓練が有るから忘れない様に。次の連絡事項だが…」
藤堂先生が教室を出て行くと直ぐに一限目の先生が入って来た。一限目の中休み、次の授業の準備をしていると夏目さんが、
「ねえ、早瀬君、いきなりなんだけど終業式の日って学校終わったら何か用事入っている?」
「うーん、生徒会の仕事次第かな」
「そうかぁ。午後三時から二時間だけ駅前のカラオケでクリパやろうって皆で話をしているの。一緒にやらない?」
「ごめん、保証出来ないから、今の所は断っておく」
「そっかぁ、残念だな。君が来てくれると盛り上がるんだけど」
「いやいや、俺なんか…」
「そんな事無いって」
やり取りをしている間に二限目の開始を知らせる予鈴が鳴ってしまった。
「また後でね」
さっき断ったんだけどな。
でも二限目の中休みも三限目の中休みも夏目さんは声を掛けて来なかった。諦めたのかな?
昼休みになり
「智、学食行こうぜ」
「おう」
学食に行って智はそのままホールに俺はチケット買ってカウンタで定食を受け取ってから智と碧海さんが座っているテーブルに行った。
トレイを置くと智が
「京、クリパ行かないのか?」
「うん、生徒会の事も有るし」
「でも、午後三時までにはならないだろう」
「そうなんだけどさ」
「智也君、早瀬君は参加したくないと暗に言ってるの」
「そうなのか?」
「まあ、碧海さんが正解」
「智也君、早瀬君と付き合い長いんだから、その辺分かるんじゃないの?」
「碧海さん、智を責めないで。俺の大切な友達なんだから」
「流石、俺の親友。その親友にお願いがある…」
「駄目、冬休みの宿題は仲良く二人でやる事」
「分かっていたか」
「ふふっ、こっちは逆に読まれていたわね。智也君、仲良くやろう」
「俺はそれも嬉しいけど」
「なに、私とやるの嫌なの?」
「そんな事は無いよ」
「あの、二人共。ここでイチャイチャされても」
「「イチャイチャしていない」」
「……………」
やっぱり、イチャイチャじゃないか。
放課後になり、生徒会室に行くとお姉ちゃんと小手川さんそれに新しい生徒会役員が居た。小手川さんが、
「京之介様…」
「詩織ちゃん、ここでは早瀬」
「すみません、でも愛理様が居るので、早瀬は」
「私の呼び方は元生徒会長で良いわ。京之介の事は早瀬と呼びなさい」
「分かりました。では早瀬君が来てくれたところで、生徒会の来季行動計画の策定を行います。概略は既に生徒会長選挙の時に話しましたが、改めてここで詳細を説明して、各目標の具体的行動計画を作成していきます。それでは…」
やっぱり終業式の後の参加は無理なようだな。その後、目標に沿って具体的な行動計画を作成してそれに沿った各役員の行動計画をブレイクダウンしていく作業が行われる事になった。
今日は珍しく、お姉ちゃんと一緒に下校している。
「京之介と一緒に下校するのは初めてね」
「うん」
「小手川さんの事、どう思った」
「頭の回転が良くて、言葉に曖昧な所が無い。各役員にも今何をするか、今後何をしていくのかという事を明確示している。
その上で自分が出る事も無く、各役員が主体的に動く様にさせている。生徒会長としては信頼のおける人だと思った」
「その通りね。彼女は非常に優秀な子よ。明確な思考を持って人を支える子。あなたにピッタリだわ。あの子なら京之介がどんなに自由に動いても必ず傍にいて後ろから支えてくれるわ」
「今日だけでも少し分かった様な気がする。でも流れている川の流れに逆らう様に急激に向きを変えたら、その船は壊れるか転覆してしまう」
「そう、だから船を強固にしつつ、ゆっくりと向きを変えていく事ね。そうすれば気が付いた時は、別の流れに乗って行ける。元の川の流れは変わらない」
「お姉ちゃん…」
お姉ちゃんが言っている意味は良く分かる。でもそれが本当に正しい事なのだろうか。お姉ちゃんの言葉に誤りはない。でも俺の心にはそれでもという気持ちが残っている。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます