第35話 口付けはしたけれどまだ不安


 私は、クリスマスより少し早い日曜日、京之介さんと口付けをする事が出来た。とても甘美で素敵な口付けでした。更に彼は私が導いた手で私の左胸を優しく触ってくれました。


 私は、初めて体に感じる心地良さ頭に突き抜ける様な感覚に喘ぎ声が出そうになりましたけど、必死で堪えました。そして彼は、また今度と言ってくれました。もう結ばれるのは時間の問題。


 でも、でも不安なんです。兄から言われたあの言葉。

『お前は、本当に早瀬の弟が好きなのか。好きならもっとあいつの事を調べろ』 


 あれがどうしても気になって仕方なかったのです。だから、私と彼の事を知っている友達、悦ちゃんに相談する事にしました。




 私は、自分の部屋で問題集と向き合っていた時、スマホが震えた。画面を見ると奈央だ。

 今の時間に掛けて来るのは珍しいと思ったけど、用事が有るからこの時間なのだろうと思い、画面をタップして出ると


『悦ちゃん、奈央子です。遅い時間にごめんなさい』

『そんな事いいけど。どうしたのこんな時間に』

『実は彼の事で』


 彼の事?ああ、あの男の子とか。

『もっと早く掛かって来ると思っていたんだけどな』

『もっと早く?』

『そう、模試の事でしょ。うちの学校でも大変な騒ぎになっているわ。どこの学校かも分からない程度の生徒が一位なんて。

 私もだけど成績上位を構成している生徒達全員が集められて、教頭と三学年の主任から怒られたわ。何やっているんだって』


 悦ちゃんは国立お水の茶女子大学付属高校。進学校としても兄が行っている学校と遜色ない学校だ。その学校でもあの人の事が。私はまるで井の中の蛙。


『で、知りたいのは何?』

『いったい、彼はどうしてそこまで優秀なのかが分からなくて』

『はぁ?早瀬京之介は早瀬愛理の弟だって知っているわよね。あの人は三年間もの間、全国高校生の中で頂点に君臨しているの。早瀬愛理は!その弟だって分かっているでしょ』


『ごめんなさい。愛理様は確かに我が校でもトップですけどそこまでとは』

『あのさぁ、奈央。そんな事言っていると彼、他の人に取られちゃうよ。うちの学校でも彼の事で持ちきりなんだから。

 誰だか知らないけど、通学中の彼の写真迄撮って来てさ。イケメンよって見せて、女子達がキャアキャア言っているわよ。うちの子達その辺積極的よ。周りの有名女子高の生徒も同じよ』

『えっ!そんなぁ』

『奈央は確かに綺麗で頭いい。それは認める。でももっと上が一杯いるわ。失礼だけど学力だけなら奈央より私の方が上でしょ』


 私は悦ちゃんから話を聞いて膝が崩れそうになってしまった。少しずつ積み上げて来た彼との関係が一瞬で吹き飛ぶような言葉。どうしていいか分からない。


『奈央、奈央!どうしたの?』

『悦ちゃん、私どうすれば』

『自分で考えなさいなんて言っても無理よね。分かった。どこかで会える?』


 今週水曜日が終業式。会えるなら金曜日。

『金曜日なら』

『分かった。何処で会う?』

『渋山の駅前にあるトドールで午前十時では』

『うん、分かった。それまでに頭の中整理しておいてよ。どうせ今は混乱の真っ只中でしょ。じゃあ、その時にね』


 §四宮

 奈央は典型的なお嬢様。容姿端麗、頭脳優秀で普通なら文句の付けようのない完璧美人。でも男性と友達になった事も無ければ話す事も少なく、まして彼氏なんて以ての外。


 挙句、旧宿で私達とはぐれて暴漢に襲われた時、助けてくれた男の子を想像の中で膨らませ、白馬の王子と間違えてしまっている。


 それも相手は早瀬京之介。案の定、流石の奈央でも簡単に事は進まず、今時点でキス位出来ていればいい方だろう。他の男ならとうに体の関係を持っていてもおかしくない。


 さて、恋愛経験の無い私が何を言う訳でもないけど、取敢えず進捗聞いてアドバイスするしかないか。あの子の泣き顔見たくないしな。しかし、相手が相手だな。




 俺は、日曜日、奈央子さんを家まで送って行った。別れ際にも軽い口付けをして別れた。初めての経験だ。女性の胸の柔らかさが今でも右手に残っている。


 あの人は、自分の全てを俺に捧げるなんて言っているけど、俺の年齢じゃ想像もつかない。

 これから二年間高校生活を送って、更に大学四年間を過ごした後、どこかの院に入って好きな研究をするつもりだ。お姉ちゃんも同じ。


 とても彼女を受け止めるだけの余裕なんて無い。しかし、どうしたものか。俺だって普通の高校生だ。


 したい気持ちは一杯ある。でもそれがそのまま結婚に繋がるなんて考えられない。だからこそ彼女とはこれ以上進める訳にはいかないんだ。こんな事を考えていると


「京之介、ちょっといい?」

「構わないけど」

「今日は、有栖川さんとどこまでしたの」

「えっ?それは…」

 流石にお姉ちゃんでも恥ずかしい。


「最後まではしてないわよね」

「流石にそれはしてないよ。口付けまで、あっ!」

「そう、その位ならいいわ。京之介、はっきり言っておく。あなたはまだこれから先が一杯ある。体の関係を持った位で結婚が頭に昇ってしまう様な子とはここまでにしないさい。

 それとあの子は正月会う事を求めて来るでしょう。当然よね。でも小手川詩織ちゃん共会いなさい」

「えっ、どういう事?」


「詩織ちゃんは、体の関係を持った位で結婚だなんて思わない子よ。むしろ京之介の後ろに一歩下がって、あなたが自由にどんな事をしても静かに支えてくれる。

 もし、したいなら詩織ちゃんにしなさい。あの子なら何も思わず受け入れてくれる」

「しかし、そんな事言っても奈央子さんは、もう頭の中の路線が固まっている。ここで無理矢理それを変えさせることは無理だよ。

 俺も結婚なんて今は考えていない。でも高校を卒業して大学を卒業して、どこかの院に入って好きな研究が出来て…すべてはそれからだよ」


「そう、その通りよ。京之介。有栖川さんと会うのは構わない。でも関係はここまでにしなさい。どうしてもと言うなら詩織ちゃんにしなさい」

「お姉ちゃん、どうしてそこまで小手川さんの事を俺に勧めるの?」

「彼女と付き合えば自然と分かるわ」



 お姉ちゃんはそれだけ言うと出て行ってしまった。確かに奈央子さんの事はいい当てていると思う。でも小手川さんは俺にとって全く未知数なのに。でもお姉ちゃんの言った事で間違った事は一度も無かった。だから俺も全面的に信頼している。


 しかし小手川さん、お姉ちゃんに変わって新しく生徒会長になった人だぞ。その人と付き合えって。まさか俺を生徒会に入れた理由って……。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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