第63話 夏休みのイベントはまだまだこれからです
全高も無事に終わり自宅に戻った。その日は両親が俺の為にお祝いをしてくれた。お姉ちゃんが、
「京之介、凄かったわ。大学で騒がしいから、あなたも私と同じ大学に入ってね」
「うん…。えっ?!いや俺はキャンパスライフを静かに過ごしたいんだけど」
「弟が姉を守るのは当たり前でしょ」
返す言葉が無く困っているとお父さんが、
「小手川さんではどうだ。あの子も女子の部で一位になったんだろう」
「私があの子の進学先まで口を出せないわ。でも京之介なら来てくれるでしょう」
詩織さんはお姉ちゃんと同じ大学に進学するのは目に見えている。でも俺が入るかどうかは分からないから牽制しているんだろう。それを踏まえてそう言ったんだ。でも俺は奈央子さんを選ぶ。
「私と同じ大学に詩織ちゃんと京之介が入ってくれるの嬉しいな」
お母さんが、お姉ちゃんの方を見て笑った。どう見ても結託している感じだ。それでもやはり家族みんなで楽しく夕食を食べるのは楽しい。
全高の優勝は結果でしかない。来年は俺のより強い奴が参加して来る。そこまでの飾りだ。
翌日、道場に優勝のトロフィーと記念の品それに全高一位の額に入った表彰状を持って行くと道場の仲間が思い切り喜んでくれた。
俺も全高で道場名が呼び上げられる度に全国レベルで名前が通るので少しは役に立ったと思っている。
道場主である師範と加納師範代は来年俺が師範代になる事が待ち遠しいと言ってくれている。
空手段位は年齢制限も有って二段のままだが、十八才になる来年には三段を取得出来るのでそれも道場にとっては嬉しい事だと言っていた。
棒術の方は、こういう大会に出る事はしない。両方を望む必要など無いからだ。
しかし、これで学校といい全高といい、俺のスローライフが益々遠のいた。だからこそ本当は俺の事誰も知らない大学でひっそりとキャンパスライフを過ごそうと思っていたんだけど。
なんか夢も希望も遠のいていく気がする。世の中目立たないのが一番なのに。
道場に挨拶に行った翌日は家族で夏休みの旅行だ。去年と同じように午前六時に家を出発。
「皆、忘れ物無いか。鍵を掛けるぞ」
「「「なーい」」」
お父さんが運転席に座ってシートベルトをして出発。助手席は俺、お母さんとお姉ちゃんは後部座席だ。
前のシートと幅を取って足を延ばしてゆっくりしている。荷物はもう一つの後部座席を倒して広くなった場所に入れてある。
家は東名高速入口の傍、直ぐに乗ったけど予定通り横浜過ぎた辺りから混み始め、大和トンネル辺りから渋滞に掴まった。予定通りだ。
「毎年だな」
「渋滞も旅行の内よ。楽しみましょう」
お母さんの口癖だ。でも渋滞に入って文句言うならこの方がいい。足柄SAでトイレタイム。
その後、三島ICで降りて一路西伊豆へ。毎年行っている海水浴場だ。海水浴場の近くで少し混んだが、無事にホテルに到着。皆で荷物を降ろすとお父さんが
「駐車場に車を停めて来る。ここで待っていてくれ」
「「「分かった」」」
見慣れたホテルのロビーだ。のんびりしているとお父さんが駐車場から戻って来た。お母さんとお父さんがフロントで受付している。
気になるのはお姉ちゃんがキョロキョロしている事だ。普段この人はこんな素振りは見せない。
§早瀬愛理
おかしいわね。もう来ていてもいい筈なのに。
お父さんとお母さんが戻って来た。
「部屋に行くぞ。今年もオーシャンビューの部屋だ」
「うん」
俺とお父さんが大きな荷物を持ってお母さんとお姉ちゃんは自分の小物入れとバッグを持ってエレベーターに行こうとすると
「京之介様」
そういう事か。
「詩織さん」
「偶然ですね。私達もここに泊まる事になっています」
「早瀬さん、こんにちは」
「小手川さん、こんにちわ。せっかく一緒になれたのだから楽しみましょうね」
「そうしましょう」
何故か、俺のお母さんと詩織さんのお母さんは知合いの様だ。お姉ちゃんはニコニコしている。
どう見てもお姉ちゃんとお母さんが結託した情報漏洩だ。全く!
部屋に入るとカーテンを開けた。窓の向こうには遠くまで広がる海と富士山が見えている。素晴らしい景色だ。
それに十二畳の大きな部屋だ。四人でもゆったりと出来る。
俺はお姉ちゃんに
「お姉ちゃん、詩織さんにここの事話したの?」
「何の事かしら。それにもし万一にもそうだとしても彼女の家族がここに来るか否かは彼女の家族が決める事よ」
お母さんが微笑んでいる。どう見ても怪しい。でもここで突っ込んでも言い負かされるのが落ちだ。諦めるか。
「さて、みんなで外の食堂にお昼を食べに行くか」
「「「うん(はい)」」」
来る時からラフな格好なので足元をサンダルに履き替えて早速外出。ホテルの近くには一杯そういうお店が在る。
去年も入ったお店に入ると向こうが覚えていてくれたのか
「今年もありがとうございます。空いている席に座って下さい」
店の主人だろう人が笑顔で言ってくれた。俺とお父さんは海鮮盛り合わせ御膳。お母さんとお姉ちゃんはお刺身定食を選んだ。似てるような名前だけど量が全然違う。
文句なしに美味しかった。お腹一杯になった俺達は、一度部屋に戻って俺とお父さんは海水パンツを履いてラッシュガードを着る。
お母さんとお姉ちゃんは、日傘だけだ。勿論全員がサングラスを掛けている。
ホテルの前の道路を渡ればすぐに海水浴場だ。持って来たシートを敷いてお母さんとお姉ちゃんを座らせると俺とお父さんはラッシュガードを脱いで簡単に準備運動してから海に入った。大分温い。
湾状になっている海水浴場の遊泳限界点であるブイ迄二人で泳いだ。気持ちが良くて堪らない。隣のブイ迄泳いだ後、一度浜辺に戻ると、詩織さんの家族が居た。
詩織さんは日傘にサングラスだけど日焼け止めシャツにショートパンツを履いている。真っ白な肌がまぶしく映っている。
§小手川詩織
京之介様が波打ち際から上がって来た。濡れた髪の毛をオールバックにしている。体には全高が終わった後も有るかもしれないけど贅肉のぜの字も無い。
女の子だったら誰でも抱き着きたくなる素敵な体。私は一度だけ彼に抱かれた。あの時の感覚は忘れていない。
私からは求められないけど出来ればもう一度あの感覚を思い出させて欲しい。
俺達が近付くとお姉ちゃんが
「京之介、せっかくだから詩織ちゃんと浜辺でも散歩したら」
「えっ、でもお姉ちゃん達を置いてはいけないよ」
「お父さんが居るわ。詩織ちゃんのお父さんもいる。心配ないわよ」
「分かった」
完全に手の平上モードだ。
「京之介様行きましょうか」
「はい」
俺達が水際まで行く姿を見ながら俺のお母さんと詩織さんのお母さんが
「お似合いね」
「ええ、詩織も全高で一位、京之介さんも一位。二人とも優秀な頭脳を持っているし容姿も先ずは素敵です。上手く行ってくれると嬉しいのですけど」
「小手川さん、流れに任せればそうなると思いますよ」
「そうですね早瀬さん」
§京之介の父
確かに妻の言っている事が実現すればそれはそれで素晴らし事だろう。でも愛理といい、妻といい詩織ちゃんを京之介に押し付けすぎている。
詩織ちゃんが息子を好いているのは見ていても分かるが、息子にはもっと自由な生き方をして欲しいものだ。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。
「僕の花が散る前に」
https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867
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