第54話 体育祭の準備はただでは済まない
月曜日、俺はいつもの様に学校の最寄り駅を降りて一人で歩いていると智と碧海さんが後ろから声を掛けて来た。
「おはよう、京」
「おはようございます。早瀬君」
「おはよう、智、碧海さん」
「いよいよ今週末は体育祭だな。今日から練習するんだろう?」
「やりたくない」
「気持は分かるが逃げられないぞ。相手は一年の時から何かと縁のある古城さんだ」
「だからだよ」
まったく、一年の時同じクラスで席が左隣、二年になっても同じクラスで席が左隣。一体とどういう前世を過ごすと彼女が傍に居るシチュエーションが出来るんだ。
学校に着いて昇降口で履き替えてから教室に行くと例によって奈央子さん、勅使河原さん、古城さん、杉崎さん、夏目さんが朝の挨拶をして来た。それに応えて一限目の準備をしようとすると古城さんが、
「早瀬君、今日の放課後から本番で怪我しない様にしっかり練習しようね」
「あっ、はい」
他の女子が古城さんを思い切り睨んでいる。有栖川さんと勅使河原さんの視線が中途半端でない。
アニメで言うと視線ビーム砲の太さが違う様だ。でも古城さんはそれを簡単に中和シールドで消している。流石古城さん。
やがて予鈴が鳴って担任の桃ちゃん先生が入って来た。
「皆さん、おはようございます。今週末金曜日は体育祭があります。今週は校庭のトラックを半分、陸上部が使わせてくれる事になっています。本番で怪我をしない様に十分練習して下さい」
この言葉に古城さんが俺の方を見て笑顔を見せて来た。まあ、先生からあんな事言われたらそうなるよな。
昼休みになり智と一緒に学食に行こうとすると夏目さんと杉崎さんが来て
「早瀬君、先生もしっかり練習しなさいと言っていたわ。バトンパスの練習しっかりしましょうね」
「あっ、はい」
「夏目さん、杉崎さん。二人三脚の方が難しいわ。こっちが優先よ」
始まった。不味いと思い
「あの、俺食事行って来るから。智行こう」
「おう」
学食行きながら智が、
「京、もてる男は辛いな。いい加減に誰かに決めたら。そうすればあんな詰まらない事起きないぞ」
「そうは言ってもな。どっちに転んでも痛そうだし」
「まあ、そうだけどな」
実際、俺達は二年生。もう奈央子さんの事を言っても大丈夫かも知れない。でも俺は失態としか言いようがない詩織さんとの関係を作ってしまった。
もし、俺が奈央子さんとの事を公表してそれに詩織さんが逆上して関係をばらしたら、この学校の美少女一、二を争う二人に二股を掛けていると男と言われて学校に入れなくなってしまう。
それにあの二人にもどんなに迷惑が掛かるか分からない。公にするとすれば俺達が卒業する時だ。勅使河原さんの事もある。ここは慎重に水面深く潜って用心しないと。
「京、京」
「えっ、どうした智?」
「どうしたじゃないよ。箸が止まって目が遠くを見ている感じだぞ」
「あっ、そうか。悪い、頭の中が水中の深い所に行っていた」
「どういう頭しているとそんな事になるんだよ。そんな事より、今日の放課後から始まる体育祭の練習、上手く順番でも決めないと毎日揉めるぞ」
「そうだな。何とかしないと」
「ふふっ、早瀬君はまるで他人事の様に言いますね」
「他人事にしたいですから」
そして放課後になると早速古城さんが
「早瀬君、練習しようか」
そこに夏目さんと杉崎さんが
「待ちなさいよ古城さん、私達が先よ」
「あなた達は中川君と先に練習したら」
「あなたに指図は受けないわ」
「ちょっと待って三人共。順番決めよう。中川ちょっと良いか」
「おう」
中川が近くに来ると
「中川、放課後の都合どうだ?」
「今日から四日間だろう。二日間ずつにしようぜ。俺も二日なら都合つくし」
「三人共これでどうかな?」
「いいけど…。二人三脚の方が難しいよ」
「バトンパスを甘く見ないでよ。オリンピックの時だって、バトンパスで優勝につながったんじゃない」
いや、そこまで例えなくても。
「中川、いつがいい?」
「そうだな。バトンパスは明日練習してその様子で木曜日やるか決めないか?」
「それがいいな。夏目さん、杉崎さん。どうかな中川の考え?」
「まあ、二人がそう言うなら」
「私も」
ふふっ、上手く行けば今日と水、木って練習できる。
「それなら、早瀬君。早速グランドに出ようか」
「ええ」
他の女子からの視線が痛い。
二人で表に出ると他のクラスの人達も結構練習している。
「ほら、皆練習しているよ」
「そうですね」
古城さんは用意してあったのか白い紐というかハチマキの様な物を手に持っている。
「まず、これを足に結んでお互いを何処で支えるのが一番安定するか確認しようか」
そう言うと俺の右足首の上と古城さんの左足首の上を紐で結んで
「早瀬君、私の右肩に手を回してみて。身長差が大きいから私は君の腰辺りに手を持って行ってみる」
「こうですか」
軽く彼女の右肩に手を置くと
「もっとしっかり支えて」
彼女も俺の左わき腹を抑えて来た。ちょっとくすぐったい。
「じゃあ、ゆっくりと足を出してみようか。はい!」
見事に一歩目でこけた。俺は左足を出そうとして彼女も左足を出そうとしたからだ。
「古城さん大丈夫?」
「あははっ、やっぱり練習が必要だね」
「そうですね」
次からは出す足を確認しながらゆっくり歩く気持ちで始めた。
§有栖川
昨日あれだけ京之介さんを堪能しましたけど、古城さんとのあんな姿を見るとやっぱり悔しいです。二人三脚中止にならないかしら。
§勅使河原
せっかく京之介様と適切な距離を取りつつ少しずつ近付こうとしたのに。成績では有栖川さんに並ばれて、体育祭では古城さんなんて子に取られてしまった。バトンパスも出来ない。作戦変更しないとこれでは何も出来ない。
§小手川
遠くで京之介様が他の女子と一緒に二人三脚の練習をしている。あんなに体をくっ付けて。悔しいです。いくら有栖川さんや他の子達より一歩リードしているとはいえ、あんな姿を見ないといけないとは…。
§杉崎
悔しい。古城さん、あんなに楽しそうに早瀬君とくっ付いて練習している。私がなんで出来ないのよ。
§夏目
明日は絶対に早瀬君と楽しく練習するんだから。
§中川
噂には聞いていたしクラスの雰囲気で分かってはいたつもりだが、まさか早瀬がこんなにモテるなんて。
確かに男の俺から見ても早瀬はイケメンだが凄い物だな。それもあいつに気がある女子は美少女か可愛い子だ。
俺はそんな事どうでもいいけど、バトンパスの練習、ほんとにきちんと出来るのかな。俺、降りたくなって来たよ。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます