第29話 想定外の事


 放課後になり私は1Cの教室で早瀬君を待っていた。彼が生徒会室に行って二十分。そろそろ来るかなと思っている所に教室の入口のドアが開いた。私は急いで振り向くと


「久我君?」

 何故彼がここに。


「杉崎さん、俺やっぱりあなたを忘れる事が出来ません。でも付き合えないなら一度でいいんです俺の練習風景を見て下さい。お願いします」


 彼がいきなり土下座して来た。なんで?

「久我君の練習風景見たって何も変らないよ。それにこの後用事が有るの」

「一度でいいんです。見て下さい」

 土下座したままだ。


「そんなに言うなら。分かったわ。ちょっと待って」

 私は早瀬君のスマホにテニスコートの近くに居るからそこに来てくれとメールした。これでいい。早瀬君が来ればそのまま帰ればいいんだ。


 私は、久我君に付いてテニスコートの方に一緒に行った。でも途中で彼が

「杉崎さん、部室にラケットが置いてあるんだ。そっち寄ってから行く」


 この時私は何も疑わずに一緒にテニス部の部室に行った。普段の久我君の態度から変な事を考えてる風には思わなかったからだ。



 俺は、生徒会室で加瀬の手伝いを少しした後、そろそろ杉崎さんを迎えに行こうとした時、スマホが震えた。ポケットから出すと杉崎さんがテニスコートに居るからそっちに来てくれという事だ。なんでテニスコートに?


 疑問だけど、そっちなら教室より安心だと思って少しだけ長く加瀬の仕事を手伝った。それから生徒会室を出て昇降口で履き替えてからテニスコートの方に行こうとしたが、杉崎さんはいなかった?


 あれ、どういう事だ。取敢えずコートの傍に行くと練習待ちしている男子に

「杉崎さん来なかったか?」

「杉崎さん?ああ、さっき久我と一緒に部室の方に行くのを見たけど」

「そうか、ありがとう」


 各部の部室はグラウンドの端の方にある。そっち方向に歩いて行くと陸上や野球部それにサッカー部の人達が一生懸命練習をしている。

 なんか、気持ちいいなと思いながらテニス部の部室に近付くと声が聞こえた。


「きゃーっ、何するのよ!」

「一度だけで良いんです」

「や、止めてったら」

「ごめん!」

「止めてーっ!」


 不味いと思い、テニス部の部室のドアを開けようとしたけど開かない。内側から鍵が掛かっている。


 思い切りドアを叩きながら

「どうしたんです。杉崎さん」


 あっ、早瀬君だ。

「早瀬君。たす……」

「黙って下さい」


 早瀬なんかに渡すものか。俺はラケットを持つと鍵を外してドアを開けた。急いで入って来た早瀬に

「くらえ!」

「危ない!」


-えっ!

-ぐぇ! ぐはぁ!

 ドサッ。


 俺は、ドアに入ると横からラケットを持って俺に襲い掛かって来た男を避けるとそのラケットを持っている手を抑えて思い切り腹に拳を入れた。


その後、そのまま顎を下から上に向かって拳で突き上げた。更に浮き上がった体の鳩尾に蹴りを入れると男は倒れた。


「大丈夫か杉崎さん」

 なんて事だ。杉崎さんの上半身は何も身に着けてない。俺は思い切り彼女の体を目の前にして、彼女が俺に思い切り抱き着いて来た。


「怖かったよう、何でもっと早く来てくれなかったの。早瀬君も馬鹿ぁ」

 俺が悪いのか?


「杉崎さん、とにかく上着を」

「うん」


 彼女が取敢えずシャツを着た所で俺は生徒会室直通電話にスマホで連絡した。要点だけ言うと

『分かったわ。直ぐに先生達と直ぐに行く』


 五分も経たない内に生徒指導の先生とお姉ちゃんと加瀬、男子テニス部の顧問の先生がやって来た。

「大丈夫か?」

「はい、俺は大丈夫ですけど。杉崎さんが」


 お姉ちゃんが、

「杉崎さん、洋服持って生徒会室に」

「はい」


 横になったままの久我を見て男子テニス部の顧問が

「早瀬、これお前がやったのか?」

「済みません。手は抜いたんですが、いきなり殴りかかって来たんで」

「そうか。取敢えず、こいつを職員室に連れて行く。手伝ってくれ」



 この後、俺は職員室で事情を聞かれた。もう杉崎さんも洋服を整えて職員室に来て居る。杉崎さんにも同じ事を聞いて俺と同じだったので、

「二人共今日は帰りなさい。杉崎送って行くか?」

「大丈夫です。早瀬君に送って貰います」

「えっ?」

「良いでしょう、早瀬君」

「早瀬、事情が事情だ。送ってやってくれ」

「あの、久我は」

「先生達に任せなさい」

「はい」


 二人で職員室から出た所でお姉ちゃんが待っていた。

「京之介」

「お姉ちゃん、杉崎さんを送って来る」

「そう、分かったわ。送ったら早く家に帰ってくるように」


 二人が帰って行った。杉崎さん、不味いわね。あの子は京之介には近付けたくない。何を考えているか分からない。



 私は、寄り添う様に早瀬君の傍を歩いていた。手が触れたりするほど近くに。でも彼は何も話してくれない。駅が近くなって来た。


「早瀬君、駅まででいいわ。恥ずかしい姿を見せてしまったけど。…ねえ、明日からもっと傍に居ていい。とても心が不安なの。早瀬君が居なかったらどうなっていたと思うとお礼の言い様もないけど」

「礼はいいです。俺がもっと早く行っていれば、あんな事にならなかったので少し責任を感じています」

「そう、じゃあその責任で傍に居る事を許して。…勘違いしないでね。早瀬君の彼女は有栖川さんだって割り切っているから」

「傍にいる…ですか。適度な感覚でお願いします」

「分かったわ。じゃあ、今日はありがとう。また来週ね」

「はい」


 早瀬君にはああ言ったけど、今回の件予想外だけど以外にも好結果をもたらしたかも。私の何も着ていない上半身を彼にはっきり見せた。プールの時以上のインパクトがあるはず。


 あの様子だと有栖川さんとはキスもしていない。見かけはどうあれ、私が一歩リードしたわ。後は、どこかで一挙に最後まで持ち込めば私の勝ち。

 それに家まで送って貰って、万一兄と遭遇したら大変な事になる。だから送って貰わなかった。



 俺は家に帰って自分の部屋に行くとお姉ちゃんの部屋のドアは開いていた。俺が自分の部屋に入るとお姉ちゃんが入って来た。


「早かったわね、京之介」

「うん、駅まで一緒だったけど、その後は一人で帰ったよ」

「そう、杉崎さんに何か言われた?」

「学校でもっと近づきたいって。今日の件で心が落ち着かないからって。でも適度な感覚でお願いしますと言っておいた」


「適度な感覚ね。京之介、杉崎さんには気を付けなさい」

「なぜ?」

「その内分かるわ。あまり近付けすぎないようにね」

「分かった」


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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