第30話 強気な女子


 今日はもう十一月も終りの週、来月初めの月曜日から木曜日までは二学期末考査だ。しかし早いな、もう今年も最後の月になるとは。


 俺もここまで来れば真面目にやるしかない。昨日の日曜日も奈央子さんと一緒に図書館で勉強したのだが、何処で聞いたのか、休憩中のお昼休みに


「京之介さん、金曜日の放課後の事聞きました。杉崎さんを助けたそうですね」

「はい、金曜日は杉崎さんと一緒に駅まで帰る予定になっていたのですが、想定外の出来事になってしまって」

「私が聞きたいのは、助けた時杉崎さんは裸だったと聞いています。本当ですか」

「それは嘘です。杉崎さんは上半身に何も身に付けていなかった状態でした」

「……。悔しいです。私はまだ京之介さんと口付けも出来ていないのに」

「あの、テニス部の部室に助けに入った時はもうその状態だったので見てしまったのは不可抗力というか…」

「ならば、私も不可抗力で見て貰ってもいいんですよね」

 はて?日本語正しいのか?


「奈央子さん、落着いて下さい。杉崎さんのあの姿を見たからって俺は何も変わりません。俺の事少しは分かって来ているでしょう」

「それは、確かに分かりますけど…。でも」


「でもも何もありません。もう忘れましょう。それより学期末考査で満点取るんでしょう。そちらに気を向けましょう」

「あの、約束忘れていないですよね。私が満点取った時の約束」

「忘れていないです。だから頑張りましょう」

「はい♡」

 うん?何か奈央子さんの目がハートに見えた様な。



 そして今日から考査ウィークに入った。珍しく智と碧海さんが登校時間になっても一緒に居ない。


 俺は昇降口で履き替えて自分の教室に入って席に着くと直ぐに右に座る智が

「京、おはよう。早速だけど…」

「智、おはよう。碧海さんと一緒にやった方が良いんじゃないか?」

「京、俺と弥生ちゃんを見捨てないでくれ」

「もう、考査ウィークだけだぞ」

「持つべきは頭のいい、親友だ。ありがとう」

「こら、抱きつくな」


 智がわざと俺に抱き着く振りをした後、自分の席に座ると

「早瀬君、おはよう」

「おはよう、古城さん」

「私達友達だよね。その友達が窮地の時、助けてくれるのって友達の役目だよね」

 都合良すぎ!


「でも、古城さん、全然出来るじゃないですか。俺なんかと一緒にやらなくても問題ないでしょう」

「でも、でもだよ。やっぱり分からない所も有るし、ねっ、お願い」

 自分に顔の前で手を合わせている。もう!


「分かりました。考査ウィークだけですよ」

「ありがとう、早瀬君」


 それを聞いた夏目さん達が、…もう勘弁してくれ。予鈴が鳴って担任の藤堂先生が教室に入って来ると開口一番


「1Cの久我祐樹が退学になった。ここは進学校だ。くれぐれも学生の本分を忘れない様に。

 来週月曜から二学期末考査が始まる、来年度のクラス編成にも影響がある考査だ。気を抜かず全力を尽く様に。次に…」


 藤堂先生はその後の連絡事項を言うと教室を出て行った。そして何故かクラスの子の内何人かというか大半の生徒が俺の顔を見た。苦笑いして外の景色を見るしかなかった。



 午前中の授業も終り、昼休みになりいつもの様に智に声を掛けて学食に行こうとすると教室の入口に杉崎さんが立っていた。

それも手に何か持っている。そして俺に近寄ると

「早瀬君、お弁当作って来た。食べて」


 そう言って大きなランチボックスを俺の前に差し出した。


-えっ?!どういう事?

-やっぱり噂は本当だったんだ。

-でも杉崎さんだけ狡い。



「一緒に学食行こう」

「あの、お弁当って?」

「私の気持ち。何も無いのはあまりにも私自身が酷過ぎる。だから受け取って」

 この人、あの事を自分からばらしたよ。でもそこまでして作ったのなら


「分かりました。食べさせて貰います」


-まさか1Cの杉崎さんが。

-不味い。

-これは急がないと。


 後ろから聞こえる声を無視して智と杉崎さんと一緒に学食に向かった。


 今日はチケットを買わずに碧海さんが座っている四人席に座ると

「杉崎さん、このお弁当は大切に頂きます。でも今日だけにして下さい」

「分かっている。でも今日だけは気持ち受け取って」


 碧海さんは何故杉崎さんがこんな事をしたのか理由は分かっている様で何も言わなかった。

 でも周りの女子、古城さんや夏目さん、それに他の女子の視線が体に突き刺さって痛い。


「京、益々だな。もう決めたら」

 智がこれ以上勘違いな発言をしない様に事情教えておいた方が良さそうだな。


「ふふっ、田中君。私は早瀬君の友達で良いの」

 杉崎さんのこの言葉に智と碧海さんが不思議そうな顔をしている。アニメなら二人の頭の上にクエスチョンマークが山の様に立ったって所だな。



 ご飯は終わって少しゆっくりしていると杉崎さんが

「早瀬君、今日から考査ウィークだよね。一緒に勉強させて。私来年は頑張って早瀬君と同じクラスになりたいの。その為には成績順位表に載らないといけない。だから、ねっ!」


「あっ、来年も京と同じクラスになる為にはあれに載らないと駄目なのか?」

「智也君、私は無理」

「そうだな。俺と弥生ちゃんは2Bを目指すか」

「うん♡」

 もう好きにやってくれ。でも智が居ないのは不味いな。


「智、碧海さん。二学期末考査と来年末の学年末考査でクラスが決まる。だからまだ時間はある。三人でAクラスに行こう」

「どうしたんだ京?」

「智がいないクラスは面白くないなと思ってさ」

「流石、俺の親友」

「こら、抱きつくな」


 §杉崎

 早瀬君、四人と言ってくれなかった。まだ私の事なんか頭の隅にも無いのか。


 §古城

 そうね、確かに成績順位表に載らない限りAクラスには行けない。真面目に取り組まないと。


 §夏目

 悔しいけど私の学力ではAクラスは厳しい。でも早瀬君と同じクラスになりたい。何とか出来ないかな。



 放課後になり、図書室は考査ウィークも有って結構混んでいる。先に碧海さんが取ってくれた四人掛けテーブルに俺、智、碧海さんが座って、杉崎さんも…座ろうとしたところで

「杉崎さん、そこは私が座る」

「古城さん、何言っているの。ここは私の席よ」

「待って、そこは私が…」


 図書委員が怖い顔して近付いて来た。

「静かにして下さい。他の生徒も居るんです」

「「「すみません」」」


 結局、俺の隣席は空席となった。午後三時の予鈴が鳴って

「俺、生徒会室に行くから。じゃあ、また明日」


 §杉崎

 この前の事もある。誰もいない教室で待つのは危ない。かと言って生徒会室前で待つ訳にもいかない。後は朝の改札か。とにかく早瀬君と距離を縮めないと。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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