第31話 見つけた
この話から第三パートの序章が始まります。
第二パートはもう少し続きます。
――――
翌日の朝、駅の改札を抜けて学校に向かおうとすると
「早瀬君、おはよう」
振り返ると杉崎さんが居た。
「おはよう、杉崎さん。珍しいね」
「うん、今日から一緒に登校しようと思って」
「えっ?!俺と一緒に登校?」
「いけない?」
「出来れば止めて欲しい」
「なんで?」
「こういうの好きじゃないんだ」
「田中君とは登校するわよね」
「あいつとは中一からの付き合いだ。特別だよ。とにかく今日だけにしてね」
「そう」
杉崎さんが悲しそうな顔をしているけど、こればかりは仕方ない。朝から横に女の子が居るのは落ち着かない。
そう思っていると、杉崎さんは早足で先に行ってしまった。杉崎さんの気持ちは分かるけどあの人も結構積極的だ。
まさか自分からあの事を話すとは思っても見なかった。女子ってみんなそうなのかな。一歩下がってなんて人は俺の妄想なのだろうか。
そして十二月に入った最初の月曜日から木曜日まで二学期末考査が行われた。
考査期間中は奈央子さんとの通話が無かった。多分、考査に必死になっているんだろう。
考査が終わった翌朝の金曜日も一人で登校した。最近、智と一緒に登校する事が少なくなった。
碧海さんとの関係が上手く行っているんだろう。まあ、俺はこれが似合っている。目立たないのが一番だ。
放課後、生徒会室に行くとお姉ちゃんが
「京之介、話したい事があるからこっちに来なさい」
お姉ちゃんは生徒会長席の後ろにあるドアを開けてそこに俺を呼び入れた。中は立派なローテーブルとソファが両サイドに置いてあった。
お姉ちゃんが奥側に座ると
「座りなさい」
反対側のソファに座ると
「京之介、再来週生徒会選挙がある。新しい生徒会長を選ぶ選挙よ。そして私は生徒会長を引退する事になる。
でも、あなたは生徒会に庶務としてそのまま残りなさい。本当は新しく生徒会長になった人が生徒会役員を決める権限があるけど、今度の生徒会長はもう決まっている。建前上の選挙はあるけどね。
だからその子に京之介を庶務にして貰う様に頼んである。それでいいわよね」
「お姉ちゃんがどうしてもというならやるけど…」
「何か心配でもあるの?」
「新しい生徒会長を知らないので、いきなり言われても俺で大丈夫と思ってくれる人か心配」
「それはそうね。ちょっと待ってね」
お姉ちゃんは一度部屋から出て行くと直ぐにもう一度ドアを開けた。
「詩織ちゃん、入って」
ドアから入って来た女性を見て俺は一瞬目を見張った。お姉ちゃん程では無いが奈央子さんにも引けを取らない美少女だ。
背はお姉ちゃんと同じ位、艶やかな黒髪が背中の中程まであり、大きな切れ長の瞳、鼻はスッとしており、口元に可愛い黒子がある。
「
俺はソファを立つと
「早瀬京之介です。こちらこそ宜しくお願いします」
「愛理様、私はこれで」
「ご苦労様」
小手川さんが出て行くと
「お姉ちゃん、今の人って?」
「本当は早く京之介に会わせたかったんだけど、有栖川さんの事も有ってタイミングを逸した感じね。
でもあなた次第よ。成績はとても優秀、二年生のトップよ。容姿は見ての通り。決して前に出ず、自分を主張せず京之介を支えてくれる人。勿論生徒会長としても立派にやっていける子よ」
「……………」
お姉ちゃんはどう言うつもりなんだろう。でも今の身のこなしって。
今日はこんな事も有って加瀬の手伝いはせずにそのまま帰宅した。帰り際にお姉ちゃんが、家に戻ったら話が有ると言っていた。今回の件かな?
私、有栖川奈央子。二学期末考査は、本当に真面目に取り組んだ。私の一生を決めるかもしれない約束事を京之介さんとしているからだ。もし満点を取ればそれが実現する。
考査も終わった私は、京之介さんへ電話するのはまだ早いと思い、部屋で本を読んでいると
コンコン。
「はい」
ガチャ。
「奈央子、ちょっと良いか?」
「はい」
「早瀬愛理の弟の事なんだが、お前この前の模試の結果、本人から聞いているか?」
「聞いていません。彼曰く、まだ今の模試は俺達には関係ない、流すだけだと言っておられましたから」
「流すだけか…。その流すだけの結果だが、全国一位だそうだ」
「えーっ……!!」
なんて人なの。
「やはりな。今、俺達の高校でも東京都内のトップクラスの進学校でも驚いている。俺達の高校よりはるかに偏差値の低い高校の生徒が、それだからな」
「でも姉の愛理様は、同じ高校ですが?」
「あいつは全く別格の人間だ。比較出来ない。だけどその弟も同じだとすると面倒だな」
「何が面倒なんですか?」
「お前は、本当に早瀬の弟が好きなのか。好きならもっとあいつの事を調べろ」
「どういう事なの?」
§とある少女
私は、ある情報を頼りにこの学校、私立駒門高校の校門に来て居る。午前八時から校門で待っている。あの方が本当にここに居るのか。こんな偏差値の低い高校に居るのか。
さっきから登校して来る生徒が私の事を物珍し気に見ているけど気にはならない。目的はあの方がここに通っているかどうか。それが分かればいいだけ。
ジッと駅の方向を見ていると…来た。一人で歩いている。情報は正しかった。やっと捜し出した。あの時より一段と素敵だ。これで私のすべきことは決まった。
私は戻る為に駅に向かう時、彼とすれ違い様にわざと肩がぶつかるかぶつからないか位の距離ですれ違った。
勿論、私はジッと彼の顔を見ている。すれ違い終わるまで。ふふっ、楽しみだわ。早瀬京之介さん。
うん?今の子、どこかで見た様な。でも似た様な子はいるし、名前も思い出せないや。
お兄様は何も教えてくれなかった。本当に好きなら自分で努力して京之介さんの事を調べろと。お兄様には独特の情報網がある。でも私は伝手など無い。あるとすれば…。
今日の夜、お話して明後日の日曜日は会う事が出来る。でも冷静に話が出来るか分からなくなって来た。
京之介さんはいつも自己肯定感が低く、自分の姿を低く見せようとする。でも何かすれば他の人のはるか上を行く。絶対に離したくない。
それともうすぐクリスマス。彼と二人で一緒に過ごしたい。そしてしっかりと彼の心を掴むんだ。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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