第32話 知りたくない事実
金曜日の夜、寝る前にスマホに掛かって来た奈央子さんの声はいつもと違った。何故か落着かない感じだった。
俺は、理由は分からないけど明後日会うからゆっくり話そうという事でこの日は早々に通話を切った。彼女いったいどうしたんだろう?
翌日土曜日は午前中稽古に行って午後は好きなラノベを読んで過ごした。そして夜に奈央子さんから掛かって来た時は会う場所だけ決めて話が終わった。そろそろ俺に飽きて来たのかな。それとも呆れたのかな。
翌日、いつもの様に巫女玉に午前十時に待ち合わせた。十五分前に改札に行くとなんと奈央子さんはもう来ていた。
もう随分寒い。灰色のロングブーツに濃いグレーの膝上丈のスカートと胸にワンポイントの厚手のシャツ、それに前を開けたロングコートだ。
「おはようございます。奈央子さん」
「おはようございます。京之介さん」
俺が改札を出ると直ぐに近づいて来て手を繋いだ。
「今日はとても寒いですね」
「はい、出かける前の気温が十度を切っていましたから」
「京之介さん、暖かい紅茶を飲みませんか?」
「いいですね」
行ったのはSCの三階にある紅茶専門店。この時間はまだ空いている。奥の壁側の席に座ると店員がメニューとグラスに入った水を持って来た。
注文を決めて店員にお願いした後、何か話すのかなと思っていると何も話さない。少し俯いて黙っているだけだ。
店員が紅茶を持って来て最初の一杯だけ注いでくれたので
「奈央子さん、飲みましょうか」
「はい」
「どうしたんですか。いつもと違う感じですけど?何か困った事でも」
彼女は顔を上げると
「京之介さん、不安なんです。私不安なんです」
俺は意味が分からず黙っていると
「私、京之介さんの事を知ろうとそして私を知ってもらおうと今迄一生懸命努力してきたつもりです。でもまだ何も分かっていない。どうすればあなたをもっと知ることが出来るんですか?」
本当に悲しそうな心配そうな顔で言って来る。
「あの、急にどうしたんですか。今までだって色々話して来たし、俺の事も話しているし」
「でも、…京之介さん、模試の事ですけど。全国一位だったんですよね。なんで教えてくれなかったんですか?」
「えっ、そんな事。あんなのどうだって良いじゃないですか。まだ他の生徒が本気出していないだけでしょ。それに俺も奈央子さんの結果知りませんよ」
「私は、…恥ずかしくて言えません」
「奈央子さん、どうしたんです。そんな事気にするの止めましょう。奈央子さんはとても魅力的な人です。学年順位だって立派です。それで充分じゃないですか。
焼き餅焼きでちょっと我儘だけど俺の事を考えてくれている。俺はそんな奈央子さんが好きなんです」
「えっ?!」
今、京之介さんは私の事を好きだと言ってくれた。
「あの、京之介さん?もう一度今言った事を言ってくれませんか?」
「えっ?だから勉強なんかにとらわれない様にしましょう」
「そうじゃなくって、最後の方」
「…ああ、俺は奈央子さんが好きですよ」
あれ、耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。俺何かいけない事言ったかな。あっ、そういえば好きって言葉言ってなかったっけ?
奈央子さんはまだ下を向きながら
「今の言葉信用していいんですよね。本当に京之介さんの気持ちなんですよね?」
「奈央子さん、本当ですからもう顔を上げて下さい」
「はい」
まだ茹でタコの様だけど。
私は、京之介さんから私が好きだと言われてちょっと舞い上がって
「では、京之介さん、それを実際に行動で示して下さい」
「えっ、もう十分示していると思うんですけど?」
「何を示していますか?」
この人急にいつもの調子に戻ったよ。立ち直り早!
「だから、…抱擁するとか、手を繋ぐとか、こうして毎週会うとか、毎日スマホで話すとか」
「分かっています。でももう少し先に進みたいんです。体で感じたいんです」
「奈央子さん!」
俺は、周りを見て言葉を選んでくれと暗に視線で言うと
「ご、ごめんなさい」
また下を向いてしまった。
その後は、いつもの様に散歩をしたのだけど、寒すぎたのでPBショップとかデパートの中を何気なしに見て回った。
デパートの中にあるレストラン街で流行りのラーメン店に入って食べていると
「あっ、早瀬君、有栖川さん」
「「えっ?!」」
声の方を振り向くと古城さんとご婦人が立っていた。
「こんにちわ。二人でデートですか?」
「これ、奈津子。そういう事は言わないの」
「いいの。もう何回も二人が一緒の所見ているし。でも邪魔してはいけないわね。じゃあ、またね」
古城さんと一緒に居たのはお母さんらしい。店員に別のテーブルに案内されて行った。
「しっかり見られましたね」
「古城さんには何回も見られているけど、学校で俺達の事話す事無いし、良いんじゃないですか」
「そうだといいんですけど」
古城さんは、私達の事を知ってか、京之介さんに好きアピールをしていない。でも隙あらばと思っているに違いない。気を付けないと。でもだから早く学校で京之介さんとの事を皆に教えたい。
そんな感じで奈央子さんと過ごして家まで送って行って別れた。彼女の家に着く頃には大分薄暗くなっている。
別れ際はいつも二人でハグして別れる。彼女はその先もしたいようだけど、それは学期末考査がはっきりしてからだ。
そして翌火曜日に二学期末考査の成績順位が発表された。俺は久しぶりに一緒に登校した智と碧海さんと中央階段横の掲示板に貼り出されている順位表を見ると、俺は満点一位だが…。
順位表の傍で奈央子さんが悔しそうにしている。約束を叶える為には四点足りなかった。
「京、この席は指定席になるのか?」
「もうバレたから、考査だけは普通にするよ」
-えっ、これで普通にするって、どういう事?
-京様には一生追いつけないの?
-あきらめよ。
-いらしたわよ。
-我が駒門高校の華。早瀬愛理様。
―いつ見てもお美しい。
-でも、あの人は…。
お姉ちゃんが来た。今更逃げる事もない。でも一緒に来た人って。
「京之介。真面目に受けているのね。安心したわ」
「京之介様、お見事です」
それだけ言うと二人は去って行った。
-あの人は…。
-校内で有栖川さんと美少女一、二を争う小手川詩織さん。
-何故、愛理様と一緒に京様の成績を見に来たの?それに京之介様って言った。
-まさか?!
-えっ、そんなぁ。
§有栖川
今、愛理様と一緒に来たのは2Aの小手川詩織さん。成績は常にトップでありながらその美貌は私にも引けを取らない。でも何故、愛理様と彼女が一緒に?
私は今の状況に理解出来ない中で考査の点数が京之介様と一緒にならなかった事にショックを受けていた。
後四点。後四点あれば今週の日曜日に京之介さんと体を合せられた。そして来週からは私達の関係を学校内に知らしめることが出来た。でもそれも消えた。
私は立っているのも辛い。ここが、この場でなかったら泣き崩れていたに違いない。肩を落としながら教室に戻った。
周りの人はあの点数を取りながら何故悲しい顔をしているかと聞いて来たけど、曖昧に答えるしかなかった。
智は俺と一緒に教室に戻りながら
「京、さっきのはどういう事だ?」
「俺も理解出来ない」
「でも、あの人って有栖川さんと校内一、二を争う2Aの小手川詩織さんだよな」
「そうなのか?俺は知らなかったけど」
「いや、どう見ても初めて会った雰囲気じゃなかったぞ」
「智の想像の範囲にしておいてくれ」
学力以外でこれ以上目立つのは避けたいのに、なんでお姉ちゃんあの人を連れて来たんだ。いくら成績順位表が全学年同時発表とはいえ、来る必要なかっただろうに。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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