第33話 心配と不安の中で


 §有栖川

 私は、成績順位の発表が有ったその日は、あまり授業が耳に入らなかった。なぜ小手川さんが、京之介さんの成績順位を愛理様と見に来たのか。それだけが気になって仕方なかった。

 京之介さんは多分理由を知っているはず。でも話してくれるか分からない。今日の夜、聞いてみるしかない。



 放課後、俺はいつもの様に生徒会室に行った。加瀬の仕事を手伝っているが庶務の仕事が大体分かって来た。


 これなら新生徒会長の下でもやって行けるだろう。当分は仕事の引継ぎとかでお姉ちゃんも生徒会室に顔を出すと言っていたから。


 三十分程加瀬の手伝いをした後、俺は昇降口に向かった。一人で歩いているはずなのだが、何故か後ろが気になる。


 気の所為でも良いかと思って歩いていると、奈央子さんが五メートルくらい離れて付いて来ていた。


 こんな時間まで何をしていたんだろと思ったけど、駅までは誰が見ているか分からない。だからそのままにして改札に入った。


 ホームで待っていると奈央子さんが近寄って来た。

「偶然ですね。京之介さん」


 どう見ても怪しいけど

「奈央子さんは何をしていたんですか?」

「ちょっと用事が有って」

 図書室の窓から京之介さんが校舎を出るのを見て急いで付いて来たなんて言えない。


 電車に乗ると手を繋いで来た。

「京之介さん。今日はこのまま私の家まで送ってくれませんか?」

「いいですけど」



 電車の中で奈央子さんは、笑顔は見せず話す事も少なかった。彼女の家の最寄り駅を降りて、少し歩いた所に小さな公園がある。そこに奈央子さんが寄りたいと言って来た。


「何か話でもあるんですか?」

「はい、今日の成績発表の場所での事です。愛理様が来られるのは分かりますけど、何故2Aの小手川さんが一緒に来たのか分からなくて。…その京之介さんだったら何か知っているのかなと思いまして」

「あれですか。俺にも全く分かりません」

 生徒会選挙の事は言う訳にはいかない。


「そうですか」

 やはり京之介さんは話してくれない。何か知っているとは思うのですけど。


「あの、もしかして小手川さんという人がお姉ちゃんと一緒に来ただけで、焼き餅焼いたとか…?」

「知りません!京之介さんが魅力的過ぎるのがいけないんです。皆あなたの事を狙っているんです。

 私は不安で仕方ないんです。今度の日曜日楽しみにしていた事も四点足りなかったし。益々あなたが遠くに行ってしまっている様で。…心配なんです。不安で堪らないんです」

 またこれかよ。この人もっと自分に自信持てないんだろうか。


「奈央子さん、その心配や不安を消す為にはどうすればいいんですか?」

「京之介さん。私はもう何回も貴方に不安を消す方法を言っています。実行して下さい。そうすれば皆消えます。

 駄目なら学校で私達の事を公開したいです。そうすればもう私達の間に入ろうなんて人はいないと思います。

 京之介さんの心配している事も分かります。でも立ち向かうしかないです」


 そこまで思っているのかよ。俺は隣に座っている奈央子さんに少し近付いてから彼女の頬に口付けした。


「えっ!」

「これで信じてくれますか。俺は奈央子さんを裏切るような事はしません」

「駄目です。ここでないと」

 そう言って彼女は自分の唇を指さした。


「それは、…そうだ。もうすぐクリスマスがあります。その時なら…」

「その時なら、私を貰ってくれますか?」

「それは……」

「ほら、唇だけでは、まだ心配です」


 俺は臆病なのかもしれない。そうした後の世界が見えないからだ。普通の男子ならこれほど美少女が自分を抱いてくれって言っている。何も考えずにそれに夢中になるだろう。 


 でも俺はその後どうやって付き合って行けばいいかなんて分からない。

その確信持てるまでする自信が無かった。俺達はまだ十六才。何の責任も取れない年だ。せめて十八になっていれば。


「奈央子さん、俺の気持ち信じられないですか?」

「信じられます。信じています。でも気持ちの中に心配、不安というものが渦巻いているんです」

「……………」


 この人の希望を受け入れたら次はもっとその次を要求して来そうな感じがする。今でさえ、対応に困っているのに。


 もし俺がこの人を抱いたら次の不安、心配とやらを言って来るだろう。やはりここは我慢して貰うしかないか。


「奈央子さん、次にしましょう」

「でもぅ」

「家まで送ります」

 そう言って俺が手を出すと渋々繋いで来た。



 翌週に体育館で生徒会選挙が有った。事実上の小手川さん承認選挙の様だった。

 そして新生徒会長が決まると旧生徒会長であるお姉ちゃんが壇上に立って、今迄の実績と次の新生徒会長へのバトンを渡すメッセージを話して終わった。


 そして新生徒会長となった小手川詩織さんは、生徒会運営の抱負と指針を話した後、その場で新生徒会役員を発表した。呼ばれた人は全員が壇上に上がる。


 副会長二名、書記二名、会計二名、庶務二名の名前が呼ばれ、俺も壇上に立った。

 新生徒会長が一人一人を紹介して何故役員になって貰ったかの説明をした。



 生徒会選挙と役員紹介が終わって教室に戻ると智が

「京、遂に生徒会役員か。凄いもんだな」

「役員と言ったって庶務だよ。雑用係さ」

「そうはいかないだろう。それに来年はお前が生徒会長かもな」

「冗談にも言わないでくれ。やる気は全く無いから」

 しかし、生徒会に紛れてしまえば俺のスローライフが呼び戻せるかもしれない。



 §有栖川

 京之介さんが正式に生徒会役員になった。庶務とはいえ、色々と有るはず。今迄の様に毎日連絡を取ったり日曜日会う事が出来るのだろうか?

 もし、小手川さんが自分の権限を利用して京之介さんにアプローチを掛けたら、彼は防ぎようがないのでは。




 家に帰ると珍しくお姉ちゃんが先に帰っていた。俺が自分の部屋に入ると着替えをする前にお姉ちゃんが入って来た。


「京之介、最近有栖川さんとはどう?」

「どうって。毎日スマホで話して、毎週日曜日は会っているよ」

「そう、彼女、あなたに何か要求してきてない」

 有栖川さんもそろそろ限界のはず。


「うん、その事なんだけど…」

 俺は最近、彼女に言われた事を話した。


 やはりそう来たか。

「京之介、あなたの判断は間違っていないわ。彼女は将来に向けた確約が欲しいのよ。だから体の関係を持とうとしている。


 普通なら高校生の間の体の関係なんて何の約束事にもならないに、彼女は経験が無いだけにそれがとても重要な事だと思っている。


 それに乗っては駄目よ。もし体の関係を持ったら彼女はあなたが言う様に必ず次のステップを要求して来る。だから今のままで止めておきなさい」


「それは俺も分かっているけど」

「もし、それが我慢出来ずに他の男にでも走ったらそれだけの子よ。もっともそんな事あの子の矜持が許さないだろうけど。それだけに一度関係を持つと面倒よ」

「うん」


 有栖川さんが万一京之介と関係を持てば今度は間違いなくこの子を束縛しようとしてくる。そんな事この子には害でしかない。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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