第28話 束の間の平穏


 十月の最終日に模試が有った。これも真面目に取り組んだ。ここまで来たら仕方ない。下手に点数を下げたら逆に疑われてしまう。


 でも最近は平穏な日々が続いている。学校の最寄り駅から降りて学校まで行く間の視線は増えた感じはするけど。


 下駄箱の中の可愛いカードも復活してしまった。毎日一、二枚入っている。会わないんだから諦めてくれても良さそうななんだけど。


 奈央子さんは毎日曜日会っている。一応年末までは何もしないと約束したので彼女から積極的には出て来なくなった。会っている時の距離感は縮まった感じがするけど。


 最近は寒くなったので奈央子さんの家の方向にある市立図書館で一緒に本を読んだりする事が多くなった。


 閲覧席には座らなくてベンチシートに座るのだけど、ぴったりとお尻を付けて来る。読みにくくないか聞いたけど、この方が読みやすいと言って来る。本当なのか?後、周りの人からの視線が痛い。


 生徒会室には毎日放課後になると寄って行く。加瀬とは随分話す様になった。彼は1Aで奈央子さんと同じクラスだ。


 俺は友達というか知り合いも少ないので加瀬からの学年の情報は参考になる。やはり奈央子さんは人気があるらしい。


 告白もされている様だが、好きな人が居ると言って断っているそうだ。ちなみに加瀬は校内に彼女がいるそうだ。今度紹介するとか言われた。




 そんな日々が続いた十一月も半ばを過ぎた日の放課後、俺は、生徒会室を出て昇降口に向かうと人の声がする。昇降口の手前の門で話を聞いていると


「杉崎さん、好きです。付き合って下さい」

「ごめんなさい。話もした事の無い人と付き合う事は出来ません」

「友達からでも良いです。俺の事少しずつ知って下さい」

「断ります。好きな人が居ます」

「早瀬ですか?」

「あなたには関係ないです」


 なんか不味そうな雰囲気だな。出るに出れない。


 告白した男子はそれで諦めたのか、校庭の方へ走って行った様だ。ちょっとだけ間をおいて知らない顔して出て行くと


「あっ、早瀬君」

「杉崎さん、遅いですね」

「聞いていた?」

「何の事ですか。俺は今、生徒会室から来たばかりですよ」

「そう、…今の人はテニス部の久我祐樹(くがゆうき)。イケメンだけど好きなタイプじゃない」

 

 杉崎さんは、聞いてもいない事を話し始めた。俺が無視して履き替えて行こうとすると

「待ってよ。こんな状況なんだから一緒に帰ってくれたって良いじゃない」

「そうですね」


 確かにそのまま無視して出て行くのはちょっと失礼か。


「本当は早瀬君がいい。でもあなたは有栖川さんでしょ。だから待っている。まだ高校一年。まだ三年間もある。だから待っている」

「……………」

 どう言って良いか分からない。黙っていると


「ねえ、早瀬君。有栖川さんに有って私に無い物って何?私それ埋めるから教えて」

「分からないですよ。杉崎さんだって今の様に男子からは人気があるんでしょう。俺なんかがそんな事分かるはずないじゃないですか」

「でも有栖川さんは友達以上なんでしょ。私も早瀬君とそうなりたい。彼女と付き合っていないなら、私とそうなったっておかしくない」


 参ったな。

「杉崎さんは、可愛くて素敵な人です。今の人の様にあなたに好意を寄せている人は一杯います。俺なんかに近付くよりその人達の方が杉崎さんを思ってくれるんじゃないんですか」

「そんな言い方しなくたって…。早瀬君の馬鹿!」

 

 杉崎さんは目元に涙を浮かべると駅の方に走って行ってしまった。言い方間違えたか?やっぱり黙っていた方が良かったのかな?難しいな。


 

 俺は、そのまま自宅に戻って自分の部屋に入った。さっきの事が気に掛かっている。手洗いうがいをして着替えてからベッドに横になると天井見ながら


杉崎さんかぁ。いい子だと思う。でも俺は間違いなく彼女より奈央子さんに惹かれている。いくら正式に付き合っていないからって、杉崎さんにも同じような事は出来ない。


でもなあ、やっぱり悪い言い方しちゃったのかな。明日謝るか。でも謝ってどうするんだ。


そこに突っ込まれて付き合ってくれなんて言われたら困るし。でもこのままじゃ彼女に悪いし。誰かに相談できないかな。こんな事相談できる人いないし。智にでも相談してみるか。


 俺はスマホを手に持って智に掛けると、現在電話に出られません…。はぁ、碧海さんと楽しい事でもしているのかな。どうしよう。この事は奈央子さんには言えないか。



 翌日の朝、学校に向かう途中、1Cの碧海さんに

「碧海さん、お願いがあるんだけど」

「何?早瀬君からお願いなんて珍しい」

「教室に入って杉崎さんがいたらお昼休み会えないか聞いてくれないか?」

「いいけど」

「おっ、京も遂に決めたか?」

「そんな事じゃないよ」



 学校について碧海さんが教室に入ると直ぐに出て来た。

「校舎裏の花壇の傍のベンチで待っているって」

「分かりました。ありがとうございます」

「気にしないで。智也君の親友なんだもの」


 俺は智の顔を見ると

「まあ、俺達も教室に入ろうか」

こいつ、俺に事碧海さんになんて言っているんだ?



昼休みになり、

「智、先に行ってくれ。俺用事が済んだら行くから」

「了解」


 §古城

 早瀬君、昼休みに用事なんてなんだろう?ちょっと気になる。



 俺は、学食に行かずに先に杉崎さんに謝る事にした。急いで校舎裏の花壇のベンチに行くともう杉崎さんは来ていた。


「早瀬君、話って何?」

「杉崎さん、昨日は言い過ぎた。ごめん」

「早瀬君は何に謝っているの?」

「えっ、昨日帰りに俺が君に言った事」


「じゃあ、早瀬君は、私も有栖川さんと同じ様に会ってくれるの?」

「それは無い。でも杉崎さんとは友達だから」

「だから何?」

 この人相当怒っている。俺そんなにいけない事言ったか?


「だから普通に話せればいいなと思って」

「そう、普通に話せればか。今日の放課後付き合ってよ。普通に話をしよう。生徒会室から出て来る迄教室で待っているわ」

「それは…」


「今、普通に話せる友達になるって言ったよね。帰りに話も出来ない友達って何?」

「分かった。帰りに一緒に帰ろう」

「じゃあ、教室で待っている。お昼ご飯一緒は無理だよね?」

「ごめん」


 杉崎さんは急ぎ足で校舎の中に戻って行った。今日だけだよな。


 ふふっ、早瀬君が帰りに付き合ってくれると言った。いいチャンスだ。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る