第4話 体育祭は大変です


 智が玉入れを始めた。あいつ中々上手いな。二個に一個の割合で籠に入れている。バスケ出来るんじゃないか。ちょっと違うか。


 それから少しして借り物競争が有った。中学の時は無かった競技だ。何するんだろう?


 そう言えば古城さんがこれに出るとか言っていたな。


「智、これ何するんだ?」

「俺も知らない。最初が走れば分かるんじゃないか。一年からだし」

「あっ、スタートしたぞ」


 スタートラインに居た競技者が三十メートル位走った所に置いてあるカードを拾って…。あれ、色々な方向に走り出したぞ?


 先生の所や、競技道具の置いてあるところ、中には体育館の中まで走って行く奴がいる。面白いなぁ。


 二組目がスタートした。古城さんがいる。彼女、何故か俺達の方へ、あれ?

「早瀬君、一緒に来て」

「う、うん」

「京、行ってこい」

「手を繋いで、走るわよ」


 はぁ、何で古城さんと手を繋ぐんだ。ゴールまで彼女のスピードで走ると係員が彼女からカードを受け取った。

「えーっ、1B古城さんのお題は…。友達になりたい人でしたー!」


「「「「「おおーっ!」」」」」


「ふふっ、早瀬君、なってね」

「はぁ」


 §有栖川

 不味い。先を越されたこうなったら私も。


 俺は、古城さんとトボトボと1Aの集合場所に歩いて行くと第三走者がスタートしていた。あっ、有栖川奈央子さんだ。あれ、カードを取った後キョロキョロしている。


 視線が合った。えっ、こっちに走って来た。

「早瀬君。一緒に来て」

「えっ?」

「早く!」

「は、はい」


 また、走らされた。ゴールに着くと係員が有栖川さんのカードを受け取って

「1A、有栖川さんのお題は…おーっ、私の大切な人でした」


「「「「「おおーっ!」」」」」

「「「「「きゃーっ!」」」」」



「ふふっ、早瀬京之介さん、お久し振りです」

「えっ、俺はまだあなたに会った事は無いのですが」

「その内思い出します。またね」


 ふふっ、これで私を思い切り印象付けられた。



 俺は、この後も二年生や三年生の先輩女子達と一緒に走らされた。誰だ。こんな競技考えたのは。俺が総理大臣になったら絶対に禁止してやる。…な訳ないか。


 次は智の百メートル走だ。確か第二組目のはず。見ていると一組目が終わり智の組だ。


 スタートした。あいつは中学の時から足が速い。最初団子だったけどあっという間に先頭に立って一位になった。


「へーっ、田中君って足が速いんだね」

「うん、あいつ、中学の時テニスでレギュラーしてたからさ。足は速いんだよ」

「そうなんだ」

 でも私は早瀬君が良いな。



 午前中の競技が終わりやっとお昼になった。今日はお姉ちゃんがお弁当を作ってくれている。普段は自分のだけだけど、今日は特別だからと言っていた。


 教室に戻ると、早速バッグからお弁当を出した。智が

「あれ、それどうしたの?」

「うん、お姉ちゃんが作ってくれたんだ」

「えっ、生徒会長が?!」

「いや、俺のお姉ちゃん」


-ねえ、聞いた。早瀬君のお弁当。

-愛理様の手作りらしいよ。

-一口食べたい。

 あげれません。


「智、早く学食に行こう」

「そうだな」



 学食に行くともう智の彼女、碧海さんが席に座って待っていた。俺達が入って行くと大きく手を振っている。そう言えば智の奴、チケット買ってない。


 俺達が席に着くと

「はい、智也君のお弁当」

「おう、悪いな」

「なあ、俺やっぱりお邪魔虫じゃ…」

「いや、ここに居た方がいい。周りを見ろ」

「えっ?!」


 確かに皆、こっちを見ている。今一人になったら…、もう想像したくない。お姉ちゃんがこの前あんな事するからだ、もう。


 俺がお弁当を広げるとえっ?!白いご飯の上に金糸卵で京と書いてあった。あちゃー。

「おい、京。それって」

「うん、お姉ちゃんが作ったから」


-きゃーっ、聞いた。

-あのお弁当、愛理様の手作りらしい。

-それを京様が食べるなんて。

-私も一緒に食べて欲しい。

-私もぅ。


 この学校って都内でも有名な進学校だよね。なんか間違えた?俺、教室に戻ろうかな。


「京、納まるどころか益々大変になりそうだな」

「うん、姉の生徒会長のお弁当を弟の早瀬君が食べるなんて絵になり過ぎでしょう」

「勘弁して下さい」


 でもお姉ちゃんのお弁当は美味しかった。俺の好物は全部知っている。だから綺麗に食べた。これだけされたら午後はお姉ちゃんの恥にならない様に頑張んないと。



 午後になり、最初の種目がリレーだ。全クラス毎に各学年で四人ずつが出る。二百メートルを二人で半周ずつしながらのリレーだ。俺は1Aの四番目だ。アンカーが一周する関係で先生や来賓側の所で待っている。


「レディ」


 パーン。


 電子銃の音と共に第一走者がスタートした。Aクラスは、三位だ。第二走者になっても変らない。次は古城さんだ。彼女にバトンが渡った。


 コーナーを回って、先生や来賓のいる方に来た。お姉ちゃんが見ている。順番は、三位のままだけど、一位との距離はそう遠くない。


「早瀬君」

「おう」


 古城さんからバトンを受け取った俺は、全力で走った。走りには自信がある。すぐに二位に追いついた。


 そしてコーナー立ち上がりで一位を抜くと一気に生徒の集合場所前で待っている二年生にバトンを渡した。


「「「「「おおーっ!」」」」」

「「「「「きゃーっ!」」」」」


-見た、見た!

-うん、早瀬君が一位二位をごぼう抜き。

-格好いい。


-一年生のあの子カッコいいわね。

-知らないの生徒会長の弟君よ。

-えーっ!


 お姉ちゃんは微笑んでくれたけど、また目立ってしまった。


 リレーから三番目の競技、二百メートル走だ。俺は一年生だから最初に走る。何故か周りの男子が俺を見ている。どして?


「レディ」


 パーン!


 俺は、電子銃の音ともにスタートした。ダッシュや瞬発力は稽古で鍛えている。最初は団子だったけど直ぐに俺の前を走る人はいなくなった。そしてそのまま生徒の集合場所の前を走っていると


-きゃー!早瀬君が一番よ。

-京様ー!

-早瀬くーん、頑張ってー!


 なんか凄い声だな。俺はそのまま突き抜けてゴールに到着すると二位に結構な差をつけていた。

 お姉ちゃんが拍手してくれている。何とか恥をかかせずに済んだ。



 1Bの集合場所に戻ると智が

「真面目に走ったな。珍しいんじゃないか」

「ああ、お姉ちゃんのお弁当食べたからな。真面目に走らざるをえなかった」

「ふふっ、京。これから大変だぞ」

「いや、遠慮しておく」


 古城さんが、

「ねえ、早瀬君。友達になってくれるって言ったよね」

「えっ、身に覚えが…」

「あるでしょ。さっきの借り物競争で…」

「駄目よ、古城さん一人抜け駆けは」

 他の女子から言われている。この子名前知らないんだけど。


「えーっ、でもー。さっきさー」

「さっきも何もない。皆で友達になるの!」

「ぷっ、京、一気に友達が出来たな」

「智ー!」

 俺逃げ出したい。


 無事に体育祭も終り、家に帰ると後から帰って来たお姉ちゃんが、よく頑張ったわねと言って何故か頭を撫でられてしまった。なんとも言えない気分だ。


――――

陸上競技では、スタートの時の合図として「On your marks(オン ユア マークス)」「Set (セット)」と言っていますが、高校体育祭という事で「レディ」としています。

書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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