第68話 恐い物好きな女の子もいる
ベンチで十五分程休んだ後、
「次はファミリー向けにしましょうか」
「ごめんなさい。これは私でもちょっと怖かったです。次はこれに乗りましょう」
詩織さんがマップを指さしたのは、するすると座っているシートが高い所まで登りストンと落ちる奴だ。
「いいんですか?」
「はい」
マップを見ながら歩いて行くと結構な高さまで登った十人座り位の円形のシートが落ちて来た。凄い叫び声が聞こえる。本当に大丈夫かな?
これもあまり並ばずに乗れた。これはさっきの安全バーと違って俺達が座って居るシートに肩とお腹辺りを抑える安全バーだ。これならストンと落ちた時に飛び出す事も無い。
二人並んでシートに座った。他の人も座り終わると上から安全バーが降りて来た。
「これは逆さにならないから大丈夫ですね」
「そうですね」
俺達が座って居るシートがゆっくりと昇って行く。
「結構高いですね。遠くが良く見える」
「そうですね。えっ!」
話をしている内に上昇が終わったシートは一呼吸置いた後、フワッとお尻が浮いて
きゃーっ!
詩織さん大丈夫って言ってたよな。
下に付く前にゆっくりとした速度になるとまた上昇し始めた。
「こ、これって一回だけじゃないんですか?」
「その様です」
最高点迄着くと一呼吸おいてまたお尻がフワッと浮いた。
きゃーっ!
途中で降下速度が弱まりゆっくりと地上に着いた。
「きょ、京之介様。た、楽しかったですね」
詩織さんの様子を見ているととてもそんな風には見えないのだけど。
安全バーが上がってシートから降りた。
これはいけません。二度も声を出してしまいました。何とか挽回しないと。
詩織さんがまたマップを見ている。今度は何を選ぶつもりなんだ?
「京之介様、これなら」
選んだのはバンジージャンプ。流石に
「詩織さん、これは止めましょう。そろそろ休みませんか。もうお昼
の時間です」
「えっ、もうそんな時間ですか?」
「はい、もう午後一時前です。レストランで食事にしましょう」
「はい」
好きな方と一緒に居ると時間が経つのが早いのですね。
マップを見ると俺達が居る所からレストランがまとまってあるエリアまで色々なアトラクションがあるエリアを抜けて行かないと行かない。詩織さんが
「ゴーカートがある。あっ、お化け屋敷もあります。たこ足も。面白そうですね」
この人、怖いものしか目に入らないのかな?ゴーカートは怖くないか。
レストランエリアに着くと
「色々有りますね。名前が面白いです。製麺所、フライズ、あっ、たらふくって名前もある」
「何処にしましょうか?」
あんまりお腹膨らますとこの後に響くしな。でも製麺所かぁ。ちょっと魅力。
「詩織さん決まりました?」
「製麺所にしましょうか」
奈央子さんとは良くラーメンを食べに行くけど、詩織さんも好きなんだ。
「いいですね。入りましょうか」
テーブルと座敷がある。両方共少しだけ空いている。
「どちらにしますか?」
「座敷にしましょう」
詩織さんが製麺所に入って座敷を選んだ。ちょっと俺の彼女への印象とは違う。
「こういう、座敷で食べるのって中々ないですから素敵です」
そういう事か。店員が水と紙おしぼりを持って来た。テーブルに置いてあるメニューから俺は、チャーシュー麵を頼んだ。
彼女は塩ラーメンだ。他にも蕎麦やうどんもある。製麺所と看板に書いて有る位だからな。
「京之介さん、食事後にお化け屋敷に行きませんか?」
「いいですけど」
この人ほんと怖い物好きだな。
乗ったアトラクションの感想を話している内に注文した品が届いた。中々上手そうだ。最初にスープを飲むと期待した味だ、中々いい。
麺を食べると麺そのものに味がしっかり有ってスープと上手くマッチしている。こういう所にしてはちょっと驚きの味だ。
「京之介様、とても美味しいです」
「そうですね。詩織さんがラーメンを食べる姿は想像出来なかったです」
「そんなことないですよ。私結構好きです」
「本当ですか。実言うと俺も好きなんです」
「良かった。行きたいお店が在るんです。とても混んでいて並ばないといけないんですが、流石に一人だと…。だから一緒に行って下さい」
「そういう事なら喜んで」
「ふふっ、嬉しい」
ラーメン談議を一通り話しながら食べ終わると少し休んでから店の外に出た。
「お化け屋敷入ります?」
「はい」
「詩織さん、怖い物好きなんですね?」
「えっ、ま、まあ」
本当はお化け屋敷、嫌いです。京之介様にくっ付きたいだけなのですが。
製麺所から近い所に在る。受付の人が何故かニコニコしている。どうしてだろう?乗り放題パスを見せてから二人で入った。中は真っ暗。足元が照らされているだけだ。少し歩くと墓場のシーン。
「うわっ!」
「きゃーっ!」
いきなりゾンビが出て来た。迫力あり過ぎだろう。詩織さんは俺の腕に自分の腕を絡ませてしがみついているという状況だ。また進むと
「わっ!」
「きゃーっ!」
今度は普通の女性の首がいきなり取れて中から腐った感じの顔が出て来た。迫力あり過ぎ。
「京之介様、今度出て来たら蹴りを入れたいです」
「いや、流石にそれは」
場面が変わって古びた病院の廊下のシーン。
「うおっ!」
「きゃーっ!」
いきなり目の前のドアから包帯に巻かれた人が出て来たと思ったら俺達の方に歩いて来て目の前で突然消えた。3Dか?
その後も俺も驚く恐怖シーンが一杯有って、お化け屋敷を出て来た時は、俺も詩織さんも大分参っていた。
「きょ、京之介様。ちょっとだけベンチに」
「はい」
ベンチに座ると彼女が思い切り抱き着いて来た。
「詩織さん?」
「ごめんなさい。ちょっとだけでいいです。このままで」
周りの人が何となく微笑んでいる様な?
五分位して俺の体から離れると
「もう怖いもの系は止しましょう」
「それが良いと思いますよ」
その後は、にゃんにゃんコースターとかシーチキンとかいう乗り物に乗った。どう見てもこれ小学生向きじゃない?
その後も子供っぽいアトラクションに三つ乗った。もう午後四時近い。
「詩織さん、もうそろそろ帰りましょうか」
「えっ、もうそんな時間ですか?」
「はい、もう午後四時になります」
「そうですか」
詩織さんが寂しそうな顔をしている。
「また今度にしましょう」
「えっ、また来れるのですか?」
「まあ、タイミングが合えば」
「はい」
急に嬉しそうな顔になった。今の季節ならまだまだ明るい。またゴンドラに乗って最寄り駅まで行く事にしたが、
「あっ、まだ観覧車に乗っていない」
「また今度にしましょうね」
「でもう」
「詩織さん!」
せっかくの最高のイベントを逃してしまいました。怖いもの系を行きすぎましたね。また今度にしますか。
その後は彼女を家まで送って行ったのだけど、家の前で思い切り抱き着かれた。そして
「京之介様、今日はありがとうございました。また行きましょうね。あっ、その前に私の部屋のデートもしたいです」
「えっ、ええ。また」
何となく彼女の目にハートが見えた様な。
私は、京之介様が角を曲がる迄ずっとその後ろ姿を見ていた。私に振り向いてくれるまで、待つつもりでいましたが、私の心の中が早く、早くって言っています。
もう我慢するのは止めましょう。あの方の心の中に居る女性を追い出さないと。後、半年しかありません。
――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。
「僕の花が散る前に」
https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867
交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。最初の数話固いですけどその後がぐっと読み易くなります。
応援(☆☆☆)宜しくお願いします。
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