第51話 平和な時間


 中間考査が終わった週末はまた三連休。月曜日がここ駒門高開校記念日だからだ。このパターンの場合、俺の予定は自動的に決まってしまう。決められたくないのだけど。


 土曜日は午前中稽古、午後からは部屋で自由に出来る。明日は奈央子さん、明後日は詩織さんだ。


 そんな俺が土曜日の午後部屋で本を読んでいるとお姉ちゃんが入って来た。

「京之介」

「なに?」

「詩織ちゃんとはどうなの?」

「別に変わりないけど」

 本当の事なんか絶対に言えない。


「彼女の家には行っているんでしょ?」

「うん、行っているよ」

「そう、この前詩織ちゃんと会っているわよね?」

 GW最後の日、京之介が帰って来た時、明らかにいつもと違う匂いがした。そう女性の匂い。


 お姉ちゃんに気付かれたのかな。でも恥ずかしくて言えないよ。

「会ったよ。女神像のある町で朝食食べて散歩した。その後彼女の家に行って話をして帰って来た」

「そうなの。はっきり聞くわね。帰って来た時、京之介の体から女性の匂い、詩織ちゃんの匂いがしたんだけど」

「えっ?」

「なんで驚いているの?」

「家に居る時抱き着かれたからかな?」

 京之介が左手で眉毛を掻いた。


「それだけ?」

「うん、それだけ」

 弟が嘘を付く時必ず左手中指で眉毛を掻く癖がある。否定しているという事は詩織ちゃんとしたという事か。


 無理に口からは話させる事も無いか。これだけ分かればいい。有栖川さんとは多分していない。だから詩織ちゃんとしたという事か。それならいい。


「京之介、女の子の体は繊細なんだから大事にしないさいね」

 

 それだけ言うとお姉ちゃんは自分の部屋に戻って行った。バレたのかな。どちらにしろああいう事はもうしない。


 あの時はどうにかしていたんだ。でも詩織さん大丈夫って言っていたけど本当かな?まさかって事は無いよね。聞いてみようかな。



 翌日は奈央子さんと午前十時に巫女玉の改札で会った。白をベースにした花柄のワンピースだ。彼女にとても似合っている。改札を出て来た所で


「おはようございます、奈央子さん。とても素敵ですね」

「おはようございます、京之介さん。そう言ってくれると嬉しいです」

「いい天気だし巫女玉川の河川敷でも散歩しますか?」

「はい」


 スッと手を繋いで来た。


 改札を出て左に曲がり道路に出てから更に左に曲がって真直ぐ行くと巫女玉川の河川敷に出る。太陽の光が川面に反射してとても綺麗だ。


「流れが穏やかですね」

「今の時期は天候が良くて雨も少ないですから」


 彼女は握っていた手を離すと俺の腕に巻き付いて来た。

「歩きずらくないですか?」

「いいえ、こちらの方が京之介さんが傍に居るって感じがするので」


 彼女の柔らかい胸が当たっているんだけど。でもニコニコしながら歩いている姿を見ると離す訳にも行かなそうだ。


 §有栖川

 気持ちいい風が爽やかに流れて行く。犬を連れて散歩している人も居れば、釣りをしている人もいる。


 何も話さない。ただこうして京之介様と腕を絡ませながら歩いている。これが良い。この方の気持ちはもうしっかりと確認できた。急いでして貰う事もない。


 偶にこの前の様に抱いて貰えばいい。京之介さんは、私の事が好きだ、本当に私を欲しい時は自分から言うと言っていた。責任も取ると言っていた。


 だから、前の様に無理して最後までしてなんて恥ずかしい事はもう言わなくていい。今の様にこの方の傍に寄り添って行けばいいんだ。


「綺麗ですね。山々がしっかりと見えています」

「はい、ここから富士山がはっきり見えるのは珍しいですね」

「そうですね。随分歩いて来ました。戻りましょうか」

「はい」


 奈央子さんと初めてここを散歩した時の様な雰囲気に戻った。何も話さなくていい。ただこうして一緒に歩いているだけで心が落ち着く。



 俺達は、駅まで戻るとSCの本屋さんに行った。勿論俺達が読んでいるラノベの最新本が出たからだ。まさか奈央子さんとこういう事をする時間が来るとは。


「有りました」

「僕も見つけました」

「あっ、こっちも最新本が…。どうしようかな」

「二冊買えばいいじゃないですか」

「それでは本屋さんに来るのが一回減ってしまいます。ここに来るのも楽しみの一つです」

「俺も同じ考えです」

「ふふっ、最初の一冊にしておきます」


 レジで会計してからお昼を食べる事にした。

「選択肢は三つですね。何処にしますか?」

 

「うーん、この前は跳ねてしまいましたからねぇ。あそこは古城さんに見られたし消去法だと中華キュイジーヌ」

「でもあっちも跳ねる確率高いですよ」

「そうですね。でもやっぱり中華キュイジーヌで」

「分かりました。エスコートします」

「お願いします」


 彼女の手を柔らかく握って改札の反対側二階にある中華キュイジーヌに行く事にした。



 店に入るとカウンタに座って水も出ない内にメニューも見ないで

「パーコー麺」

「私は昔ながらのラーメンと餃子」


「ふふっ」

「あはは」

「「慣れましたね」」


「へい、お待ち」

 十分位して餃子以外が出て来た。


「いつもながら美味しそう」

「そうですね」


 ラーメンを食べていると餃子が出て来た。あまりしゃべらないで食べた方が飛ばさなくて済む。


 静かに食べた後は奈央子さんが洋服が欲しいという事でデパートに行った。幸い俺が一緒に入っても問題ないショップだ。


「京之介さん、これはどうですか」

「大分生地が少ない様な」

「ではこちらは」

「大分短すぎません」

「でもこれは短いのです。デザインを決めて下さい」


 そう、夏に履く彼女のショートパンツを選んでいる。俺と会う時に履きたいらしい。〇〇クロで買えば半額にも満たないけど、彼女はデザインが違うというのだ。俺は全然分からないけど、細かい所で作りが全然違うらしい。説明されてもさっぱり分からない。


 次はTシャツ。こちらもデザインだ。左胸にワンポイントが有って夏らしい色が良いという事だがこちらも俺にはさっぱり分からない。


 結局、四店舗位回ってそれぞれ二着ずつ買った。俺の小遣いではとても払えない。向こうならTシャツ一枚千五百円くらいで買えるのに。


 その後はSCの二階にある紅茶専門店に行った。

「少し疲れましたね」

「そうですね」

「京之介さんは全然疲れていない雰囲気ですけど」

「そんな事無いですよ」

 実際はこの程度では疲れ等全く感じないけど彼女は大分疲れたようだ。確かに今日は結構歩いている。


「京之介さん、明日はどうするのですか?」

「用事があります」

「そうですか」

 ちょっと寂しそうな顔をしているけど仕方ない。


「でも、学校でも会えるし、毎週日曜日はこうして会えますから」

「そうですけど…」

 本当は毎日二人きりで会いたいのに。でもそんな事言ったら駄目ですね。


 紅茶専門店で一時間近く居た後は、彼女を家まで送って行った。ここからなら三駅だ。近い。


 家の前で別れ際に周りに人が居ない事を確認してから少しだけ唇を合わせた。彼女の幸せそうな顔を見てから

「じゃあ、帰ります」

「あの…」

「はい?」

「来週は私の家で会えますか?」

「いいですよ」

「ふふっ、楽しみにしています」


 やはり二週間か三週間に一度は京之介さんと体を合せたい。最後までする必要はない。その方が心が落ち着く。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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