第3話 レッドドラゴン

 大急ぎでバレッドビートルの体液を、作業着から洗い落とし、俺は探索に出発した。

 惑星E-101の空は、地球と一緒で青かった。


「今回の仕事さ、終わったらボーナスが出ると思うんだよね。特別ボーナス」


 鳥羽が歩きながら森の中を探していた。

 森と言っても、一般的な樹木……種子植物の樹では無い。

 

 シダ植物だ。


 探しているのは卵。


 何の卵か……


 彼女は言う……卵を探しながら。


「レッドドラゴンは危険度が高い宇宙生物ではあるし」


 レッドドラゴン。


 名前は、まるで幻想動物みたいに思えるのだけど。


 ……こいつも昆虫なんだよね。


 体長3メートルくらいの……蟲だ。


 体色は赤。

 レッドドラゴンという名前に違わない色。


 で……顔が蟷螂に似ている。

 そして身体の方も結構似ているんだけど……


 鎌が無くて。

 

 代わりに、ヴェロキラプトルのような鋭い爪が3つ生えた前足がついている。

 そして蟷螂特有のデカイ腹の後ろの方。

 その先端に、まるで蠍みたいな毒針のついた尾が生えてるんだよね。


 あと。


 口から毒ガスを吐く能力を持っている。

 その温度は150度。


 まるでドラゴンブレスのようだ。

 浴びれば深刻な火傷してしまうだろう。


 なので、レッドドラゴンと命名された。


 一般に蟷螂が100キロを超えたら、必ず象を捕食すると言われるんだけど。

 このレッドドラゴンはそれを地で行く生き物で。


 名前負けはしてないね。

 まさに竜だよ……。


 だからまあ、この仕事を終えたら、鳥羽の言う通り多分出るね。

 特別ボーナス。


 で、当然だけど流れで訊かれる。


「リューイチはボーナス貰えたら何に使うの?」


 まぁ、ボーナスの話題が上がったら、あるあるの質問。

 それに対し


「貯金」


 俺は即答した。


 嘘では無いから。

 真実でも無いけどね。


 俺は……実際は1割ほど貯金に回し、残りを別のことに使うんだ。

 脳裏に声が蘇る。


『お兄ちゃん、別に私は大学に行けなくても良いから』


 記憶の中の妹は、そんな言葉を困った様な笑顔で俺に言って来た。


 ……俺には妹がいる。

 名前は龍子。今は高校2年生。


 妹は俺と違って勉強はできるから、出来れば大学に入れてやりたいんだけど……金掛かるからな。大学。

 太古の昔は、大学全入時代なんてものがあったらしいんだけど、今の時代は高卒が珍しくは無い。一定以上の学力が無い人間は、普通に高卒になる。

 だから別に、絶対に行かなきゃならない場所じゃあ無いんだけどね。


 俺の親はすでに他界しているので、俺がやるしか無いんだよ。

 両親の遺産はあるが……微妙に足りないんだよな。


 ここの会社、給料はすごく良いからな。

 そういう意味で、すごく助かっているよ。


 ……あと、もうひとつ。

 金が掛かる理由があるんだが、それについては今は考えなかった。


 あまり考えたくない。



「貯金……老後の資産形成か。まぁ、いつまでも続けられる仕事じゃ無いものね」


 鳥羽が俺の言葉にそんなコメント。

 なんか面白く無さそうな。


「じゃあ鳥羽はどうなのよ」


 そんな俺の言葉に、彼女はしばらく考えて


「……貯金かな」


 結局そこに落ち着いた。

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