第27話 突然の救世主

「リューイチ……ゴメン。捕まっちゃった……!」


 頭に銃口を突き付けられて、相棒は震える声でそう言った。

 ……相棒は悪くない。


 運が悪かったんだ。


 多分、こいつらは相棒を俺の相棒と認識して襲ってはいないはずだ。


 偶然、見つけたんだろう。


 俺を止めるための人質として。


 ……つまり、こいつらは自分たちの犯罪行為の邪魔をさせないためなら、見ず知らずの通行人を人質に取る程度には腐ってるんだな……。


 で、こいつらはそういうのは負い目になってるのかね。

 相棒が口走った言葉を聞き逃していなかった。


「お……お前の恋人が死んでも良いのか!? こ……これならお前に通じると思って捕まえて来たんだ!」


 ……嘘吐け。

 ただの偶然だろうが。


 泥棒を現行犯逮捕しようとする正義面した野郎相手なら、通行人でも人質効果あると思って当然だしな。


 それに恋人じゃねぇし。


「……お前たちは心が綺麗なんじゃなかったか? 弱い女をそうやって暴力的に捕まえて、人質にとって要求を通す。……ずいぶんと心の綺麗な行動だなオイ?」


 一応言っておいてやる。まぁ、無駄だろうけど。


「こうしないと勝てないんだから仕方ねえだろ!」


「いつも勝つ側に回ってるズルい奴らがほざくな!」


「上っ面ばっかり見やがって! いつもお前らはそうだ!」


 ……連中はギャンギャン喚く。


 ほらな。


 さて……どうするか。

 まずは相棒を解放させないといけないんだが……


 そう、俺が難題を前に思案に沈みかけたときだ。


「あの!」


 ……相棒が口を開いたんだ。




「危険物乙種の免許は持ってますか?」


 若干震える声で、彼女は言った。


「乙種?」


 相棒の頭を拳銃でゴリゴリしている男は怪訝な顔をする。


「ガソリンスタンドで働くのに有利になる資格ですよ! 1万円以内で取れる資格!」


 ……仕事の話で。

 ほんの少しだけ、連中の注意が向く。


「その資格持ってると年収どのくらいの仕事に就けるんだ? 500万円行くのか?」


「それは……多分無理ですけど」


 相棒の声は小さくなる。

 すると


「あのなぁ!」


 男たちの1人が激昂する。


「俺たちはそういうのはもう飽き飽きなんだよ! 言葉巧みに誤魔化して、俺たちをまた低賃金の仕事に誘い込むつもりなんだろ!?」


「そんな……そんなつもり無いです。乙種の危険物を持ってガソリンスタンドに勤めれば、数年で甲種を受験する資格が得られるから、そこから……」


 ……相棒は騙そうとはしていない。

 こいつらのために、自立支援に繋がるアイディアを出したんだ。


 相棒が言いたいのはおそらくこういうことなんだと思う。

 前にちょっとだけ聞いたことがあったからな。


 危険物乙種の免許を取り、数年ガソスタに勤めると甲種の免許の受験資格が得られる。

 そして甲種を持っていれば、化学工業系の工場での仕事にありつき易くなるんだ。

 そうなれば、ちゃんと食えるじゃないか。おそらくワープアにもならんはずだ。


 ……だけどこいつらは、即普通に食える収入が手に入らないと満足しない。

 いや、おそらく仮に手に入ったとしても……


「何眠いこと言ってんだ? ……殺すぞ?」


 ひっ、という声が相棒の喉から洩れる。


 それが、拳銃を握っている男の何かを刺激したらしい。


 表情が変化した。


 怒りの表情から……下種の表情に。


「……お前ら女は、稼ぎの無い男には寄ってこないんだよなぁ。……お前さ、責任取ってくんねぇかな? 説教臭いくだらんことをゴチャゴチャ言ったお詫びに……」


 一般的な稼ぎが手に入ったら、さらにその上に欲しがる。

 それが簡単に手に入ったら、さらに上だ。


 まるで豚だ。


 ……だから嫌いなんだよ。


 そしてそれは。


 目の前のそいつが、相棒の胸元を撫で回そうとするのを見て爆発しそうになる。

 瞬間的に殺意を覚えた。


 作業服の上からだし、直接触られたわけじゃないだろうけど。

 気持ち的には痴漢されたのと同じ嫌悪感があるらしい。


 妹と、死んだ母親からの話だが。


 相棒の顏に嫌悪の色が浮かぶ。


 許せない。


 衝動的に、俺は決断していた。


 スッと身を撓め……


 次の瞬間、俺は間合いを詰めていた。

 そしてそのまま相棒を拘束していた男の顔面に拳を撃ち込む。


 阿比須龍拳奥義・蜚蠊ごきぶり疾走だっしゅ


 最初からトップスピード。

 男の注意が俺から一瞬、相棒の身体に逸れた瞬間を狙ったんだ。


 最初からトップスピードで動ける生き物・蜚蠊ごきぶり

 この奥義はその動きを我が物にする。


 俺は蜚蠊と丸々1カ月、家畜の餌置き場で同居することでこの奥義を取得した。


「うぼあああああ!」


 鼻が折れ、折れた歯をまき散らしながら吹き飛ぶ。

 攻撃奥義で殴っていないので、おそらく死にはしない。

 歯が折れたから、食事はしにくくなるだろうが、そのくらいは自業自得だ!


 だが


「うおあ! 土外どがい!」


道夫みちおー!」


 痴漢野郎の仲間たちが、悲鳴をあげてそのまま全員俺に拳銃の銃口を向ける。

 俺はとっさに相棒を抱きかかえた。


 俺は平気だが、相棒は別だ!


 銃弾に当たると相棒は死ぬ!


 しかし


 全力で庇うが、そのせいで俺は行動できなくなる。

 どうすればいいんだ……?


 そのときだった。


「阿比須真拳奥義!」


 ……若い男の声がしたんだ。


「頸椎損傷!」


「ぶげええ!?」


 同時に、男たちの1人の首が明後日の方向にひん曲がる。

 その若い男のハイキックで。


 そこに居たのは、白基調の一般的宇宙服に身を包んだ金髪の男性。

 白人種と思われる、金髪碧眼の美青年だった。


 いつの間に……?


 それにも驚いていたが、俺はもう一つの言葉に硬直していた。


 阿比須真拳だって……?

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