第28話 阿比須真拳の男

「おおお! 九尾くび~!」


「なんだてめえは!」


 今後はその白人の男に、全ての拳銃の銃口が向く。

 その白人の男は


「事情は知らないがどうみてもお前たち犯罪者。ついでにどうみても、そこの男が正義。ここで手を貸さないのはウルトラやばい」


 ……日本語に不慣れなのか、なんか妙な言葉で窃盗犯に口上を述べた。

 表情は不敵な笑顔を浮かべているので、本人はかっこいいことを言ってるつもりなんだと思うんだけど。


 日本語って難しいらしいからな。

 日本語しか喋れない俺には分からんけど。



 その白人の男は……

 年齢はおそらく俺たちと同じくらいで。

 その外見は、金髪碧眼で精悍な顔立ち。


 そして筋肉質の、逞しい男だった。

 しかも、その筋肉の付き方は格闘士グラップラーのそれ。


「撃ってこい。そんな玩具、私には通じないでございます」


 ……阿比須真拳を名乗る男。

 その言葉は俺には当たり前だった。


 そして発砲。


 当然の如く、全く通じない。


 ……鉄身五身だ。


 阿比須の拳に名を連ねる者だから当然、この男も習得しているんだ。


 白人の男は鉄身五身の絶対の防御力に信頼を置いた、脇ががら空きにし、ただ素早く拳を繰り出すことだけを主眼に置いた強襲の構えを取る。


 そして……


 全く意味の無い射撃を行うしかない窃盗犯の男たちに襲い掛かった!


「阿比須真拳奥義! 前歯粉砕!」


 一瞬で間合いを詰め、男は窃盗犯の顔面をぶん殴る。

 窃盗犯の前歯が砕け散り、悲鳴をあげて吹っ飛ばされ、地面に転がる。


「阿比須真拳奥義! 肋骨崩壊!」


 窃盗犯の前歯を砕いた男は方向転換し、まるで鉈を振るうような中段の振り蹴りを別の窃盗犯の胴体に叩き込み、その肋骨を砕き、身体の外に飛び出させた。


「阿比須真拳奥義! 大腿骨開放骨折!」


 窃盗犯の肋骨を砕いて倒した男は、また素早く方向転換。

 今度は別のもう一人の大腿にローキックを叩き込み、その大腿骨を一撃で砕いて開放骨折させる。

 ぐはあああ、と悲鳴をあげて窃盗犯は倒れ込んだ。


 男の動きは止まらない。

 残り1人になった窃盗犯に肉薄し。


 貫手を繰り出す。窃盗犯の胸目掛けて。

 こう、宣言しながら。


「阿比須真拳奥義! 臓物モツ握り!」


 そしてその貫手が窃盗犯の男の胸に突き刺さろうとしたとき。

 窃盗犯は銃を投げ捨てて手を上げてしゃがみ込んだ。


「もう、勘弁してくれええええ!!」


 ……勝負ありだった。

 白人の男も、貫手の一撃を寸止めしていた。




「……すげえな」


 俺は、男が倒した窃盗犯たちを多少ドン引きしながら見つめていた。

 男の一撃を喰らった窃盗犯たちは……


 なんと


 最初に一撃で首をへし折られた男すらも、意識があって、生きていた。


「俺の身体が動かねえよぉぉぉ」


 泣きながら。


 ……まあ、病院に行けば頸椎は繋いでくれるから、生きてさえいれば大丈夫だ。

 元通りになる。

 金は掛かるから、金が無いなら借金になってしまうけどね……


 しかし……


「これが……阿比須真拳……」


 活人拳だとは聞いていたけど、こういうことかよ。


 どんな深刻な怪我を負わせても、命だけは絶対に奪わない。


 ……活人拳ってそういう意味だとは思っていなかったんだけど。


 戦慄しながら、俺は白人の男を見る。


 まあ、色々あるけど……


「さ、さんきゅー」


 たどたどしい英語で、俺は彼に礼を言おうとした。

 頭を下げつつ、握手のための右手を差し出しながら。


 お礼は相手の母国語で言うべきだ。

 それが誠意だろ。


 え?


 白人=英語って発想。

 安直過ぎないかって?


 ほっとけ。俺はそう思ったんだよ。


 すると


「Thank you for your help. We are very grateful to you」


 ……俺の横から、相棒が丁寧にお辞儀しながら流暢な英語でそう彼に……多分お礼を言った。

 うおおお……


「No wonder!」


 そしてそのまま、彼の方も英語で返答して。


 その場で俺に分からない会話が繰り広げられる。


 ……い……居た堪れない……!

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