第15話 片腕生活
「簡易義手の具合は大丈夫?」
地球への帰還の航路につき。
俺は船内での普段着にしている作務衣に着替えて。
一通り済んだので長椅子に腰掛けてボケッとしていたら。
鳥羽が俺を覗き込みながら、そう声を掛けて来た。
彼女の方は黒のタンクトップと緑のアーミーパンツ。
彼女の普段着は大体いつもラフな感じだ。
「まぁ……うん。意外と普通に使えるかな」
言いながら俺は目の前で簡易義手をグーパーした。
簡易義手……ステンレスとゴムで作られた、見るからに簡素な義手だ。
全体はステンレスの金属製で、指先に滑り止めのゴムが嵌めてある。
で、こんなだけど。
一応、脳からの電気信号に反応して自分の意思で動かせる機能がついてる。
さすがに触覚は無いのだけど。
あと、出力の調整がちょっと難しい。
だから繊細な作業は無理だな。
お茶碗を持つのや本を持つのはおそらく出来るけど……
卵を割るのは厳しいかな。壊すかもしれん。
あと、防水機能がついてない。
風呂に入るときは外さないといけない。
……片手で風呂に入るのは結構キツイよな。
まあ、しょうがないんだけど。
「何かやって欲しいことが合ったら遠慮なく言ってね。リューイチのその怪我は私のために負ったものだし」
そう心配そうに言う彼女。
「まぁ別に気にしなくていいよ。地球に帰ったら触覚機能もついてる最先端義手を借りるし」
そう言って、俺は彼女に見せるように無事な右手をひらひら動かす。
地球に帰れば、保険会社のサービスで最新義手が借りられる。
そしてその上で2カ月待てば新しい左手がクローン技術で作られる。
それの移植手術をしたら、完治だ。
何も問題ない。
『国生さん、今回は左手で済んで幸いでしたが、今後のために是非装備の見直しを』
するとAIが俺に苦言を呈して来た。
まぁ……ね。
社員が負傷したら、まあ会社としてはそう言うしか無いよな。
「今回の件は私を庇ってのことなんだから、彼のボーナスの査定に影響させるようなことはやめてよアマノ33号」
すると鳥羽が宇宙船AIにそう鋭く言い放った。
……正直、少し嬉しかった。
この件で俺の評価が下がるのを心配してくれるとか。
相棒冥利につきるというものだわな。
鳥羽の言葉を聞きAIは
『無論この件は評価が上がることはあっても、下がることにはなりません。ただ私としては、何か攻撃兵装があれば負傷を避けられた可能性があった。それをお伝えしようと……』
そう、まるで弁解するみたいな口調で返す。
そしてその日の夕食の後。
宇宙船内のシャワー室で風呂に入るときがやってきた。
作務衣を脱いで義手も外す。
義手の着脱は片手で出来るように工夫された構造になっているので、大して苦労はしなかったんだけど。
……シャワー室は隻腕対応になって無いから。
やっぱ、苦労する。
特に頭を洗うのが大変だ。
シャンプーを手に取って、頭を洗うの、つれえ。
……これは多分改良しようも無いよなぁ。
風呂は両手使って入るのがデフォだもの。
そんなことを思いながらなんとか片手で頭を洗っていたら
「……リューイチ?」
シャワー室の外から。
鳥羽の声が掛けられた。
何か訊きたそうな感じの声が。
そっちを見ると、シャワー室ドアの半透明のガラスに彼女の影があった。
ちょっとおずおずといった感じで。
……何の用だ? と思った。
なので
「え? 何?」
そう訊き返す。
すると彼女は
「……入浴手伝わなくて大丈夫?」
そんなことを言って来た。
ちょっと待てや。
それはまずいだろ。
「やらなくていいよ」
だからそう返答した。
そういうの良いから!
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