3章:宇宙真理教

第16話 相棒と動物園

「ワイアームってサナダムシのイメージなんだが」


「ん、節はあるから言わんとしているところは分かるけど、別に平べったくは無いし、外殻はしっかりしてるから。それに外見はそれほど似て無いし」


 ガラスに似た展示ケースに入っている体長3メートルほどの大きさの蟲。

 表現するなら、甲殻で武装した茶色の巨大ミミズ。

 先端に、スズメバチの頭部に似た顔がついている。


 そして生態として似てるのは、スズメバチではなくハンミョウの幼虫なんだな。


 地面に穴掘って中に潜み、近くを獲物が通ると襲いかかる。

 飲まず食わずでも3カ月以上耐えられるそうで、ひたすらそんな状況で獲物を待って生きているそうだ。


 で、名前はワイアーム……

 本来は、蛇に似た形状のドラゴンに与えられる名前。


「……展示ケースに土が入って無いよね」


「まぁ、穴に引っ込まれるとモノが見えないからね」


「それ、動物虐待では?」


 俺の隣で紫色の華やかなロングスカートの衣装で着飾った鳥羽が、俺の言葉にコメントをつけてくれる。

 俺たちは今、宇宙生物動物園に来ているんだが。


 正直、楽しい。


 鳥羽は宇宙生物の知識が豊富だから色々話してくれるのが嬉しいわ。

 話してくれる鳥羽の方も嬉しいみたいだしな。


 ……そんなことを動物園の手すりを握りながら思う。

 左手の義手で。


 地球に帰って来てから、触覚も脳に伝達するタイプの最先端義手を借りたので、掴んでる感覚があった。

 保険、ありがたいね。


 ここの動物園に来ることは、ハクタクを狩ったH-232からの帰還の船の中で約束したんだよ。

 鳥羽が「ピンチを救ってもらったお礼がしたい」って言い出したので。


 なので、この動物園の入園費用は鳥羽持ちなんだわ。


 ……この後、一緒に軽く飲める居酒屋に行ってご飯食べて解散、の予定なんだけど。


 そこの費用だけは割り勘にしたい気分だ。

 古代かよ、って言われるかもしれんけど。


 ……女性にごはん奢られるのは抵抗がある。


 出来れば奢りたい気分ですらあるけど、それは多分鳥羽が嫌がると思うんだよなぁ。

 古代じゃないんだから、って。




「ここ。良いところでしょ」


 イタリアンの店で。

 若干呑み屋っぽい店だった。


 黒基調の綺麗な店なんだけど。


 テレビがあるんだよな。

 テレビはニュースを流している。


 ……野球やサッカーじゃないのが救いなのかな。

 雰囲気が……


 まあ、別に鳥羽は俺の恋人じゃ無いし、今日一緒に過ごしたのも別に恋愛的なアレじゃないから。

 気にするところでは無いか。


 ……しかし本気デートでは俺はここには女の子を連れてこないけどね。流石に。


 鳥羽と一緒にテーブルのひとつにつく。

 お手拭きと水が出て来て。


 メニュー見て注文。


 俺たち2人とも、パスタを注文した。

 俺はペペロンチーノ。

 確か貧乏人のパスタって言うんだっけ?

 鳥羽は野菜メインのパスタを頼んだみたいだ。


 そして酒は2人とも白ワイン。


「まだ食べたこと無いんだよね。ここで」


 ニコニコしてる鳥羽。

 だから俺は


「普段鳥羽は何を食べてんの?」


 こう訊くと


「んー、おでん」


「おでん!」


 意外だったから軽く叫ぶ俺。


 すると「野菜メインだよ」と。

 鳥羽は微笑みながら言う。


「俺は鍋だなぁ……肉野菜の」


 野菜野菜野菜、肉、豆腐……そんな感じ。

 そう自分語りをすると


「ってかさ」


 ずい、と腕を組んで鳥羽はテーブル越しに俺に接近し

 こう言って来たんだ。


「その、鳥羽呼び、止めない?」

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