2章:宇宙漢方

第8話 兄妹デート

 地球に帰って来た後。

 数日の休暇を貰えた。


 出張で半月以上地球に居なかったからな。

 その分まとめての休暇だよ。


 だから俺は日本の地方都市に向かった。

 ……唯一の肉親の妹が、そこで住んでるんだよね。


 電車を乗り継いで、俺はそこに向かった。

 一応、電話で連絡を入れたんだが。


 一応、嬉しいとは言ってくれたけど。

 ホントのところはどうなんだろうな。

 あの年代の女の子は、色々難しいだろ。


 ……しかし、電車。

 一番安い「普通列車」って、ここ数百年何も性能的に変わって無いらしいんだよね。

 いや、運用のコストだけは安く上がるような改良はされたらしいんだけど。

 そんなのは利用者には分からんし。


 例えば、今はAIで運転されているのが基本だけど、昔は人がやってたから、そこに人件費が発生していたわけだ。

 それが今は無い。

 そこは改良だけど……。

 料金据え置きで、目的地までの所用時間も変わらないんじゃ、利用者としては一緒だもんな。


 ……リニアをさ、一般で入れるとかしてくれないかなぁ?

 無理なのかねぇ……?


 なんてことを、2時間くらい普通列車で揺られて、思った。

 ……身体が痛い。座席が固いんだよ。


 電車を降りて、駅の改札へ。

 ここは流石に進歩してるんじゃないかなと思う。

 多分昔よりは。


 ここ、地方都市だけどさ。

 支払いは電子マネーでいけるんだよね。


 で、無人。


 昔は人が居たらしいんだけどね。


 ぞろぞろと人の流れに沿って歩きつつ、出口を目指す。


 ……確か、北出口だったよな。


 北出口から駅外に出て、人影を探した。


 すると


「お兄ちゃーん!」


 向こうから声を掛けて来た。

 サバイバルをイメージするような緑のミニスカートと、白いシャツの活発な感じのポニーテール少女が。

 つーか、妹の龍子が。手を振りながら走って来る。


 俺は手を上げて


「久しぶり」


 と言い


 妹をいつもの焼き肉屋に連れて行った。




「お兄ちゃん、元気にしてた?」


「そういう心配はせんでいい。お前はお前の心配をしろ」


 焼き肉屋に兄妹で入り、当然だけど同じテーブル席に座る。


 ……女子高生を焼き肉屋に連れて行くなんて……!


 そう思うかもしれないけど、ここの街、食が死んでてね。

 うどんはぶよぶよで唇で噛み切れるし、中華料理はしつこくて喰えたもんじゃない。


 美味いのがこの焼き肉屋と、ケンタとマックしか無いんだわ。

 ケンタとマックはファーストフードだから……消去法で焼き肉屋。


 店員さんがやってきたので、俺はとりあえずカルビとハツとタン、野菜と。

 食べ放題を選択せず、常識的な範囲で単品注文を出す。


 そして


「ところで」


 水を飲んでいる妹に向き直り、俺は言った。


「クレカの請求書の額があまり大したこと無いんだが、お前さ……服くらい少しは買っても良いんだぞ?」


 そういう遠慮はされたくないんだがな。

 折角親がいなくても妹を養える会社に入社出来たのに。


 俺は妹にクレカを作って渡していた。

 小遣いは渡してない。

 全部そういうのはクレカだ。


 ……お金のせいで、妹がよからぬバイトに手を出すような真似をしたら、俺は両親に申し訳立たんから。


「そういうわけにはいかないよ」


 唇を尖らせながら、妹。


「自分のお金じゃ無いのに、バカバカとは使えないでしょ。常識じゃん」


 そういうのは良い感覚だとは思うけど……金は要るだろ。

 女子高生だぞ?


「だから常識的な範囲でだな……」


「そういうのが難しいんだよ。私に難しいことを言わないで」


 欲が無いのはありがたいが……


 女の子なのにろくにお洒落も出来ない環境は申し訳ない気分になるんだよ。


「ハツでーす」


 すると、店員さんが焼き肉の肉を持って来てくれた。


「ハツか……ビール頼んで良いか?」


「どうぞ」


 タイミングがずれたが、俺は追加でジョッキでビールを注文した。


「まあ、服の種類は無いかもしれないけど、陸上部員として頑張る分の服は揃っているから」


 ハツをテーブル備え付けの焼き網に並べながら


 ……妹は陸上部に入ってるんだよな。

 種目は長距離。


 そのせいで、妹の体型はスレンダーだった。

 太ってると不利になるからね。長距離は。


 で、ビールがすぐに運ばれて来たので俺はハツをつまみに飲む。


 そこで色々話した。

 学校の勉強の事とか。

 部活のこととか。


 あと……男のこととか。


「んー、この間久々に付き合って欲しいって言われたけど……まあ、断った。後から『こんなはずじゃ無かった!』って言われても困るし」


 ……そっか。

 妹のそんな話に、俺は少し寂しい気分になる。


 兄の欲目かもしれんけど、結構可愛いと思うんだけどな。

 コイツ。


 そして……


 2人で注文したものを食べ尽くし。


「ご馳走様」


「おうよ」


 手を合わせてそんなことを言う妹に、俺はそう答える。

 そして見ていた。


 妹がピルケースから、錠剤を取り出して、水をピッチャーから注ぎ。

 服用するのを。


 ……妹は毎食後、薬を服用しているんだよな。


 YH病の発病抑制薬を。

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