第75話 永久死刑囚

『Now let's get the main characters of the game involved!』


 画面が切り替わり、画面に宇宙生物が映し出されたんだ。


 ひとつは惑星E-101原産の生物。


 蟷螂に似た、赤い大きな生き物。


 レッドドラゴン。


 もうひとつは惑星H-232原産の生物。


 人面模様を頭部に持つ、純白のクワガタに似た巨大甲虫。


 ハクタク。


 いずれも危険な肉食の宇宙生物。

 その2頭が、檻に入れられた状態で運ばれて来て


『Now, how long will it take for the number of chickens to decrease to two!?』


 それらがそのフィールドに放される。



『Please let me die already!』


 7人の男女の中、女が悲鳴を上げるように叫んだ。


『Please help me!』


『Please forgive me!』


 男たちが泣きながら叫ぶ。


 そこにレッドドラゴンが羽ばたきながら襲い掛かり。

 男の1人を生きたまま貪り食いはじめた。


『ぎゃああああ!』


 悲鳴。

 悲鳴は英語でも同じなのか。


 そんなどうでもいいことを頭の片隅で考えてしまった。


 惨劇は続く。


 食事が始まったので動きが止まったレッドドラゴン。


 その傍を悠々と、ハクタクが獲物に向かって歩いていく。


 動きはあまり速く無いが、レッドドラゴンの動向を無視するわけにはいかないので、それでも十分な脅威なのか。


 男たちは、唯一の女性である女……茶髪のセミロングの女を捕まえ、ハクタクに向かって投げ飛ばしたんだ。


『You die first!』


『I absolutely hate it! I want it to stop!』


 投げ飛ばされた女は、ハクタクの2本の角……クワガタの大顎にあたる部位に捕まった。

 そしてハクタクは、女を宙吊りにして、普段は折りたたんでいる口吻を女の背中に突き刺した。


 ……その瞬間、俺はテレビのスイッチをオフにする。


 もっと早くに反応するべきだった。

 どんくさ過ぎだ、俺……。


 アレは絶対、現実だ。

 CGじゃない。


 俺は顔から血の気が引いていた。

 酔いも吹っ飛んでいた。


 それは茉莉も同様のようで。


 ……真っ青になっていた。


 彼女はハクタクに殺されそうになった過去があるしな。

 俺以上にショックだろう。


「……大丈夫か?」


 そう、訊く。


 すると……


「うん……大丈夫。あのさ……」


 茉莉は過呼吸になっていて。

 息を落ち着けて。


 携帯端末の画面を見せて来たんだ。


 ……そこには。


 鶏小屋ゲームの詳細が書かれた英語のページが表示されていたんだ。

 俺の英語力は大したこと無いけどさ……


 まあ、読文はギリできる。

 なので翻訳ソフト無しでも、ざっくりと意味を拾えた。


 どうも鶏小屋ゲームというのは……


 宇宙真理国が金を出しているテレビ番組で。

 永久死刑囚を使って、死人が出るゲームをさせる番組らしい。


 多くが永久死刑囚を宇宙生物の餌食にさせ、生き残り2人を当てるゲーム。

 視聴者はSNSで参加でき、生き残り2名を的中させると番組から賞金が出るとか。


「……狂ってる」


 思わずそんな言葉を洩らす。

 宇宙真理国は一般的な倫理観が無い。


 それは分かっていた。

 けど


 ……これは酷過ぎるだろ。


 そう思っていたら。

 茉莉が


「……永久死刑囚って言うのは、高ランクの国民のみを狙ったり、通行人を無差別に殺傷した犯罪者の成れの果てよ」


 そう、教えてくれた。


 永久死刑囚の定義と必要性は以下の通りだ。




 永久死刑囚とは、宇宙真理国の存在を憎悪し、宇宙真理国を攻撃する犯罪を犯した死刑囚である。

 具体的にはA級国民を攻撃した犯罪者。もしくは拡大自殺を企てた者を指す。


 A級国民は人格的に最高であると判定された人間であり、そんな人間に攻撃を加えようと考える行為は社会への反逆である。

 そして拡大自殺を企てて、実行した者は死刑を覚悟している。そんな人間に死刑は抑止力にならず、処罰にもならない。


 こういう人間には死を超えた刑罰を加える必要性があり、永久死刑囚の存在が必要なのだ。


 彼らは1回の死刑では終われない。

 その死までの記憶をクローンに転写され、さらに死刑を経験する。

 そしてさらにそこまでの記憶をクローンに転写。それを永久に続けられる。




 ……クローンへの記憶転写を活用した、疑似的な地獄の再現……

 地獄っていうのは、罪人が極卒たちに責め殺されると、即座に蘇生するらしいな。

 それを科学の力で再現してるのか。


 ……確かにA級国民が触れ込み通り、科学の力で判定された聖人たちであるなら、そんな彼らに攻撃を加えるなんて嫉妬以外あり得ない。

 そんな外道はただの死刑では生ぬるいと思うのは人情だ。

 そして拡大自殺を企てた人間を死刑に処しても、それは「狙い通り」だ。

 犯人を喜ばすだけ。抑止力にならない。


 そういう人間を真に処罰したり、抑止力とするには、永久死刑囚が必要なのかもしれない。

 しれないけど……


 ……だからといって、ここまでするか?

 異常すぎると思った。


 俺がこの現実の異常さを受け入れられずに動揺していると


 茉莉が


「……このページさ、書かれたのここ数日なんだよね。だから……」


 多分、情報封鎖されてるのかも。

 それでも消されても消されても、書いてる人がいるっぽい。


 それが誰なのかは全く分からないんだけどさ……


 ポツリとそんなことを言われた。


 ……俺はそこに世界の闇を感じた。

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