第76話 エントリー

 朝の8時くらいに起きると、相棒は、茉莉は先に起きていた。


 起きて、ベッドに腰掛けて。

 昨日ウイスキーを飲んでたグラスでコーヒーを飲んでた。

 昨日、コンビニで買ったペットボトルの。


 いやあ、酷い顔をしていたよ。


 相棒には悪いが。


 ボケーッとして。

 眠そうで。


 明らかな、寝不足。


「あ、おはよ。リューイチ」


 相棒の挨拶。


「……眠れなかったのか?」


「流石に……」


 頷いた。


 曰く、寝ても毎回ハクタクに殺される夢を見て目が覚めてしまったらしい。

 無理も無いな。


 ……あんなもんを見せられたら。


「災難だったな」


「まぁそうね。流石に」


 お酒飲みながらテレビ見ないで、テレビじゃ無くて一緒にお喋りしていたらよかったね。

 異文化のテレビ番組に興味あったから付けていたけど、本当に迂闊だった。


 そんな後悔を口にする。


「……もし、不眠が続くようなら精神科にかかるわ。こういうの、対処は速やかにした方が良いし」


 そう言って、欠伸をした。




 その場で昨日コンビニで買った弁当を。

 部屋の冷蔵庫から取り出し、表の廊下に設置されている共用レンジで温め直す。


 それで手抜きながら朝食にして。


 身支度、着替え。


 更衣室なんて無いから、互いに後ろを向いて寝巻を着替えた。


 茉莉は昨日と同じ格好。

 俺は黒いシャツと黒いジーパン。


 よし。


 


 大統領御前試合の受付は大統領府で行われる。

 電子申請はできない。


 本人が出向いての直接申請のみだ。


 理由は多分ひやかしの徹底排除だろ。


 便宜を図るとそう言うの、絶対に増えるしな。

 それに本当に参加したかったら、何が何でも来るはずだし。


 俺みたいに。




 純白の巨大建築物。


 宇宙真理国大統領府。

 その外観はギリシャ神話の神殿に似てたな。

 まんまじゃないけど。


 多分、中に入ったら普通の建物なんだろうと思う。


 そこの前に御前試合のエントリーが出来る受付が複数あった。


 そこにはそれぞれ行列が出来ていて。

 その中のひとつに俺は加わった。


 隣で通訳でついてきた茉莉が、腕時計を見ながら


「今が9時だから……あと1時間待ちか」


 そんなことを言う。


 今日の10時から、18時までがエントリー受付時間。

 開始まで1時間猶予があり、受付時間は8時間。

 だからまあ、エントリーは出来ると思うんだ。


 行列もそれほど常識外れじゃないし。


 正月に皇居で行われる一般参賀の大行列よりは遥かにマシ。

 アレはヒデエからな。

 古代からそうだったみたいだけどさ。


 並びながら周囲を見る。

 並んでるのは男ばっかりだった。


 見ればわかるくらい、屈強な男たちだ。


 女は茉莉くらいだ。

 まぁ、当たり前かもしれないが。


「……やっぱ、男ばっかりだな」


「そうね……」


 茉莉も周囲を見てそんな感想を言いかけて


「あ、でも向こうに1人、白人の女性が居るよ」


 そんなことを。


 ……うえ?


 どうやら見落としていたみたいだ。

 俺は茉莉に視線で示された方向に目を向けた。


 そこには……

 首の根本あたりまでの長さで髪を切り揃えた金髪の女がいた。

 瞳の色が超珍しい緑色。


 加えて、妖精みたいな美人だった。

 服装は紺色の女性用スーツ姿で。


(あの人も誰かの付き添いなのか?)


 俺はそんなその人の様子を見て、そんな感想を持った。

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