第77話 茉莉英語無双

「Can I see your ID please?」


 順番が回って来て、受付のノーパソを操ってるお役人にそんなことを言われた。

 お堅い感じの、黒い背広のような職員の制服に身を包んだお役人に。


 えっと、ワカンネェ。


 俺は茉莉を見た。


 すると彼女は前に出て


「What exactly is an ID?」


「A document that proves his identity」


「What exactly is that?」


「National registration card」


「What if he is a foreigner?」


「Passport」


 矢のように職員と英語の会話をする。

 そして


「リューイチ、パスポート出して」


「パスポート?」


 言われたので、俺は肩から下げていた鞄から、旅券……パスポートを取り出した。

 ここ数百年、一切在り方が変わっていない重要アイテムを。


 昔は何で電子化しないんだとか思っていたけど。

 こういうの、電子化すると偽造がモノとしてある場合よりも実現化しやすいんだよな。


 そういうの


「紙に書いた文字はハッキング出来ない」


「紙に書いた文字にはウイルスが乗らない」


 ……こういう言葉を聞いたときに理解してしまった。

 アナログはアナログで長所があるんだよな。



 パスポートの提示で大統領御前試合のエントリーが完了する。

 職員が俺に紙の資料を渡しつつ


「The procedure is over. You can now participate in the match」


 何か英語で言った。


 ……えーと。


 意味が分からず困惑していると。

 茉莉が


「これで試合に参加できますよ、って言ってる」


 アリガト……




「予選バトルロイヤルは明日の朝8時から、大統領府の庭でやるのか」


 資料は紙に印刷された文字なので、英語でもなんとか。

 俺でもざっくりと意味は拾える。


 さらに知らない単語に関して携帯端末で調べれば、まあだいたいは納得の読文はできるわけで。


 とりあえず今日はこれでやることが無いので、特に目的もなく歩き、近場の公園のベンチで資料を読む。


「まあ、リューイチなら特に問題なく予選を勝てると思うけど。油断しないでね」


 隣で座っている茉莉がそんなことを


「……どうかなぁ?」


 宇宙真理国では技道場、ってもんがあるそうだし。

 こういうところに来る武芸者、そこで阿比須族滅流……? それの技を購入してるんじゃ無いのかね?


 そうすると、阿比須の技の優位性、それほど無いかもしれないぞ?


 そう、返そうとしたら


「おお、無事にエントリー完了したんでございますか」


 ……これまで何回も聞いてきた変な日本語が聞こえて来た。


 流石に顔を見なくても分かる。


「……リチャードさんか」


 顔を上げると。

 そこには居たんだ。


 この御前試合の存在を教えてくれた一応の恩人の白人男性。


 ……リチャード・エンマが。

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