第48話 ゼロか100か
物陰に隠れて、しばらく待ってみた。
すると……
ザッザッザ、と音がして。
穴からバーサーカーアントが出てきたんだ。
何か咥えながら。
……それは
「卵?」
そう。
卵に見えた。
赤い巨大蟻が、白い卵を咥えて穴から出てきたんだ。
ゾロゾロ、ゾロゾロ。
「おお……」
相棒が感動に震えていた。
胸の前で手を組みながら。
まるで夢見る乙女。
……何が起こった?
「なぁ、これは一体どういうことなの?」
解説を求める!
すると彼女は語り出した。
「あのさ、私ね、昔に団地で住んでいたんだけど」
うんうん。
「団地の傍に、蟻の巣があったのよね。周辺の土地に」
うん。
「……私さ、その蟻の巣に棒を突っ込んで遊んでいたら……最終的にゾロゾロゾロゾロ」
卵を咥えた蟻が行列作って出てきたのよ。
あのときは感動したなぁ。
そんな思い出話を嬉しそうに語った。
……何してんの。相棒。
正直、ちょっと引いてしまう。
それ、女の子の遊びじゃ無いんじゃないの?
つまりあれか。
相棒が蟻の巣を悪戯していたら、蟻が耐えかねて巣を放棄した、と。
それと同じことが今、ここでも起きたと。
「しかし……何で真正面から逃げるかね」
その話と……今この目の前で起きていることを指して俺は言った。
逃げ方が堂々とし過ぎているというか……
こんな行列作って逃げてたら、外敵に一網打尽にされるんじゃないのかと。
外敵にやられたから逃げるんだろ?
そうじゃないのかよ。
そしたら相棒は
「昆虫はゼロか100なのよ」
知識を披露してくれた。
昆虫は生き残る数を増やすため、逃げる方向を調整するとか、脱出口を別に用意しておくとか。
そういう発想が無いらしい。
逃げるなら正門から堂々と。
囮を用意してそいつがやられている間に残りが……というのは無い。
他にも。
食事中はずっと食事するし、交尾すると決めたらずっと交尾を続ける。
そういう生き物だそうで。
「だからまぁ、彼らはリューイチの大暴れと、私のガス弾での嫌がらせで巣の放棄を決めたんでしょ。で、それを今、全力で実行している」
出来るかどうかは賭けだったけど。
私の子供時代の悪戯の結果を思い出して、やってみる価値はあるかなーと。
……なるほど。
相棒の語りで、俺は彼女の生き物好きの暗黒面を見た気がした。
っと……
見ていると、ゾロゾロの中に……
1匹、腹が風船みたいに膨れて、2メートル大になった個体が出現。
あ。
「出た。女王よ」
生け捕りなんだよな。
で、必要なのは彼女の卵子……だよな?
俺は相棒を見る。
すると
「蟻の雄は単為生殖だから」
了解。
……じゃあ、あの女王蟻には足は要らんな。
決断し、俺は隠れている場所から飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます