第49話 歴史は繰り返す

 とりあえず、捕獲に邪魔な部分を取り除いた女王蟻を。

 具体的に言うと「阿比須龍拳奥義・達磨転倒だるまさんがころんだ」で足を切除した女王蟻を。

 反重力カートに乗せて。


 俺たちの宇宙船に向けて運んでいた。

 女王蟻はギチギチ暴れているけど、だるまさんなので動けない。


 反重力カートというのは、折り畳み式の物資運搬道具で。

 俺たちの標準装備のひとつ。

 反重力で浮いているカートだ。


 普通のカート……つまり台車は後ろから押して運ぶわけだけど。

 この反重力カートは引っ張って運ぶんだ。


 この「引っ張り」だけど。

 別に見た目通り100%自力じゃなくてね。


 引っ張った方向に、補助が入るのでかなり楽に引っ張れる。

 浮いてるから地形にも左右されないし。

 つまりガタガタ言って揺れたりしない。


 非常に、有用。

 気分的には犬の散歩に近いかもしれない。


 ……犬飼ったことないけどな!


 とても楽ちんに運搬が進んでいる。

 そのせいか、ポツリと相棒が言葉を漏らす。


「うん。怖いくらい楽勝で終わってしまったね」


 反重力カートを操作する紐を引っ張りながら。

 確かに。


 もっと難航すると思っていたのに。


 バーサーカーアントの巣は、直径100メートルの範囲に及ぶくらい、デカくなるという話だったし。

 そんな巣穴に、潜り込んで女王蟻を探す。


 ……これは厳しい。

 どう探せと言うんだ。


 だけど


「物事があまりに楽に終わると、後に何かあるかと思ってしまうな」


 そう言ったら、相棒は前を見たまま


「このまま楽ちんのお仕事で、地球に帰りたいわ~」


 祈りの言葉を漏らす相棒。

 それについては本当に同感だ。


 植物環境だけは地球に似てるこの惑星ホシS-768。

 青臭い中、草をかき分け、枝を払いながら進む。


 すると時折、草から虫が飛んでいく。


 ……通常サイズの昆虫もいるのな。


 そして森を抜けて……


 その先。

 俺たちの宇宙船「アマノ33号」を着陸させている場所に。

 開けた広場だ。


 ……そこに誰かがいた。


 体長が4メートルくらいある蟲と一緒に。


 え……?




 その誰かは、茶色の全身タイツに似た宇宙服を身に着けている男性で。

 中年の白人男性だった。


 彼は俺たちを発見すると

 目をひん剥いて、口から激しく唾を飛ばしながら


「Fucking Jap! Shame on you!」


 と、大声で言ってきたんだ。

 何か俺たちを非難しているな。


 いや、何かとかじゃないわ。


 ……あ? 今なんつった?


 いやね、俺だけでなく相棒も青筋立ててたけどさ。

 それ見なくても分かったさ。


 ファッキンジャップぐらい分かるよ馬鹿野郎!

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