第108話 悪魔
殺した。
俺が。
こいつは間違いなく極悪人だ。
どこで野垂れ死にしても同情されないゴミだ。
だが俺は殺したんだ。人を。
こいつにも人生があったはずだ。
それを全部否定して、消したんだ。
俺は倒れて動かなくなった黒人の男を見て、そんなことを思い。
思考のスパイラルに陥りそうになる。
命を失い、目から光が消えた黒人の男。
さっきまで普通に会話をして、息をしていた……
「……う」
まずい、と思った。
このままじゃ戦えなくなる!
だから俺は
「ウオオオオオオオオ!!」
思い切り、吠えた。
考えるのを止めろ!
こいつらを1人残らず殺せ!
それ以外、俺たちが助かる道は無い!
助からなければ、茉莉がこいつらに売り飛ばされる!
こいつらの言ったことから、俺は頭の片隅で想像した。
逃亡防止用に、発信機つきの電子制御首輪をつけられ、反抗的な態度を取れば即座に電気ショックを与えられる立場になり。
どこかの闇の金持ちの玩具にされ、地獄の日々を送る彼女の姿を。
最初は泣いて暮らしていた彼女も、いつしか自分の心を守るために奴隷の立場を受け入れ、何をされても笑っていられる人間になる……。
それは絶対に許せない。
もう、殺すしか無いんだ。
そう、殺すしか……!
「Simon! What happened to you!?」
宇宙海賊たちは予想外の出来事に、真っ青になって倒れた仲間の黒人の男に駆け寄り、その生死を確認していた。
そして脈を取ったり目を見たりで、仲間が死んでいることに気づいたらしい。
「How cruel……! This response is terrible because they were just trying to sell the scum as slaves!」
そして宇宙海賊たちは俺を睨んで来た。
涙を浮かべながら。
……助かったと思った。
こいつらが仲間意識が強かったお陰で、俺が殺人の重さを誤魔化すまでの時間が得られたんだから。
奴らのうち、東洋人2人が腿にくっついている実弾拳銃のホルスターから自動拳銃を抜き、俺に向かって発砲してきた。
俺は顔を庇う形で身構える。
銃弾は俺の着用していた作務衣をズタズタにしていくが、俺自身は何のダメージも受けない。
阿比須龍拳奥義・鉄身五身……!
そして銃弾を撃ち尽くしたと感じ取った瞬間。
俺は飛び出して、別の奥義を繰り出した。
阿比須龍拳奥義・
俺の闘気が籠った両手が、すれ違いざまにその東洋人2人を斬首した。
……同じ奥義を続けて使うと攻略される。
そんな武芸者の本能で別の奥義を出したんだ。
それがどれだけ残酷な結果を出すかを考える余裕は無くて。
斬首された2人、肺を失ったせいでの酸欠で死ぬまで、生首状態で生きてたみたいだ。
この奥義は痛みと出血を抑えるから。
後で知ったことだけど。
「デ、デビル!」
白人の男の英語がなんか聞き取れた。
知ってる単語で、1つだけだったからだろうけど。
文章で言われると音の連結や欠落が出るから一気に分からなくなるんだよな。
白人の男も銃を抜いた。
拳銃だ。
だけど
俺はその銃に、違和感を感じた。
……実弾銃じゃない。
直感だ。
茉莉が良く使う装備……レイガンにデザインが似てるんだ。
違うのは……バッテリーに繋ぐためのコードの有無。
こいつにはコードが無い。
コードが無いならレイガンは使用できない。
けど……
俺は直感に従い、白人男の握る銃の銃口上の射線から、自分の身体を外した。
その瞬間だ。
ジュッっと。
その拳銃から、光線が発射されて床を焼いたんだ。
……マジか!?
クソデカバッテリー抜きで使用できるレイガンだって!?
混乱しそうになるが、俺は自分を抑える。
技術は日々進歩してるんだ!
そういうこともあるかもな!
流石にレーザービームは鉄身五身で防ぐのは無理だ。
というか、防げない可能性が高い!
やったことが無いからな!
だから絶対に貰うわけにはいかない!
「Damn it!」
白人男は俺を射殺し損ねたと舌打ちし、狙いを付け直すが……
何故か一瞬の戸惑いがあった。
俺はそれを見逃さず、間合いを詰めて男のレイガンを握る右腕を、奥義の廻し蹴りで蹴り飛ばす!
阿比須龍拳奥義・
2トントラックのフルスロットルに匹敵する衝撃が男の腕を襲い、男の右腕があり得ないレベルでひん曲がった。
「GYAAAAAAAAAA!!」
レイガンを手放し、真っ青になって倒れ伏し、のたうち回って苦しむ男。
戦闘不能だ。
……こいつも止めを刺す必要があるが、あと1人残ってる!
そう思い、振り返ろうとしたときだった。
「動くな! 女を殺すぞ!」
……日本人男の強い言葉がその場に響き渡ったんだ。
それが何を意味するのか……そんなこと、ひとつしかない……!
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