第67話 希望の光

「……なんでアンタがここにいるんだ?」


 俺の口から出てきた言葉はまずそれで。

 この男がいるということは、何かしらこの惑星ホシに用事があるってことだ。

 気まぐれでフラリと立ち寄るってことはおそらく無い。


 ……加えて


 この惑星ホシはまだ改造途中で、他国の立ち入りが許可される状況じゃ無いはず。


 だから、何かしら用事があるはずなんだ。

 しかもかなり物騒なやつ。


 するとにこやかに


「そこの犯罪者を追いかけて来たんでございます」


 スッと。

 へたり込んだままのタクマを指差して。


 ……なんだって?


「……この男の宇宙真理国で受けたサービスって、違法だったんですか?」


 リチャードの言葉に対して俺が言葉を発する前に。

 茉莉が言ってきた。


 それが俺が聞きたかったことだったので、俺は発言は相棒に任せることにした。




「ええ。公共性の無い行為は宇宙真理国では厳罰に処されるでございますよ」


 あっさり肯定される。


 曰く、タクマはヤミのサービスを受けたそうだ。


 元々、治療目的の入国で。

 不治の病の治療を目的として、宇宙真理国に入国したそうだ。


 で、入国した後セルフクローン治療をヤミで受けた。

 入国時に宇宙真理国政府に提示した医療施設の名前は虚偽で、示した資料は全て偽造。


 それが発覚したので、リチャードは猟犬としてタクマを追って来たらしい。


「YH病の治療目的と言ってましたね」


 苦笑しつつ、リチャード。


「男なのに!?」


 茉莉が驚きの声をあげた。

 苦笑の表情のまま、リチャードは語った。

 タクマを指差しつつ


「……入国時、こいつは性転換手術と全身整形してたでございます」


 銀河指名手配犯に対する政府の目から逃れるのに、性転換は良い手かもしれない。

 普通は取り返しのつかない手術だから、まさかそんな手術を受けているとは想像していないから。


 後でセルフクローン治療を受ける予定なら、決断もしやすいだろう。

 施術さえ受ければ新しい自分になれるのだし。


 古い身体の性器を取ってしまっても、別に問題は無いはず。

 新しくしたらまた生えてるわけだし。


 そんな感じのリチャードの解説が後に続いた。

 タクマの性転換に対する、納得できる理由。


 ……


 ……俺は。

 それよりも。


 俺は、衝撃を受けていた。


 YH病はセルフクローン治療で治るのか……?


「あのさ、その話本当か……?」


 思わず、訊いていた。

 リチャードは俺に対して


「本当でございますよ。タクマは性転換を……」


「そっちじゃなくて!」


 ……思わず、声が大きくなった。


 待ち望んでいた言葉だったから。


 YH病の治療法……


「YH病の治療……」


 YH病は、自然妊娠が出来なくなる病気。

 発症すると生理が止まる。

 排卵が起きなくなるんだ。


 そして仮に体外受精させた受精卵を子宮に戻したとしても、着床しない。

 本当に、子宮が使用不能になる病気。


 そうなる理由は不明。

 感染経路も良く分かってない。


 その病気が治るのか……?


 セルフクローン治療で治る……?


 すると、リチャードは一瞬呆気に取られた顔をして

 そして


「ええ。治療です」


 ……認めた。

 だから俺は


「治療できるのか?」


 再確認した。

 そんな俺にリチャードは頷き


「出来るでございますよ。実績もございますし」


 ……俺の目の前に光が差した気がした。

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