第68話 呪いを解きたいんだ

「……セルフクローン治療で治る……」


 独り言を口にした。


「リューイチ……?」


 俺の様子に、茉莉が戸惑っていた。


 リチャードは変わらずにこやかだった。

 ただ、俺が何を言おうとしているのか予想はしていないようで


「YH病の治療に興味があるのかです?」


「……妹がそうなんだ」


 俺の言葉に、リチャードが気の毒そうな顔をする。


「それはそれは……ご愁傷さまです」


 ご愁傷様って……それ、お悔やみの言葉やん。

 使用間違ってるよ。


 そう思ったが、それは話の本筋じゃ無いな。

 無視した。


 そして続ける


「なぁ、一般人がセルフクローン治療を受ける方法ってあるのかな?」


 そんな俺の言葉を聞き、茉莉が動揺する。


「え? ちょっと待って。マジで? ……リューイチ?」


 そしてこう続ける


「セルフクローン治療って、身体を乗り換える治療だよ? ……本気なの?」


「魂のアリバイだとか、そう言う理屈付けがあるんだろ? それにタクマは、乗り換え前の人格そのままで生まれ変わっていたじゃないか」


 ……俺は立ち合った者として、肌で感じた。

 この男は親父を立ち合いで倒した武芸者そのものだ、って。

 コピーとかそんなんじゃない。

 アレは本人だった。


 本人でなければあの妄執は無い。

 理屈じゃない部分で感じたんだ。


 だから俺は文字通り、身体を一新する治療だと理解した。


「セルフクローン治療は、外国人には一般では公開して無いんでございますが」


 リチャードの言葉。


 ……そういえばタクマはヤミの治療って言ってたな。

 一般人は違法業者に掛からないといけないのか?


 いやでも、リチャードは宇宙真理国でも違法行為をされたから追って来たんだよな……?

 それにタクマは入国時は書類まで用意して……


 ああ、なんかゴチャゴチャしてきた……


「俺の妹にセルフクローン治療をしてもらう方法ってあるのかな? ……無論、可能な限り合法的に」


 良く分からないややこしい部分は考えることを放棄した。

 本丸を攻める。


「リューイチ……」


 動揺している茉莉。

 なんというか……何て言えばいいのか迷っているようだ。


 だから俺は


「……俺が小学生だったとき、クラスメイトに人工子宮で生まれた子がいたんだ」


 俺は話した。

 世の中の残酷さを。




「確か親が晩婚で、女性の妊娠適齢期過ぎてて、やむなくって話だった気がする」


 女の子だったよ。

 参観日に来た彼女のお母さんが周りより老けてて、話題になったんだ。


 ……そんなこと話題にするなと大人は思うけどさ。

 子供は知能が足りないから、やるんだよな。


 で、その流れで言ってしまったんだ。

 その子。


 意味も分からず、馬鹿正直に。


 自分を産むためにお母さんは人工子宮を使ったんだよ、って。


 そしたら


「……人工子宮って確か豚さんのことだよね……? 〇〇ちゃん、豚さんから産まれたの?」


 クラスで、余計な知識だけあるヤツにそんな心無い言葉を言われて。


 その子は泣きだした。

 その子は知らなかったんだ。


 人工子宮って何なのか。


 そのとき俺は……

 人工子宮ってやつで生まれた人間は、嫌なものを背負わされるんだ、って思うに至ったんだ。


 ……茉莉は顔を強張らせた。

 彼女もあまり考えて来なかったのかな。


 法的に差別が禁止されてても。

 無くならない差別ってあるんだな、ってことに。


「だから俺は、妹がセルフクローン治療で普通の女の子になれるなら、使わせてやりたいんだよ」


「……分かった。理解したよ」


 俺の言葉に、茉莉は頷いてくれた。


 認めてもらえたんだ。

 相棒として。


 そんな俺たちの様子に、リチャードは


「……あなたにはバルーンビートルの件で借りがありますですな」


 そう言って、話してくれたんだ。


 ……一般の人間が、可能な限り合法的にセルフクローン治療を受ける方法を。

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