7章:宇宙真理国へ

第69話 暗黒の国へ

 俺は羽田空港で、長椅子に座って茉莉を待っていた。


 待ち合わせだ。


 ……一緒に、宇宙真理国に行くための。




「セルフクローン治療を受けるためにはでございますが」


 リチャードはあのとき、説明してくれた。

 比較的真っ当な方法は、2つあるらしい。


 ひとつは普通にお金を積む方法。

 ただし、それは希望者に犯罪歴がないことが前提条件で。

 あと、金額はおよそ5000万円くらい積む必要がある。


 ……タクマの奴は、そんな金をどこから捻出したんだろうか……?

 まあ、武術の腕を闇の方法で活用すれば、ひょっとしたら可能なのかもしれない。


 けれど、いち会社員の俺には無理な額だ。

 だから、この方法は却下だ。


 で、もうひとつが……


 大統領御前試合で、勝利する。


 これだ。



 ……聞くところによると、宇宙真理国では春と秋、年2回。

 大統領御前試合というものが開かれる。

 そこで勝つと、勝者の特典として


 宇宙真理国の最先端科学技術の恩恵を、1つだけ無料で受けられる。


 ……という話なんだ。


 御前試合の詳細は、まず参加者同士で最後の1人になるまでバトルロイヤル方式で仕合を行い。


 そこで勝ち残った武芸者が、今度は宇宙真理国で最強の調整を行われた怪人兵器と戦う。

(ちなみにこっちは果し合い。バトルロイヤルは相手の参加証を奪うだけで良いんだけどな)


 そこでも勝てば、自身のDNAを宇宙真理国に提供することの見返りとして、その勝者の特典を受けられる。


 こういう仕組み。


 ……ちなみに。


 ここ10年ほど、最後の課題をクリアした武芸者はいないそうだ。


 皆、敗れ去って殺されて。


 その後クローン再生されて、申し訳程度のオリジナルの記憶を植え付けられ、表面上は何もなかったような感じで帰国したそうだ。


 この辺の話を聞いたとき、茉莉は


「そんなのダメだよ!」


 ……すごい剣幕で否定して、俺に思い留まれって言ってきた。

 でもさ……


「俺はどうしても、妹に真っ当な女の子の一生を送って欲しいんだ」


 この一言で、彼女の気遣いを否定した。

 正直、申し訳なく思う気持ちはあるが……


 YH病の完治。


 このことの前には、俺はやらずにはいられないんだ。


 だって俺は兄ちゃんだから。


 もう、親がいないんだからな……。




 そんなことを考えながら。


 俺は旅券を眺める。


 ……宇宙真理国と日本は国交が正式には無い。

 ルートを探すのが本当に、大変だったよ。


 1回、中国に行って、そこから行くんだ。

 中国の宇宙港からしか、宇宙真理国行きの宇宙船は出ないから。


「リューイチ」


 そこで相棒に、茉莉に声を掛けられた。


 待ち合わせの時間の5分前……

 まぁ、遅刻では無いよな。


 顔を上げると、黒のベレー帽と黒めの上下。

 スカートではなく、ズボン。


 動きやすい、活動的な恰好。

 そんな相棒。


「待った?」


「少し」


 お決まりの挨拶の後。

 手続きをするため立ち上がった。


 ……宇宙真理国には、茉莉がついて来てくれる。

 俺と一緒に、1週間の有給休暇を取得してくれたんだ。


 彼女は通訳の役目をしてくれるって言っていたけど。


 それ以上に、心強さがあった。


 たった1人で、日本と正式国交が無い国に行くのは流石に不安があったから。

 感謝しても仕切れないものを、俺は感じていた。

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