第70話 科学の国
「……えっと、ここの意味が処罰、だから……子供の不始末は親が処罰されます?」
俺は旅客宇宙船内で暇だったから、携帯端末の翻訳機能を使いつつ、中国語のパンフレットを読んでいた。
中国語で書かれた宇宙真理国のパンフレットを。
そこには旅行者が気を付けるべき宇宙真理国の常識について書かれていた。
まず、犯罪行為は絶対にするなとあった。
宇宙真理国はわずかな金額でも窃盗を処罰する。
ポイ捨て、立小便も同様。
警察による口頭注意では済まされない。
ここでもし、警察官に抗議をすると罪状が増加し、下手すると死刑もありうる。
……順法精神の無い者は排除する。
そういうのが宇宙真理国のやり方だそうだ。
……中国では「重大犯罪を重く処罰し、軽犯罪はなぁなぁ」が法的な対応らしいしな。
このパンフが中国製であることを考えれば、1番最初の警告がそれなのも頷ける。
その他にも色々あったけど、ド肝を抜かれたのはそれで。
次に驚いたのが、子供のやらかしは親が処罰される。
これだった。
宇宙真理国では子供の生まれ方には2種類あって。
ひとつは自然妊娠。
所謂フツーの恋愛の果ての妊娠。
これは自由ではなく許可制で。
行うには要求される条件があり、それは後で説明する。
まず先に、もうひとつの話をさせて欲しい。
そのもうひとつが、国民生産。
つまり人工子宮を活用した、人工受精による工業的な人間生産だ。
毎年、人間工場で規定量の人間が生産され、機械的な教育を受け、社会に出ている……らしい。
こういう人間は、成人するまで教育機関から出て来れなくて。
出た後は、やらかしの責任は自分で取る。
そういう、普通の人間の対応がされるんだけど。
先に言った自然妊娠。
こっちが問題で。
まず、これが許可される条件なんだが……
自然妊娠に関わる男女がA級国民である、ってことなんだよな。
A級国民っていうのは
犯罪歴無し
人格指数300オーバー
知能指数100以上
この要件を満たしている人間。
それ以外は妊娠は犯罪である。
そうなっているそうだ。
……宇宙真理国では育児はエリートの特権なのか。
まあ、条件に年収が無いから、エリートって言うのは違うかもしれないが。
で、子供を持つことを許されても。
子供がやったことで、そこに他人に迷惑を掛ける行為があった場合。
親が処罰されるんだ。
主に罰金。
最低でも日本円で数万円。
……きっつ。
「……リューイチ。そろそろ着くよ?」
隣の席で、宇宙船内で配信されている無料漫画を手元の端末で読んでいた茉莉が、俺にそう言ってきた。
俺は彼女に視線を向けて
「……宇宙真理国って……きっついな」
正直な感想を言う。
真実の宇宙真理国ってどんななのかは調べてなかったから噂でしか知らなかったんだが。
リアルは噂ほど酷くは無かったけど……
異常ではないと言えるほど、普通でも無かった。
「まあ、科学的な国なんだよ。別に人工子宮あるんだし、男女の交わりが必ずしも必要じゃないというか……」
むしろ親になる資格がない人間に勝手に子作りをされるのは、社会全体から見れば迷惑である。
そういう考え方なんだよね。
国民の数は工業生産で自在に調整できるんだから。
……そんなことを彼女は言い
スッとさっきまで自分が漫画を読んでいた端末を渡して来る。
「これは……?」
俺がそう訊くと、ニコニコしながら茉莉は
「宇宙真理国の漫画家さんの書いた少女漫画。面白いから読んでみて」
そんなことを言われる。
少女漫画ぁ?
……まあ、相棒の言うことだしな。
無下に断るのも無いか。
なので、読んでみた。
……結構面白かった。
人格指数300オーバーの判定が出ないと、大好きな彼と結ばれることができない。
そして自分だけではなく彼も同じように人格指数が300無いと駄目だ。
そんな男女2人が、出来た人間って何なんだと思考しながら恋愛していく話。
……宇宙真理国の社会制度が無いと出てこない設定だよな。
読んでてそう思った。
そして漫画を読み終わるころ。
宇宙船のアナウンスが鳴って、その中の日本語で
『間もなく宇宙真理国中央宇宙港に到着です』
そう、言われる。
……いよいよか。
俺は端末を茉莉に返し、着陸準備で席の安全ベルトを締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます